Big Big Train - English Electric Part One (2012)
Big Big Train『English Electric Part One』を聴く
Big Big Trainは、イングランド南部ボーンマスを拠点に活動してきた独立系のプログレッシブ・ロック・バンドである。1990年結成、中心にいるのは創設メンバーでソングライターのGreg Spawton。2010年代に入るとDavid Longdonを迎え、バンドは本作『English Electric Part One』で、英国的な風景や鉄道、労働の記憶を細やかに描く現在の作風を強く打ち出していく。2012年のオリジナル・リリースで、後年の評価を見ても、Big Big Trainの代表的な時期を形づくる重要作として位置づけられている。
この2012年盤はUKリリースのダブル重量盤LPで、ゲートフォールド仕様、500枚限定のナンバー入り。Plane Groovyによるビニール専業レーベルからの発表で、アナログ盤ならではの物理的な存在感がはっきりした作品でもある。Side 4にはCD未収録のボーナス曲のリマスター版が収められており、LPならではの聴きどころが用意されている点も特徴的だ。録音はBig Big Train名義のEnglish Electric Studiosに加え、Rob AubreyによるAubitt Studios、Ken BrakeによるRegal Lane Studiosなど、複数の場所で進められている。
作品の輪郭
『English Electric Part One』は、派手な技巧の見せ場を前面に出すというより、曲ごとの場面設定を積み重ねていくタイプのアルバムである。鉄道、地方都市、日常の仕事や移動といった題材が、歌詞とアレンジの両方で丁寧に扱われている。プログレッシブ・ロックの文脈ではあるが、70年代的な大仰さだけに寄らず、英国フォークや室内楽的な響き、ブラスの導入、語り口のある歌唱が自然に混ざっている。Camel、Genesis、The Enid、あるいは後年の英国プログレ勢と比較されることがあるのも、この作りの細かさゆえだろう。
本作の時点で、Big Big Trainはすでに長い活動歴を持ちながら、現在の評価につながる方向性をはっきり固めつつあった。David Longdonの歌声は、Greg Spawtonの書く題材に具体的な輪郭を与え、Nick D’Virgilioのドラミングは曲の推進力と抑制の両方を担う。Danny Mannersのキーボードも含め、各パートが前に出すぎず、曲全体の風景を組み立てるバランスが取られている。
冒頭の流れと注目曲
アルバムの入り口として印象に残るのが「Made From Sunshine」である。タイトル通りの明るい印象を持ちながら、単純に開放的な曲というより、メロディの運びとアレンジの積み重ねで景色を広げていくタイプだ。Big Big Trainらしいのは、ここでいきなり大作感を押し出すのではなく、歌と楽器の受け渡しで徐々に密度を上げていくところにある。David Longdonの歌が入り、バンド全体が同じ方向へ収束していく過程が分かりやすい。
続く「A Boy in Darkness」は、より物語性の強い曲として耳に残る。静かな場面から始まり、途中で輪郭の異なる展開へ移る構成で、Big Big Trainの“場面転換のうまさ”が見えやすい。過度にドラマティックな処理ではなく、あくまで曲の内部で自然に切り替わる印象で、聴き終えたあとに個々のフレーズが残るタイプである。歌詞の内容を追わなくても、音の配置だけで情景が立ち上がるのがこの曲の強さだろう。
タイトル曲まわりの見どころ
「English Electric: Part One」は、アルバムのテーマを端的に示す中核曲として扱われることが多い。鉄道や産業、土地の記憶を思わせる要素が集まり、Big Big Trainの得意とする“英国の記録”のような感触が強い。サウンド面では、ロック・バンドの編成に加えて、ブラスや弦の響きが曲の景色を押し広げる。ここで重要なのは、装飾としてのオーケストレーションではなく、曲の構造そのものに組み込まれている点だ。
同曲を聴くと、本作が単なる懐古趣味ではないことも分かりやすい。題材は英国の歴史や風景に根差しているが、実際の音はかなり現代的に整理されている。録音のクリアさ、各楽器の分離、歌の前に出方がその印象を支えている。70年代のプログレに接続しながら、2010年代の作品として成立している、という位置が見えやすい一曲である。
LP盤ならではの聴きどころ
このLP盤では、Side 4にCD未収録のボーナス曲のリマスター版が入る点が大きい。オリジナル曲群の流れを一通り聴いたあとに、別の余韻が残る構成で、ダブルLPとしての収まりも良い。重量盤のゲートフォールドという仕様も含め、作品世界を手元で持つ感覚が強い盤である。Big Big Trainは後年さらに評価を高めていくが、その土台となる美意識と制作姿勢は、この2012年作の時点でかなり明確になっている。
『English Electric Part One』は、楽曲単位の完成度とアルバム全体の統一感が並んでいる作品である。派手に語りすぎず、しかし情報量は多い。英国の風景を題材にしながら、演奏と録音の細部で現在形のプログレッシブ・ロックとして着地しているところに、このアルバムの面白さがある。
トラックリスト
- A1 The First Rebreather 8:32
- A2 Uncle Jack 3:49
- A3 Winchester From St Giles' Hill 7:16
- B1 Judas Unrepentant 7:18
- B2 Upton Heath 9:17
- B3 A Boy In Darkness 5:39
- C1 Summoned By Bells 8:03
- C2 Hedgerow 8:52
- D1 Kingmaker 10:50
- D2 Victorian Brickwork 12:33