Joe Cocker - Luxury You Can Afford (1978)
Joe Cocker『Luxury You Can Afford』について
Joe Cockerの『Luxury You Can Afford』は、1978年にUKで発表された作品で、Asylum Recordsから出た彼にとって唯一の同レーベル作になる。ソウル、ファンクの要素を含みつつ、基本にはポップ・ロックの流れに置かれたアルバムで、プロデュースはAllen Toussaint。ジョー・コッカーのしゃがれた歌声と、ニューオーリンズ方面の感触を持つアレンジが並ぶ一枚として位置づけられる。
Joe Cockerは、英国シェフィールド出身のロック/ブルース・シンガーとして知られ、60年代末から70年代にかけて独特の歌い回しで存在感を示した人物。『Luxury You Can Afford』は、そのキャリアの中でも、オーソドックスなバンド感覚とソウル寄りの編成が強く出た時期の作品として見ることができる。Asylumというレーベル自体も、当時はシンガーソングライターやルーツ色の強いロックに実績があり、Joe Cockerのような歌い手との相性が意識されていたように見える。
アルバム全体の印象
この作品でまず目に入るのは、Allen Toussaintの関与だ。彼らしいホーン・アレンジが随所で機能していて、単に歌を支えるだけでなく、曲の進行に押しや揺れを与えている。Joe Cockerの声は、もともと力みよりも擦れや疲労感が前に出るタイプだが、この盤ではその質感がかなり自然に収まっている。勢いで押す場面と、少し沈み込む場面の差もはっきりしていて、アルバムとしてのまとまりは曲順を通して感じやすい。
一方で、全曲が同じ方向に揃っているわけではない。ニューオーリンズ風の跳ね方を持つ曲、ミディアムテンポで進む曲、原曲の輪郭を借りながら歌で押すカバー曲が並び、音の温度差もある。結果として、アルバム全体は統一感とばらつきの両方を持つ。そこがこの作品の特徴でもある。
注目曲「Fun Time」
冒頭を飾る「Fun Time」は、Allen Toussaint作の楽曲。発売当時はディスコ寄りと受け取られた面もあるが、実際にはニューオーリンズのダンス・ナンバーに近い手触りが強い。ビートは軽く跳ね、ホーンは前へ出過ぎず、それでも曲の輪郭をしっかり支える。Joe Cockerの歌は、この曲では荒さよりもリズムへの乗り方が前面に出ていて、かなり滑らかに進む。
この曲の面白さは、派手な展開があるわけではないのに、演奏の足取りが重くならないところにある。ベースとドラムが一定の推進力を保ち、そこにホーンが短く応答する。ソウル・ロックの枠内で、踊れる感覚と歌ものとしての聴きやすさが両立している一曲だ。
注目曲「Watching the River Flow」
Bob Dylanの「Watching the River Flow」は、このアルバムの中でも特に相性のよいカバーとして挙げやすい。Joe Cockerの歌い方はDylanとは当然異なるが、言葉を押し出すというより、少し崩しながら流していく感覚がこの曲に合っている。原曲の持つ気だるさを保ちながら、バンド側はホーンで厚みを加え、スウィング感をはっきり作っている。
この演奏では、曲そのものの骨格が見えやすい。テンポが極端に速いわけではないが、停滞もしない。Joe Cockerの声が入ることで、Dylan曲にありがちな乾いた印象よりも、もう少し泥のついたソウル感が前に出る。アルバムの中でも、カバーの成功例として触れられることが多いのは納得しやすい。
注目曲「I Can’t Say No」「Wasted Years」
「I Can’t Say No」は、John BettisとDaniel Mooreによる曲で、Joe Cockerの初期のイメージと重なるような内容がある。歌詞の語り口と彼の声質がよく噛み合っていて、無理に大きく振りかぶらなくても、言葉の重さが伝わってくる。こうした曲では、彼の歌が単なるハスキーな個性ではなく、フレーズの中に疲労や諦念を含ませる表現として働く。
「Wasted Years」はPhil Driscoll作。こちらもJoe Cockerの持ち味が出やすい曲で、声の擦れ方がそのまま経験の重みのように聞こえる。大げさな盛り上げより、感情を少しずつ押し出していく構成で、アルバム中でもソウル寄りの色合いを強める一曲になっている。
「A Whiter Shade of Pale」「I Heard It Through the Grapevine」
Procol Harumの「A Whiter Shade of Pale」は、Joe Cockerの声質からすると相性が良さそうに見えるカバーだが、この盤ではアレンジの速度感がやや独特で、曲の持つ霞んだ雰囲気が前に出切らない。元曲の印象と比べると、歌の重さはある一方で、演奏の流れが少しもたついて聞こえる場面がある。
Norman Whitfield作の「I Heard It Through the Grapevine」も同様に、名曲の輪郭を借りながら進む一曲だが、このアルバムでは編成の整理がやや難しく感じられる。Marvin Gaye版のような緊張感とは別の方向に振れていて、Joe Cockerの荒れた声とバンドの押し引きが完全には噛み合わない。とはいえ、こうした選曲があることで、アルバムの中にソウル・カバー集のような側面がはっきり残っている。
この時期のJoe Cockerという位置づけ
『Luxury You Can Afford』は、Joe Cockerの代表作として真っ先に挙がるタイプの作品ではないが、70年代後半の彼がどの方向を向いていたかを示す一枚として見ることができる。ブルース・ロック的な荒さだけで押し切るのではなく、ソウルやファンクの側へ寄った編曲の中で歌を置いていく作り。そこにAllen Toussaintの手つきが加わることで、単なる歌手のアルバム以上の輪郭が出ている。
UK盤としてのこのリリースは、1978年当時のElektra/Asylum系の空気も感じさせる。アメリカン・ルーツの感触を持つレーベルの文脈に、英国のロック・シンガーが入っている構図も興味深い。全体としては、Joe Cockerの声を中心に、ソウル・バンドの演奏をどう組み合わせるかを試した作品、という見方がしやすい。
トラックリスト
- A1 Fun Time 2:36
- A2 Watching The River Flow 3:12
- A3 Boogie Baby 3:50
- A4 A Whiter Shade Of Pale 5:22
- A5 I Can't Say No 2:49
- A6 Southern Lady 3:13
- B1 I Know (You Don't Want Me No More) 3:06
- B2 What You Did To Me Last Night 3:25
- B3 Lady Put The Light Out 4:45
- B4 Wasted Years 4:45
- B5 I Heard It Through The Grapevine 4:30
動画
- A Whiter Shade of Pale
- Fun Time
- Watching the River Flow
- I Can't Say No
- Southern Lady
- What You Did to Me Last Night
- I Know (You Don't Want Me No More)
- Wasted Years
- Boogie Baby
- Lady Put the Light Out
- I Heard It Through the Grapevine