Far Out - 日本人 = Nihonjin (1973)
Far Out『日本人 = Nihonjin』について
Far Outの『日本人 = Nihonjin』は、1973年に発表された日本のサイケデリック・ロック/プログレッシブ・ロック作品で、2019年にEverland Psychからアナログ再発された盤が流通している。バンドはFumio Miyashita、Keiju Ishikawa、Manami Arai、Eiichi Sayuの4人編成で、70年代初期の日本産アンダーグラウンド・ロックの流れに位置づけられるグループとして知られている。タイトルからも伝わる通り、当時の日本の感覚をそのまま作品名に置き換えたような存在感があり、同時代の国産プログレやサイケ作品の中でも、かなりはっきりした個性を持つ一枚だ。
この2019年盤は、Nippon Columbiaが保有するオリジナルのマスターテープから直接起こした公式再発とされている。ゲートフォールド仕様で、オリジナルに付属していたブックレットの複製、帯の再現、さらに当時のライヴ写真を収めた2ページの折り込みインサートも付く。単なる復刻というより、当時のパッケージをできるだけ丁寧に再構成した内容で、作品そのものだけでなく、70年代日本のLP文化を含めて味わえる作りになっている。
作品の位置づけ
Far Outは、1970年代初頭の日本で活動したサイケデリック/プログレ寄りのバンドとして紹介されることが多い。日本のロックがまだ定着の途中にあった時代に、欧米のサイケデリック・ロックやプログレッシブ・ロックの要素を受け止めつつ、自分たちの音に落とし込もうとしていたグループのひとつだ。『日本人 = Nihonjin』は、その時期の空気をよく伝える作品として見られることが多く、バンドの代表作として扱われやすい。
同時代の日本のロックを並べて考えると、ブルースやフォーク寄りの土台を持つバンドとも、よりジャズロック色の強いバンドとも少し距離がある。Far Outは、音の組み立て方や展開の持っていき方に、より強くサイケデリックな感触が出るタイプで、海外のプログレと比較される場面もある。とはいえ、単純に模倣に寄らず、当時の日本の録音環境や演奏感覚がそのまま残るところが面白い。
聴こえ方の特徴
全体を通して耳に残るのは、曲ごとの構成がしっかり組まれていることと、演奏が場面ごとに表情を変えることだ。ロックの基本形を保ちながらも、曲が進むにつれて空気が変わり、リフ、展開、間の取り方で引っ張っていく場面が多い。ギターは音色の切り替えが目立ち、キーボードは場面の色を決める役割を担う。リズム隊は前に出すぎず、全体の流れを支える形。派手な技巧で押すというより、曲の流れそのものを作るタイプの演奏だ。
録音の質感は、70年代初頭の国産ロックらしい乾いた輪郭を持ちながら、再発盤ではその情報量が比較的はっきり拾える。オリジナル盤を直接聴き比べたわけではないにせよ、マスターテープ由来の再発としては、音の分離や各楽器の位置関係が追いやすい印象がある。ブックレットや帯の再現も含めて、作品を資料としても楽しめる仕様だ。
注目曲:表題曲「日本人 = Nihonjin」
表題曲は、このアルバムを象徴する1曲としてまず耳に入る。タイトルの強さに負けず、音のほうもかなりはっきりした推進力を持っていて、バンドの色が短い時間にまとまって出る。リフの置き方、歌の入り方、曲の進み方に、70年代初頭のロックらしい直進性がある一方で、ただまっすぐ走るだけでは終わらず、途中で空気を変える瞬間が入るのがFar Outらしいところだ。
この曲では、サイケデリック・ロック的な揺らぎと、プログレッシブ・ロック的な構成意識が同居している。演奏が過剰に崩れず、テーマの輪郭を保ちながら展開していくため、曲の骨格が見えやすい。アルバムの入口としても機能していて、Far Outがどんなバンドかを端的に示す役割を担っている。
アルバム全体の聴きどころ
この作品の面白さは、1曲単位の強さだけでなく、アルバム全体を通して色調が揃っているところにある。曲ごとに温度差はあるが、どの場面にも70年代初頭の日本ロック特有の張り詰めた感じが残る。明るく開けたサウンドというより、少し影を引きずりながら進む感触があり、その分だけ展開が変わったときの効き目が大きい。
再発盤として見ると、当時の音源を現在の形で聴き直せる意義が大きい。オリジナルの雰囲気を保ちつつ、付属物まで含めて作品世界を再構築しているので、単に音だけを追うのではなく、1973年という時代の日本のロックがどうパッケージされていたかまで見えてくる。Far Outの『日本人 = Nihonjin』は、そうした文脈込みで手触りのある一枚だ。
トラックリスト
- A Too Many People 17:55
- B 日本人 = Nihonjin 19:52