Adrian Gurvitz - Sweet Vendetta (1979)
Adrian Gurvitz『Sweet Vendetta』レビュー
Adrian Gurvitzの『Sweet Vendetta』は、1979年に登場したソロ・アルバムで、彼のそれまでのハードロック寄りの活動から一歩外へ出た作品として位置づけられる。前身にはThe Gun、Three Man Army、さらにGinger Bakerを迎えたThe Baker Gurvitz Armyがあり、ギタリストとしてのキャリアを重ねたうえで発表されたのがこの一枚になる。日本盤はJet Recordsからのリリースで、帯とインサート付きの仕様。レーベルの時代感も含めて、70年代末のAOR文脈をそのまま閉じ込めたような内容だ。
このアルバムがよく語られるのは、単に「ソロ作だから」ではなく、当時の洗練されたアメリカ西海岸系のサウンドと、Adrian自身のギタリストとしての持ち味がかなり自然に噛み合っているからだろう。ボーカル主体のAOR作品でありながら、随所でギターが前に出る。しかも歪みを強くかけるのではなく、音の輪郭を保ったままフレーズを置いていくので、ハードロック時代の人という先入観とは少し違う表情が見えてくる。
作品全体の印象
聴いてまず分かるのは、リズムの組み立てがかなり丁寧なことだ。ディスコ以後のグルーヴ、フィラデルフィア・ソウル的な滑らかさ、そして当時のAORらしい整ったバンド感が、曲ごとに少しずつ形を変えながら並んでいる。派手に押し切るアルバムではないが、各パートの役割がはっきりしていて、演奏の隙間に気持ちよさがある。そうした作りのため、派手なフックよりも、数回聴いたあとに残る手触りのほうが強い作品に感じられる。
制作面では、当時のAORやポップ・ロックの定番に近い音作りが聴き取れる。特にキーボード、ブラス、ギターの配置は、同時代の洗練されたロサンゼルス系サウンドを思わせる。Adrianの声は厚みで押すタイプではなく、むしろ軽さがある。そのため、曲によってはファルセット気味の歌い回しが印象に残る。ここが好みの分かれ目になりそうだが、少なくともこのアルバムでは、その細い声質がアンサンブルの中でうまく機能している。
注目曲「Untouchable and Free」
1曲目の「Untouchable and Free」は、このアルバムの入口として分かりやすい。ビートの運びが軽く、70年代後半らしいダンス・フィールを持ちながら、ロック作品としての骨格も残している。ここではエド・グリーンのドラム、Steve Porcaroのシンセ、David Paichのストリングス・アレンジ、Jerry Heyのブラス、Fred Tackettのギターといった布陣が耳を引く。音の並びだけで当時のAORらしい空気が伝わる曲で、冒頭からアルバムの方向性を明確に示している。
この曲は、単に軽快というだけではなく、各パートがきっちり役割分担しているのが面白い。ブラスが前に出すぎず、シンセが空間を埋め、ギターがリズムの中で細かく動く。ボーカルもその上に乗る形で、全体としてはかなり整理された印象だ。AORの中でも、ディスコ以後の都会的なリズム感を強く意識したタイプとして聴ける。
注目曲「The Wonder of It All」
2曲目の「The Wonder of It All」は、アルバムの核といえる1曲だろう。メロウで、ギターの音が柔らかく、曲全体の温度が少し下がる。そのぶん、旋律とコード進行の動きがはっきり見えやすい。ギターはFred Tackettが担当しており、演奏の輪郭が滑らかで、歌を邪魔しない。それでもただの伴奏に終わらず、曲の中心にある空気を支えている。
ドラムの締まりもこの曲の重要な要素だ。Jeff Porcaroのタイトなプレイが、ゆったりした曲調に芯を与えている。いわゆる「AORらしさ」がもっとも分かりやすく出るのがこの曲で、派手な展開は少ないのに、何度か聴くと細部の組み立てが効いてくる。アルバム全体の印象を決定づける代表曲として扱われるのも納得しやすい。
注目曲「Love Space」「The Way I Feel」
「Love Space」では、1曲目にあった都会的なグルーヴがさらにソウル寄りに寄っていく。Adrianの歌い方はここでも細身だが、そのぶんファルセットの使い方が目立つ。過剰に太い声で押さないぶん、曲の軽快さや浮遊感が保たれている。冒頭のギター・ソロも印象的で、元ハードロック系のギタリストという経歴からは少し意外なくらい、音色は柔らかい。むしろジャズ・ギター的な感触に近い。
「The Way I Feel」は、リズムの噛み合いが気持ちいい曲だ。Jeff PorcaroとDavid HungateのTOTO組が土台を作り、その上でAdrianのギターが自然に走る。中盤から終盤にかけて、ギターソロに対してリズム隊が反応していく流れが分かりやすく、演奏の緊張感が出る。ディストーションを前面に出さない音作りなので、フレーズの細部まで聴き取りやすいのもこの曲の利点だ。
まとめ
『Sweet Vendetta』は、Adrian Gurvitzがそれまでのバンド活動で培ってきた演奏力を、1979年という時代のAOR語法にうまく載せた作品といえる。ハードロックの人が突然ポップ寄りに振れた、という単純な話ではなく、ギター、リズム、アレンジ、歌の置き方まで含めて、当時の洗練されたサウンドにきちんと接続しているのが面白い。後年のヒット曲「Classic」で知られる前段として見ると、その後の表現につながる要素もすでに見えてくる。
日本盤は1979年リリースで、帯とインサート付き。Jet Recordsの時代感を持つ一枚として、70年代末AORの空気をそのまま伝える内容だ。派手な一発より、曲ごとの配色や演奏の組み合わせで聴かせるタイプのアルバムとして記憶されやすい作品だと思う。
トラックリスト
- A1 Untouchable And Free 4:57
- A2 The Wonder Of It All 4:13
- A3 Put A Little Love (In Life's Heart) 6:15
- A4 Love Space 4:46
- B1 The Way I Feel 5:14
- B2 Time Is Endless 3:57
- B3 I Just Wanna Get Inside Your Head 3:56
- B4 Free Ride 5:26
- B5 One More Time 2:50
動画
- Adrian Gurvitz - Love space
- ADRIAN GURVITZ TIME IS ENDLESS ,, from ,, SWEET VENDETTA
- Adrian Gurvitz / The Wonder of It All
- Adrian Gurvitz / Put A Little Love (In Life's Heart)
- Adrian Gurvitz - The Way I Feel
- ADRIAN GURVITZ i just wanna get inside your head
- One More Time
- Untouchable and Free
- Free Ride