David Bowie = デビッド・ボウイー - Aladdin Sane = アラディン・セイン (1973)
David Bowie『Aladdin Sane』— 1973年作の緊張感を、1982年日本盤で聴く
デビッド・ボウイーの『Aladdin Sane』は、1973年4月に発表された6作目のスタジオ・アルバムである。前作『Ziggy Stardust』で世界的な注目を集めた直後の作品で、ボウイの初期キャリアの中でも特に重要な位置を占める1枚といえる。グラム・ロックの華やかさを引き継ぎながら、アメリカでのツアー経験や当時の都市的な空気を取り込み、より落ち着かない空気、ひずんだ感触を前面に出した内容になっている。
この1982年日本盤は、RCA(RPL-2103)からのリリース。白地に青の帯、さらに日本語解説と英語歌詞を収めたインサートが付く仕様で、当時の日本盤らしい丁寧な作りである。オリジナルの1973年盤と比べると、音源そのものは同じアルバムでも、帯や解説書によって作品の受け取り方が少し変わるのが面白いところだ。
作品の位置づけ
『Aladdin Sane』は、『Ziggy Stardust』と『Diamond Dogs』の間に置かれる作品として見ると、ボウイがキャラクター性と実験性の両方を強めていく転換点にあたる。バックは前2作と同じくスパイダーズ・フロム・マーズ、つまりミック・ロンソン、トレヴァー・ボルダー、ウッディ・ウッドマンジーが中心だが、ここではジャズ畑のピアニスト、マイク・ガーソンの参加が大きい。ピアノの入り方ひとつで、バンドのロック感に不穏な陰影がつき、楽曲全体に別の重心が生まれている。
タイトル自体も印象的だ。「A Lad In Vain」「A Lad Insane」「A Land Insane」といった言葉遊びを経て『Aladdin Sane』に落ち着いたとされ、意味が一つに固定されないまま、音の響きと像だけが先に立つ。ジャケットの稲妻メイクも含めて、作品全体が“はっきり言い切らない”感覚で統一されている。
冒頭を引っ張る「Watch That Man」
アルバムは「Watch That Man」で始まる。ここではボウイのボーカルが前面に出るというより、バンド全体の勢いで押していく構成で、前作までの派手なロックンロールを引き継ぎつつ、どこか距離のある空気もある。ロサンゼルス滞在やアメリカ文化への接近が反映されていると見る向きもあり、単なる英国ロックの延長ではない、場所の匂いのようなものが感じられる。
演奏は分厚いが、音の輪郭はきっちりしていて、勢い任せにならない。ここでのボウイは、ヒット曲の主役というより、場面を組み立てる語り手のように聞こえる。アルバム全体の導入として、かなりうまく機能している曲である。
代表曲「The Jean Genie」
先行シングルの「The Jean Genie」は、この作品を語るうえで外せない1曲だ。全英2位のヒットとなり、アルバムの認知を強く押し上げた。ブルースの骨格を持ちながら、リフの反復とボウイの歌い回しで、単純なロックンロールに収まらない引っかかりを残す。歌詞にはアメリカ的なイメージや都市の雑多さが入り込み、サウンドと同じく整いすぎない感じが残る。
この曲の強さは、派手さよりも粘りにある。ギターのフレーズが前へ出る一方で、リズム隊は少し後ろから支えるため、曲が一直線に走り切らない。そのわずかなずれが、ボウイの歌のキャラクター性を際立たせている。シングルとしての分かりやすさと、アルバム全体のねじれた感触の両方を持つ曲である。
「Drive-In Saturday」「The Prettiest Star」などの見どころ
「Drive-In Saturday」は、このアルバムの中でも特に物語性の強い曲で、終末感とノスタルジーが同居している。タイトルにある“ドライブイン”の情景がまず浮かび、その上に未来の荒廃を思わせるイメージが重なる。ボウイの曲では珍しくない構成だが、ここではメロディの運びが素直で、歌詞の不穏さとの落差がはっきりしている。
「The Prettiest Star」は、もともとシングルとして出ていた曲の再録音である。以前の版と比べると、このアルバムではより洗練されたバンド・サウンドの中に置かれ、曲の輪郭が変わって聞こえる。ポップな甘さを残しながらも、全体の流れの中ではどこか距離を置いた配置で、アルバムの構成にうまく組み込まれている。
表題曲「Aladdin Sane」
表題曲「Aladdin Sane」は、アルバム名をそのまま背負った中心曲である。副題にある「1913-1938-197?」は、第一次・第二次世界大戦の前年を指すとされ、さらに1970年代の不穏さへとつながる示唆を含んでいる。曲そのものも、単なるロック曲というより、断片的な場面が連なっていくような作りで、マイク・ガーソンのピアノがその印象を決定づけている。
この曲では、ボウイがキャラクターを演じるというより、混乱した時代の空気をそのまま音にしているように聞こえる。歌、ピアノ、ギターがきれいにまとまらないまま進む感じがあり、それが作品全体のテーマと一致している。ジャケットの顔面メイクとあわせて、視覚と聴覚の両面で記憶に残る1曲である。
アルバム全体の聴きどころ
『Aladdin Sane』は、派手なヒット曲を含みながら、実際にはかなりまとまりのある作品である。グラム・ロックの時代性を持ちながら、ジャズ、ミュージックホール、ブルースの断片が入り込み、ただの勢いだけでは終わらない。ボウイの作品群の中では、キャラクター性とバンド演奏、ポップ性と不安定さが、比較的同じ強さで並んでいるアルバムといえる。
1982年の日本盤は、1973年オリジナルの空気をそのまま持ちながら、当時の日本市場向けの体裁で届けられた一枚である。RCAの国内盤として、帯や解説書を含めて作品を受け取る楽しみがある。ボウイの初期作品の流れをたどるうえでも、このアルバムはZiggy期の延長ではなく、その先で何が起きていたかを示す重要な記録になっている。
トラックリスト
- A1 Watch That Man = あの男を注意しろ 4:30
- A2 Aladdin Sane (1913-1938-197?) = アラディン・セイン (1913-1938-197?) 5:15
- A3 Drive-In Saturday = ドライブ・インの土曜日 4:38
- A4 Panic In Detroit = デトロイトでのパニック 4:30
- A5 Cracked Actor = 気のふれた男優 3:01
- B1 Time = 時間 5:10
- B2 The Prettiest Star = プリティエスト・スター 3:28
- B3 Let's Spend The Night Together = 夜をぶっとばせ 3:10
- B4 The Jean Genie = ジーン・ジニー 4:06
- B5 Lady Grinning Soul = 薄笑いソウルの淑女 3:53
動画
- Drive-In Saturday (2013 Remaster)
- Panic in Detroit (2013 Remaster)
- The Jean Genie (2013 Remaster)
- Lady Grinning Soul (2013 Remaster)
- Watch That Man (2013 Remaster)
- Aladdin Sane (2013 Remaster)
- Cracked Actor (2013 Remaster)
- Time (2013 Remaster)
- The Prettiest Star (2013 Remaster)
- Let's Spend the Night Together (2013 Remaster)