Amy Winehouse - Lioness: Hidden Treasures (2011)
Amy Winehouse『Lioness: Hidden Treasures』――遺された声をまとめた2011年の一枚
Amy Winehouseの『Lioness: Hidden Treasures』は、2011年にリリースされた編集盤である。オリジナル作品というより、未発表曲、別テイク、デモ、カバーを含む“遺された音源”をまとめた内容で、Amyの活動を振り返るうえで重要な位置にある作品だ。リリースは彼女の死後で、本人の新作アルバムとしての流れとは少し異なるが、2000年代のR&B、ソウル、ジャズ、レゲエ・ポップの文脈に強く結びついた音像は、ここでもはっきりしている。
この盤はヨーロッパ盤で、ゲートフォールド仕様。12インチのインサートにはRonsonとRemiによるコメントとクレジットが入っている。180グラム級の重量盤仕様だが、盤面やジャケットにその表記はない。EU製で、コピーによっては裏ジャケットに「Made in Czech Republic」のステッカーが貼られていることもある。レーベル表記はIsland Records Group (279 060 3)。
作品の位置づけ
Amy Winehouseは、2003年のデビュー作『Frank』で注目を集め、2006年の『Back to Black』で一気に時代を代表する存在になった。特に『Back to Black』は、60年代ソウルの感触を現代のポップ・アルバムとして組み立て直した作品として広く知られている。『Lioness: Hidden Treasures』は、その後に残された音源を通して、Amyがどの方向へ進みうる歌手だったのかを示す記録のような位置づけにある。
収録曲は、完成度の高いアルバムとして整然と並ぶというより、制作時期や性格の異なる音源が並ぶ構成だ。それでも、声の芯の強さ、フレーズの置き方、言葉の切り方には一貫性がある。ソウルやジャズを土台にしながら、レゲエやファンクのリズムを自然に抱え込む感覚も、彼女らしいものだ。
代表曲1「Our Day Will Come」
この作品の中でも耳に残りやすいのが「Our Day Will Come」だ。もともとは1963年にRuby & the Romanticsがヒットさせた曲で、Amy版では軽やかなリズムと柔らかなコーラスが前に出る。原曲の持つ素朴な明るさを残しつつ、Amyの歌はもっと低い温度で進む印象がある。声を大きく押し出すのではなく、ひとつひとつの音を置いていく歌い方が中心で、そこに独特の落ち着きがある。
この曲では、彼女の歌唱が“派手さ”ではなく“間”で魅せるタイプであることがわかりやすい。伴奏の隙間に声が入るたび、曲全体の輪郭が少しずつ締まっていく感覚がある。ソウルのスタンダードを自分の速度に引き寄せる、というより、曲の中に自然に溶け込むような歌い方だ。
代表曲2「Valerie」
「Valerie」も、この時期のAmyを語るうえで外せない一曲だ。もともとはThe Zutonsの楽曲で、Mark Ronsonと組んだバージョンはすでに広く知られていたが、この編集盤に入ることで、Amyのレパートリーの中での存在感が改めて確認できる。跳ねるリズムと短いフレーズの応酬が中心で、ライブ感のある推進力がある。
この曲のAmyは、細かい音符を追いながらも、語尾の処理でしっかり個性を出す。テンポが速くても言葉が流れきらず、ひとつずつ引っかかる感じが残る。バンドの勢いに対して、歌が前へ前へ出るというより、少し後ろからリズムを押し返すような立ち位置で、そのバランスが面白い。
注目曲「Wake Up Alone」「Tears Dry」系の流れ
オリジナル曲としての魅力が見えやすいのは、内省的なムードを持つ楽曲群だ。Amyの作品では、恋愛や孤独を直接的に歌いながらも、言葉を飾りすぎない書き方が特徴になっている。この編集盤でも、そうした曲ではメロディより先に感情の輪郭が立つ。声量で押すのではなく、息の混ざり方や語尾の切れ方で心情を伝えるタイプの歌唱だ。
『Back to Black』の系譜にある曲を追って聴くと、Amyがいかにジャズ・シンガー的な間合いと、現代R&Bのリズム感を同時に持っていたかがわかる。DuffyやJoss Stoneのように“ソウル復古”として語られることはあっても、Amyの場合はもっと私的で、言葉の生々しさが前に出る。その点が、この盤でもよく出ている。
サウンドと聴きどころ
収録曲全体を通して、音作りは過度に磨き上げられていない。生っぽい演奏感と、スタジオ作品としての整理が同居している。ジャズ、レゲエ、ファンク、ソウルが混ざるが、ジャンルの切り替えを意識させるより、Amyの声を中心にまとまる構成になっている。特に低音域の歌い回しと、ビートの後ろに乗る感じが印象的で、2000年代後半のUKソウルの中でもかなり個性的な立ち位置だ。
この時代の同系統の作品と比べると、Amyは“歌のうまさ”の見せ方が少し違う。技巧の誇示より、歌詞のひとことや、フレーズの崩し方に重心がある。だからこそ、未発表音源や別バージョンが並ぶこの編集盤でも、単なる付録集には聞こえにくい。ひとりの歌い手の輪郭を、異なる角度から見せるアルバムとしてまとまっている。
まとめ
『Lioness: Hidden Treasures』は、Amy Winehouseの代表作というより、彼女の声と感覚がどこまで広がっていたかを確認できる一枚だ。オリジナル曲とカバーが並び、完成作とは少し違う性格を持ちながらも、Amyらしい歌の置き方は通底している。『Frank』や『Back to Black』の延長線上にありつつ、最後に残された素材を通して彼女の音楽性を静かに見せる作品、と言えそうだ。
トラックリスト
- A1 Our Day Will Come 2:49
- A2 Between The Cheats 3:33
- A3 Tears Dry (Original Version) 4:08
- B1 Will You Still Love Me Tomorrow? (2011) 4:22
- B2 Like Smoke 4:38
- B3 Valerie ('68 Version) 3:59
- C1 The Girl From Ipanema 2:46
- C2 Half Time 3:50
- C3 Wake Up Alone (Original Recording) 4:24
- D1 Best Friends, Right? 2:56
- D2 Body And Soul 3:18
- D3 A Song For You 4:29
動画
- Amy Winehouse - Valerie ('68 Version) - Lioness: Hidden Treasures
- Will You Still Love Me Tomorrow? (2011)
- Between The Cheats
- Tears Dry (Original Version)
- Like Smoke
- Best Friends, Right?
- The Girl From Ipanema
- Amy Winehouse - A Song For You - Lioness: Hidden Treasures
- Half Time
- Amy Winehouse: The Final Goodbye (FULL MOVIE)