Big Big Train - English Electric Part Two (2013)
Big Big Train『English Electric Part Two』――英国の風景と労働の記憶を描く、2013年のシンフォニック・ロック
Big Big Trainは、イングランド南部ボーンマスを拠点に活動するプログレッシブ・ロック・バンドで、1990年に始動した独立系のグループだ。中心人物はソングライターのGreg Spawtonで、本作『English Electric Part Two』は、そのバンドが2013年に発表した8作目のスタジオ・アルバムにあたる。前作『English Electric Part One』に続く連作の第2弾で、イギリスの田園風景、産業、歴史、そしてそこに関わる人々を題材にした楽曲が並ぶ構成になっている。
このアルバムは、いわゆる技巧の見せ場だけで押し切るタイプではなく、物語の運びと旋律の積み重ねで聴かせる作品だ。YesやGenesis、Camelといった英国プログレの流れを感じさせる部分はあるが、単なる懐古ではなく、2010年代の録音として輪郭がはっきりしている。合唱的なコーラス、アコースティック楽器、ピアノ、ギターのレイヤーがきちんと整理され、曲ごとの情景が見えやすい作りになっている。
作品の位置づけ
Big Big Trainにとって『English Electric Part Two』は、バンドの評価を大きく押し上げた時期の中心にある作品のひとつといえる。2000年代後半からDavid Longdonが加入し、以後の作品では歌と物語性が強く前に出るようになったが、本作ではその方向性がかなり明確だ。とくに、英国の地方都市や鉄道、造船、修道院といった具体的なモチーフを、個人の記憶や共同体の歴史へつなげていく手つきが印象に残る。
同時代のプログレ界で見ると、長尺曲を軸にしながらも、メロディの分かりやすさとアルバム全体の統一感を重視する点で、TransatlanticやThe Tangent、あるいは後年のThe Pineapple Thiefのような「物語を聴かせる」タイプの流れとも並べて語られやすい。とはいえ本作は、英国の土地感をかなり具体的に刻んでいる点で独自性がある。
「East Coast Racer」――アルバムの核になる長編
注目曲としてまず挙げたいのが「East Coast Racer」だろう。15分を超える長尺で、蒸気機関車「マラード号」が速度記録に挑むエピソードを題材にした楽曲だ。単に鉄道の歴史を描くだけでなく、機械の加速感、線路上の緊張感、記録に向かう熱量が、曲の展開そのものに反映されている。テンポの切り替えやパートの積み重ねが多いが、全体が散らからず、最後まで一本の流れとして聴こえるのがこの曲の強さだ。
実際に聴くと、長さのわりに時間の伸縮がはっきりしていて、静かな導入から推進力のあるセクションへ進むたびに景色が変わる。David Longdonのボーカルは語り口を保ちながらも、要所で感情の振幅を作る。Big Big Trainの代表曲として扱われることが多いのも納得しやすい、アルバムの顔になっている一曲だ。
「Swan Hunter」――働く人々の記憶を歌う
「Swan Hunter」は、イギリスの造船所スワン・ハンターをテーマにした楽曲で、産業と家族史が重なるタイプの歌だ。ここでは大仰な展開よりも、旋律の運びと語りの視点が前に出る。工場で働く父親たちの世代、その仕事が地域に残したもの、そして個人の生活と産業の関係が、比較的コンパクトな曲の中にまとめられている。
Big Big Trainの作品では、こうした「働く人々」を扱う曲が重要な役割を担っている。本作でもそれは明確で、歴史を英雄譚としてではなく、日常の積み重ねとして描く姿勢が見える。派手さよりも、歌詞の具体性とアンサンブルの整合で聴かせるタイプの曲だ。
「Keeper of Abbeys」と「Curator of Butterflies」――終盤の質感
中盤から終盤にかけては、「Keeper of Abbeys」のように、建築や場所を守る役割に目を向けた曲が置かれている。修道院や歴史的建造物をめぐる題材は、英国プログレでは珍しくないが、本作では観光地の紹介ではなく、場所を維持する人の視点が入ることで、より生活に近い手触りが出ている。音の作りも、派手なソロを前面に出すより、曲の輪郭を丁寧に組み立てる方向だ。
アルバムの締めくくりとなる「Curator of Butterflies」も重要だ。題名の時点で少し寓話的だが、実際には静かな感情の流れを保ちながら、アルバム全体のテーマを柔らかく回収していく。長編の「East Coast Racer」と並べると対照的で、こちらは大きく走り抜けるのではなく、細部を見つめる視線が印象に残る。終盤に置かれることで、作品全体が「歴史を語る」だけでなく「記憶を保管する」アルバムとしてまとまっている。
アナログ盤について
Plane Groovyから出たUK盤は、2013年のオリジナル期にリリースされたアナログ盤として位置づけられる。Big Big Trainのこの時期の作品は、限定盤やフォーマット違いで追加曲が付くことがあり、本作もCD盤の基本構成とは別にボーナストラックを含む形で流通している。レーベルがvinyl-onlyを標榜している点も含め、当時のプログレ・リスナー向けの物理メディア文化と相性のよいリリースだったといえる。
まとめ
『English Electric Part Two』は、Big Big Trainの作風がかなり明確に定着した時期の作品だ。英国の風景、産業、歴史を、長尺曲と緻密なアンサンブルで描くという方向が、ここでははっきり形になっている。派手な新機軸を打ち出すアルバムというより、バンドが得意とする語り口を精密に磨いた一枚、という印象が強い。プログレッシブ・ロックの中でも、物語性と構成力を重視する作品として記憶されやすい内容だ。
トラックリスト
- A1 Make Some Noise
- A2 Worked Out
- A3 Keeper Of Abbeys
- B1 Swan Hunter
- B2 Seen Better Days
- B3 Edgelands
- B4 The Lovers
- C1 Leopards
- C2 East Coast Racer
- D1 The Permanent Way
- D2 Curator Of Butterflies