Isaac Hayes - Black Moses (1971)
Isaac Hayes 1971

Isaac Hayes - Black Moses (1971)

Funk / Soul Soul

Isaac Hayes『Black Moses』――ソウルのスケールを極限まで広げた1971年作

Isaac Hayesの『Black Moses』は、1971年にUSのEnterpriseレーベルから発表されたダブル・アルバムだ。前年の『...To Be Continued』、そして映画『Shaft』の成功へと続く時期の作品で、Hayesがソウル・シンガーであるだけでなく、アレンジャー、プロデューサー、バンドの指揮者としても強い存在感を持っていたことがよくわかる一枚である。Stax周辺のメンフィス・ソウルの文脈にありながら、収録曲の長さや構成、演奏の広がりには、当時のR&Bの中でもかなり独自の感触がある。

この作品は、のちのIsaac Hayes像を決定づけた代表作のひとつとして語られることが多い。短い楽曲を次々と並べるタイプではなく、1曲ごとの時間を大きく取り、歌と演奏の両方をじっくり聴かせる構成になっている。結果として、アルバム全体にゆるやかな流れが生まれており、ソウル・アルバムというより、ひとつの大きな組曲のようにも感じられる。

作品の位置づけ

Isaac Hayesは1960年代からStaxで作曲家、プロデューサー、ミュージシャンとして活動し、David Porterとの共作でも知られる人物だが、ソロ名義で大きく飛躍したのが1971年前後である。とくに『Shaft』の年と重なるこの時期は、Hayesがメインストリームに強く届いたタイミングでもある。『Black Moses』はその勢いを受けつつ、さらに演奏規模を拡張した作品として捉えやすい。

同時代のソウルと比べると、歌の前にまず編曲と演奏の設計がある点が印象に残る。ファンクの硬いリズムだけに寄せるのではなく、ストリングス、ホーン、リズム隊、オルガンやギターのレイヤーが重なり、曲ごとに空間を作っていく。Curtis Mayfieldの洗練、James Brownの推進力、そしてメンフィス・ソウルの粘り気、その間を行き来するような作りだ。

折りたたみジャケットとダブル盤の存在感

『Black Moses』は、十字型に開く折りたたみジャケットでも知られている。レコードを広げる体験そのものが作品の一部になっており、ダブル・アルバムとしての大きさを視覚でも伝える仕様だ。盤によっては通常のピクチャースリーブ仕様もあり、オートチェンジャー向けの面構成を取るプレスもある。こうした物理的な作り込みも、この時代の大作ソウルらしさをよく示している。

注目曲「Never Can Say Goodbye」

このアルバムを語るうえで外せないのが「Never Can Say Goodbye」だ。元はJackson 5の曲として知られているが、Hayesのヴァージョンでは曲の輪郭が大きく変わる。テンポはゆったりと引き伸ばされ、冒頭からリズム隊が落ち着いたグルーヴを作り、その上にストリングスやオルガンが重なる。ポップソングとしての明快さよりも、同じフレーズを繰り返しながら感情の温度を少しずつ上げていく構成が前に出る。

実際に聴くと、歌の入り方がかなり計算されていることがわかる。Hayesは一気に歌い切るのではなく、語りかけるような低音から徐々に熱量を上げていく。途中で演奏が前に出る時間も長く、ヴォーカルを中心に据えつつも、バンド全体で曲を押し広げている感覚が強い。ヒット曲のカバーというより、完全に別の長尺ソウル作品として成立しているところが面白い。

注目曲「I Stand Accused」

「I Stand Accused」もこのアルバムの性格をよく表す1曲だ。こちらはもともとドラマ性のある楽曲だが、Hayesの手にかかると、歌詞の内容以上に演奏の間合いが重要になる。リズムは重くなりすぎず、しかし軽くもない。ベースとドラムの安定感の上に、ホーンや弦が場面を切り替えるように入ってくる。

この曲で目立つのは、Hayesの声の置き方である。高く張り上げる場面より、低めの音域で押し出す場面のほうが多く、そこに持続する緊張感がある。ソウル・バラードの定型に収まらず、語りと歌の境目を行き来するような進行が続くため、1曲の中でも起伏が細かい。アルバム全体の中では、派手さよりも重心の低さが印象に残るトラックだ。

注目曲「Shaft」以降のIsaac Hayesらしさ

『Black Moses』は『Shaft』の大成功の後に出た作品なので、その影響を意識して聴くと整理しやすい。映画音楽で示した長尺の構成力、ストリングスを伴うアレンジ、そして自分の声を「主旋律」以上の役割で使う方法が、このアルバムでも継続している。派手なシングル志向というより、アルバム全体で世界を作る姿勢がはっきりしている。

その意味で、『Black Moses』はIsaac Hayesの代表作の中でも、ソロ・アーティストとしてのスケールが最も見えやすい一枚かもしれない。曲単位のヒットだけでなく、アルバムという形式そのものを使って、ソウルを大きく伸ばしてみせた作品である。メンフィスのスタジオ感覚を土台にしつつ、当時の黒人音楽の中でもかなり独自の位置を占めるタイトルだ。

まとめ

『Black Moses』は、1971年のIsaac Hayesをそのまま記録したようなアルバムである。Enterpriseレーベルから出たUSオリジナル盤としても、十字型ジャケットを含むパッケージとしても印象が強く、音だけでなく物としての存在感も大きい。代表曲の長尺カバーや、ゆっくりと熱を上げるバラード運びを聴くと、Hayesがこの時期にどれだけ強い表現力を持っていたかが伝わってくる。

ソウルの枠組みの中にありながら、演奏、構成、歌唱のどれもが大きく作られている。1971年という時代の空気と、Isaac Hayesという個人の手腕が、かなり明確に重なった作品だ。

トラックリスト

  1. A1 Never Can Say Goodbye 5:07
  2. A2 (They Long To Be) Close To You 8:57
  3. A3 Nothing Takes The Place Of You 5:29
  4. A4 Man's Temptation 5:02
  5. B1 Never Gonna Give You Up 5:42
  6. Medley
  7. B3 Need To Belong To Someone 5:15
  8. B4 Good Love 6-9969 5:15
  9. Medley
  10. C2 For The Good Times 5:20
  11. C3 I'll Never Fall In Love Again 5:02
  12. D1 Part-Time Love 8:30
  13. Medley
  14. D3 Going In Circles 7:02

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