Dionne Warwick - Soulful (1969)
Dionne Warwick『Soulful』について
Dionne Warwickの『Soulful』は、1969年にUSのScepter Recordsから出たアルバムで、彼女の60年代後半の活動を知るうえで重要な1枚だ。プロデュース表記はBurt BacharachとHal Davidの制作によるもので、いわゆるワーウィック作品らしい、作家性の強いポップ・ソウルの流れの中に置ける内容になっている。Dionne Warwickは、ソウル・シンガーであると同時に、洗練されたソングライティングを歌いこなす歌手として評価されてきた人で、この時期の作品でもその持ち味がよく出ている。
タイトルの通り、ソウルという語が前面に出た作品だが、モータウン的な勢いだけで押すタイプではない。曲ごとのメロディの運び、言葉の置き方、そして歌の細かな抑揚で聴かせるアルバムで、Warwickのディスコグラフィの中では、Bacharach/Hal David期の完成度を改めて確認できる位置づけにある。1960年代後半のR&Bやソウルが、より洗練されたポップの語法と接近していく流れの中でも、かなり明確にその側へ寄った作品だといえる。
作品の輪郭
『Soulful』は、収録曲のクレジットから見ても、当時の米国ポップス/ソウルの作家陣を幅広く取り込んでいることがわかる。A1「You’ve Lost That Lovin’ Feelin’」、A2「I’m Your Puppet」、A4「People Got to Be Free」、B1「You’re All I Need to Get By」など、すでに知られた楽曲が並び、Warwickの歌唱を通すことでそれぞれの曲の輪郭が少しずつ変わって聞こえる。単なるカバー集というより、当時のヒット曲を彼女の声で再配置したアルバムとして捉えやすい。
録音や選曲の印象としては、音の密度で押し切るのではなく、声の抜け方とフレーズの置き方が中心にある。Warwickの歌は、強く張り上げる場面よりも、言葉の終わりを少しだけ遅らせたり、メロディの角を滑らかに処理したりするところに特徴がある。このアルバムでも、その歌い回しが曲の表情をまとめている。ソウル・アルバムでありながら、聴感はかなり端正だ。
「You’ve Lost That Lovin’ Feelin’」
冒頭を飾るこの曲は、すでにRighteous Brothersの代表曲として強いイメージを持たれていた楽曲だが、Warwick版ではその劇的な厚みよりも、メロディの流れが前に出る。原曲の大仰なドラマ性に対して、こちらはフレーズを整えて歌うことで、曲の構造そのものを見せるような印象がある。Bacharach作品群に通じる、旋律の組み立てに耳を向けさせる導入部だ。
この曲が最初に置かれていることで、アルバム全体の方向性も見えやすい。大きな感情の爆発というより、丁寧なコントロールで曲を運ぶ構成。Warwickの声質がそのまま作品の設計図になっているような並びだ。
「You’re All I Need to Get By」
Marvin GayeとTammi Terrellのデュエットで知られる曲を、Warwickがひとりで歌うことで、曲の重心が少し変わる。ここでは掛け合いの楽しさよりも、歌詞の内容を一人称で受け止めるような解釈が前に出る。もともと持っている親密さが、Warwickの落ち着いた声でさらに整理されて聞こえるのが面白い。
60年代後半のソウルでは、こうした有名曲の再演が珍しくないが、Warwickのバージョンは素材を塗り替えるというより、別の角度から光を当てるやり方に近い。オリジナルの印象が強い曲ほど、彼女の歌で細部の意味が変わって聞こえる場面がある。
「I’m Your Puppet」「People Got to Be Free」ほか
「I’m Your Puppet」は、曲の持つ従属と献身のニュアンスを、Warwickが少し距離を置いて歌っているように聞こえる。感情を前面に押し出すのではなく、フレーズの整理で曲の輪郭を保つタイプの解釈だ。一方で「People Got to Be Free」は、同時代性の強い素材を取り込みながら、アルバムの中で政治色を前面化しすぎない位置に置いている。曲のメッセージよりも、歌としての流れが優先されている印象。
こうした選曲は、Dionne Warwickが当時どのような歌手として見られていたかをよく示している。彼女はソウル歌手として語られることが多い一方で、実際にはポップスの文脈でも非常に強い存在だった。『Soulful』は、その境界をまたぐ立ち位置を、かなりはっきり形にしたアルバムだと思える。
アルバム全体の位置づけ
1969年という年を考えると、ソウルはすでに多様化していて、より骨太な表現や、ファンク寄りのリズムも前に出てくる時期だった。その中で『Soulful』は、そうした潮流の外側にいるわけではないが、むしろ洗練された歌唱と曲作りで勝負するタイプの作品として立っている。Aretha Franklinのような強いゴスペル由来の押し出しとも、Motown的なグルーヴ先行の作りとも少し違う、Warwickならではのバランス感覚がある。
また、Scepter Recordsからのリリースという点でも、Warwickの60年代後半の活動を語るうえで欠かせない。彼女とBacharach/Hal Davidの組み合わせがすでに確立されていた時期であり、このアルバムもその延長線上にある。ヒット曲を量産していた時代の只中で、シングルだけでは見えにくい歌の柔らかさや、曲をまとめる技術が見えやすい内容だ。
まとめ
『Soulful』は、Dionne Warwickの声が持つ整った響きと、当時のソウル/ポップスの代表的な楽曲群が交差するアルバムだ。派手な演出より、歌い方の細部で曲を立てる作り。1969年の作品として、時代の空気を受けつつも、Warwickらしい端正さが前に出ている。彼女のディスコグラフィの中では、Bacharach/Hal David期の到達点のひとつとして見ておきたい1枚だ。
トラックリスト
- A1 You've Lost That Lovin' Feeling 4:23
- A2 I'm Your Puppet 3:02
- A3 People Got To Be Free 2:55
- A4 You're All I Need To Get By 2:24
- A5 We Can Work It Out 2:30
- B1 A Hard Day's Night 3:03
- B2 Do Right Woman-Do Right Man 3:00
- B3 I've Been Loving You Too Long 3:31
- B4 People Get Ready 2:44
- B5 Hey Jude 4:02
動画
- You've Lost That Lovin' Feelin'
- I'm Your Puppet
- People Got to Be Free
- You're All I Need to Get By
- We Can Work It Out
- A Hard Day's Night
- Do Right Woman, Do Right Man
- I've Been Loving You Too Long
- People Get Ready
- Hey Jude