Beck! - Odelay (1996)
Beck『Odelay』(1996) ― サンプル感覚とバンド感が同居した90年代の代表作
Beckの『Odelay』は、1996年にBong Load Custom Recordsから出た3作目のアルバムで、彼の名前を一気に広く定着させた作品として語られることが多い。前年までのローファイな宅録感やフォーク寄りの手触りを残しつつ、この作品ではヒップホップ、ロック、ファンク、ソウル、ダブ感覚がかなり明確に混ざり合っている。制作を手がけたのはDust Brothersで、サンプリングを骨格にしながらも、単なるビート盤ではなく、演奏の勢いや曲の転がり方まで含めてアルバムとしてまとまっている。
90年代半ばという時代を考えると、『Odelay』は、オルタナティヴ・ロックの文脈にありながら、ヒップホップ以後の編集感覚を強く持った作品として見えやすい。Beastie BoysやDJ Shadow、The Avalanches以後に連なるようなサンプル文化の流れを思わせる部分もあるが、Beckの場合はラップやロックの境界を整理するより、雑多な要素をそのまま並べて曲にしてしまう感じが強い。結果として、当時のインディー/オルタナ勢の中でも、かなり独特な立ち位置のアルバムになっている。
作品全体の手触り
レコードのクレジットを見ると、録音は1994/95年、主な作業はPCP LabsやConway Studiosで行われている。収録曲ごとにサンプル元が細かく記されていて、James BrownやThem、Mantronix、Dick Hymanなど、出典の幅がかなり広い。そうした断片を土台にしながら、曲は意外なほど軽快に進む。音の詰め込み方は多いのに、聴感上は窮屈になりすぎず、むしろリズムの切り替えやフレーズの飛び方が面白く出ている。
初回盤は180グラム盤で、高光沢ジャケット、36インチ×12インチの両面ポスター兼インサート、ステッカー、注文書インサート付きで出ている。ジャケットやインサートでは「Devils Haircut」とアポストロフィなし表記になっているのも、この盤ならではの細かな点。こうした物理的な作りも、90年代インディー盤らしい手触りを持っている。
「Where It’s At」
このアルバムを代表する曲としてまず挙がるのが「Where It’s At」だろう。Mantronix「Needle To The Groove」のサンプルを使い、ゆるいのに芯のあるビートを作っている。曲名のフレーズ回しも含めて、肩の力を抜いた語り口が印象に残る。Beckの声はここで、ラップとも歌ともつかない位置に置かれ、ビートの上を漂いながら、サビのフックでしっかり引っかかる。
この曲の面白さは、引用の多さを前面に出しながら、引用の寄せ集めに見えにくいところにある。サンプルが鳴っていること自体は明白でも、曲全体はかなり自然に流れる。90年代のオルタナとヒップホップの接点を象徴する1曲として扱われるのも納得しやすい。
「The New Pollution」
「The New Pollution」は、アルバムの中でも特にポップな輪郭がはっきりした曲。Joe Thomas「Venus」のサンプルを使いながら、跳ねるようなリズムと、少し気の抜けたメロディが前に出てくる。タイトルの言葉選びも含めて、Beckらしい皮肉と軽さが同居していて、重くなりすぎない。
この曲では、サンプリングの密度よりも、曲の運び方そのものが印象に残る。音の層は多いが、フックは明快で、アルバムの中でも耳に残りやすい。『Odelay』が単なる実験作ではなく、シングルとして機能する曲をしっかり持っていたことを示す1曲でもある。
「Devil’s Haircut」
冒頭を飾る「Devil’s Haircut」は、アルバムの方向性をかなり早い段階で示す曲。James Brown「Out Of Sight」、Pretty Purdie「Soul Drums」、Them「I Can Only Give You Everything」の要素が重ねられていて、ファンク由来のグルーヴとロックの硬さがぶつかり合う。クレジット上では「Devils Haircut」と表記されている点も、この盤の特徴のひとつ。
この曲は、音数の多さよりも、リズムの切れ味で押してくるタイプ。Beckの歌い回しも、メロディを大きく聴かせるというより、言葉を投げるような感覚が強い。アルバムの入口として、雑多な素材をまとめて一気に提示する役割を果たしている。
「Jack-ass」「Hotwax」「The New Pollution」以外の注目曲
「Jack-ass」は、Bob Dylanの「It’s All Over Now, Baby Blue」を含む構成で、フォークロックの影が見える曲。Beckの作品では珍しくない要素だが、『Odelay』ではそれがサンプリングやビートの感覚と同居しているところがポイントになる。「Hotwax」は、Bernard PurdieやMonk Higginsの素材を使ったファンキーな曲で、アルバム中でも特にリズムの粘りがある。
「Readymade」はボサノヴァの引用が入ることで、曲の輪郭が少し変わる。「Sissyneck」や「High 5 (Rock The Catskills)」も含めて、アルバム後半まで曲ごとの色がはっきりしており、通して聴くと同じ作法で作られた作品というより、異なる断片を一枚に並べた印象が強い。それでも流れが途切れにくいのは、Beckの声とDust Brothersの編集感覚が中心にあるからだろう。
位置づけ
『Odelay』は、Beckのキャリアの中でも転機になった作品として見られやすい。初期の脱力したフォーク感覚を残しながら、より大きなスケールでサンプル文化とロックの感触を接続したからだ。以後のBeckが、作品ごとに方向を変えながらも、ジャンルの境界をまたぐ作り方を続けていく、その起点のひとつとしてこのアルバムが置かれている。
90年代のオルタナティヴ・ロック、ヒップホップ、ファンクの交差点を一枚でつかむなら、この作品はかなり重要な位置にある。音の引用が多くても、懐古的になりすぎず、ロックのバンド感に寄りすぎず、その中間で曲が転がっていく。そのバランス感覚が、『Odelay』を今でも参照されやすい作品にしている。
トラックリスト
- A1 Devil's Haircut 3:13
- A2 Hotwax 3:52
- A3 Lord Only Knows 4:14
- A4 The New Pollution 3:39
- A5 Derelict 3:18
- A6 Novacane 3:17
- A7 Jack-Ass 4:00
- B1 Where It's At 5:25
- B2 Minus 2:32
- B3 Sissyneck 4:02
- B4 Readymade 2:43
- B5 High 5 (Rock The Catskills) 4:10
- B6 Ramshackle 4:49
動画
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Beck - Devils Haircut (Official Music Video)
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Beck - The New Pollution (Official Music Video)
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Beck - Jack-Ass
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Beck - Where It's At (Official Music Video)
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Devils Haircut
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Hotwax
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Lord Only Knows
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The New Pollution
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Derelict
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Novacane
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Jack-Ass
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Where It's At
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Minus
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Sissyneck
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Readymade