Gerry Rafferty - Can I Have My Money Back? (1971)
Gerry Rafferty『Can I Have My Money Back?』レビュー
Gerry Raffertyの『Can I Have My Money Back?』は、1971年に発表された初のソロ・アルバムである。のちに「Baker Street」や「Right Down the Line」で広く知られることになる彼が、Stealers Wheel結成前の時期に残した作品で、ソロ・シンガーソングライターとしての出発点を確認できる一枚になっている。アコースティック・ギターを軸にしたフォーク・ロックの手触りと、耳に残るポップなメロディ、そして丁寧に重ねられたコーラスが印象に残る内容で、70年代初頭の英国的なシンガーソングライター作品の流れの中に置いて理解しやすいアルバムでもある。
録音当時のRaffertyは、すでにHumblebumsでの活動を経ており、単なる新人ではない。とはいえ、このソロ第1作では、後年の大作感よりも、曲そのものの素直な強さが前に出ている。派手な演出は少なく、歌とメロディ、言葉の運びで聴かせるタイプの作品で、そこにJoe Eganとのつながりが早くも見えるのが面白いところだ。のちにStealers Wheelで組むことになる相棒が、複数曲で共作やバック・ボーカルに関わっており、この時点ですでに二人の呼吸が固まりつつあったことがわかる。
アルバム全体の印象
全体を通して聴くと、曲の長さや構成は比較的コンパクトで、ポップ・ソングとしての明快さが先に立つ。アコースティック楽器中心の編成でも、単調にならず、コーラスの置き方やフレーズの切り替えで変化をつけているのが特徴的だ。フォーク寄りの題材を扱いながら、旋律の作りはかなり歌謡的で、英国のソングライターらしい抑制と親しみやすさが同居している。
1971年という時期を考えると、シンガーソングライターが台頭していた流れの中で、Raffertyはアメリカ西海岸的な感触よりも、スコットランド出身らしい素朴さとユーモアを前面に出しているように聞こえる。後年の洗練されたAOR的な響きとは違い、この盤では楽曲の骨格がはっきりしていて、ギターと声の距離が近い。再発盤として流通した1978年のUS盤では、オリジナルの1971年作品を別の時代に聴き直す形になるが、音楽そのものはデビュー作らしい初期衝動を保っている。
「Can I Have My Money Back?」
タイトル曲は、アルバムの顔としてわかりやすい一曲だ。軽やかなリズムの上に、歌詞の言い回しとメロディの流れがきれいに乗っていく。深刻さを前に出すのではなく、少し肩の力を抜いた語り口で進むところがRaffertyらしい。曲名の通り、どこか気の利いた皮肉や生活感がにじむ内容で、ソングライターとしての視点が早い段階で見えてくる。
聴きどころは、メロディの運びが自然なことと、コーラスが入った瞬間に曲の輪郭がくっきりする点にある。派手なフックで押すのではなく、何度か聴くうちに染みるタイプの作りで、後年の代表曲に通じる「耳に残るのに押しつけがましくない」感覚の原型を見ることができる。
「Mary Skeffington」
この曲は、アルバムの中でもとくに印象が残りやすい。Raffertyの母親について歌ったナンバーとして知られ、柔らかいメロディとノスタルジックな情景が前に出る。派手に盛り上げる曲ではないが、言葉の運びと旋律の重なりが丁寧で、私的な題材をそのまま閉じ込めるのではなく、聴き手にも届く形に整えている。
フォーク・ソングとしての親密さがありながら、単なる回想に終わらないのは、歌の構成がしっかりしているからだろう。アコースティックな響きの中に、声の重なりが静かに広がっていく感触があり、この時期のRaffertyの作家性をよく示している。後年の大きなヒットとは方向が違うが、メロディを扱う手つきの確かさはすでに十分にある。
「Sign on the Dotted Line」
「Sign on the Dotted Line」は、ビートルズ的なポップ感覚がよく出ている曲として聴きやすい。リズムの流れが軽快で、メロディもすっと入ってくる。Stealers Wheelを思わせるような曲調と受け取られることもありそうだが、この時点で既にRaffertyがポップ・ソングの組み立て方をよく理解していたことがわかる。
この曲では、歌のフレーズが前へ前へと進む感じがあり、アルバムの中でもとくにバンド感が強い。ソロ名義の作品でありながら、すでにアンサンブルで鳴らしたときの広がりを見越しているような作りで、のちのStealers Wheelへ自然につながっていく流れを感じさせる。
レーベルと再発盤の位置づけ
このUS盤はABC Recordsからの1978年リリースで、オリジナルの1971年盤とは発売時期が異なる。ABCは70年代後半までにロック、ソウル、カントリーまで幅広く展開していたレーベルで、この時期には既存カタログの再編や再発売も多かった。そうした流れの中で、このアルバムも改めて流通した一枚と見てよさそうだ。
作品としては、Raffertyのキャリアの出発点を記録した重要作であり、のちの成功作『City to City』を知っていると、その前段階としての素朴さと確かさがよく見えてくる。大ヒット曲のような即効性よりも、作曲家としての基礎体力、歌の置き方、共作者との関係性が静かに立ち上がるアルバムである。
まとめ
『Can I Have My Money Back?』は、Gerry Raffertyの初期像を知るうえで外せない作品だ。フォーク・ロックの骨組みの上に、ポップなメロディと控えめなユーモアが乗る。Joe Eganとの関係もすでに見え、のちのStealers Wheel、さらに『Baker Street』へ続く道筋をたどる上で、かなり重要な位置にある。派手さよりも曲の作りの良さで聴かせるアルバムとして、今聴いても輪郭ははっきりしている。
トラックリスト
- A1 New Street Blues 2:59
- A2 Didn't I? 3:42
- A3 Mr. Universe 2:50
- A4 Mary Skeffington 2:31
- A5 Long Way Round 4:31
- A6 Can I Have My Money Back? 1:51
- A7 Sign On The Dotted Line 2:34
- B1 Make You, Break You 3:29
- B2 To Each And Everyone 2:46
- B3 One Drink Down 2:50
- B4 Don't Count Me Out 3:49
- B5 Half A Chance 4:26
- B6 Where I Belong 2:03