Joe Turner - Another Epoch - Stride Piano (1976)
Joe Turner『Another Epoch - Stride Piano』について
ジョー・ターナーは、1907年にボルチモアで生まれたアメリカのジャズ・ピアニストで、ストライド・ピアノの系譜にしっかりつながる人物だ。1940年代以降はフランスに拠点を移し、アメリカ本国では同名のブルース歌手ビッグ・ジョー・ターナーと混同されやすかったこともあって、一般的な知名度は高くない。そのぶん、録音をたどると、ラグタイムからストライド、そしてモダン・ジャズまでを横断する実直な演奏家としての輪郭が見えてくる。
1976年作の『Another Epoch - Stride Piano』は、その名の通りソロ・ピアノに絞ったアルバムで、パブロ・レコードから出た一枚。ノーマン・グランツが1973年に立ち上げたパブロは、オスカー・ピーターソンやエラ・フィッツジェラルドのような大物を多く抱えたレーベルで、この作品もその文脈に置くと分かりやすい。往年のスタイルを持つ演奏家を、1970年代の録音環境で丁寧に記録していく路線の中にある作品だ。
録音はニューヨークとロンドン、2つのセッション
このアルバムは2回の録音セッションで構成されている。A面は1976年2月6日、ニューヨークのRCA Recording Studiosで録音。B面は同年11月9日、ロンドンのPolydor Studiosで録音されている。片面ごとに都市も時期も異なり、ターナーが1976年に大西洋をまたいで活動していた様子がそのまま残っている。ソロ演奏なので、編成の変化に頼らず、ピアニスト本人のタッチや間合いがそのまま記録される形だ。
ストライド・ピアノは左手で大きく跳ねるようにベース音と和音を刻み、右手で旋律や装飾を展開するスタイルで、ラグタイムの流れを受けつつも、より即興性と推進力を持つ。ターナーはその伝統を身につけた世代で、ユービー・ブレイクに励まされたという話も伝わっている。アート・テイタムやジェームズ・P・ジョンソンの系譜と比べながら聴くと、左手の推進と右手のフレーズの置き方に、時代の重なりが見えてくる。
収録曲の幅と、スタイルの見取り図
収録曲には、ジェームズ・P・ジョンソンの「Viper's Drag」やセロニアス・モンクの「Well You Needn't」などが含まれている。前者はストライドの古典的な語法を示す曲として知られ、後者はモダン・ジャズの作曲家モンクの代表曲のひとつだ。こうした選曲を見ると、このアルバムは単に古い様式を再現するだけでなく、ラグタイム、ストライド、モダン・ジャズを同じピアノの上に並べている構成になっている。
ジョー・ターナーのキャリアを踏まえると、この選曲は自然だ。1920年代にニューヨークへ移住してハーレムで頭角を現し、ベニー・カーター楽団、ルイ・アームストロングとの共演、アデレイド・ホールの伴奏、さらにヨーロッパ巡演へと進んだ経歴は、当時のジャズの移動史そのものでもある。戦後はスイス、そしてパリへと居を移し、ヨーロッパで評価を受け続けた。1976年のこの録音は、そうした長い歩みの晩年に位置する作品として見ると、ひとつの集約点になっている。
パブロ・レコード期の文脈
パブロ・レコードは、グランツがジャズの名人芸を記録する場として機能していたレーベルで、同時代の流行を追うというより、スタンダードや伝統的な演奏の価値を前面に出していた。『Another Epoch - Stride Piano』もその色合いがはっきりしている。録音時点ですでに大ベテランだったターナーを、ソロで、しかも2都市に分けて残した点に、レーベルの方針が見える。
タイトルの「Another Epoch」は、直訳すれば「もうひとつの時代」といった響きがある。ターナーの演奏歴そのものが、ラグタイムの余韻を引きずる時代から、戦後ジャズ、さらに1970年代の再評価の時代へとまたがっているので、この題名ともよく噛み合っている。古い形式をそのまま保存した録音というより、長く続いた一人のピアニストの語法を、その時点の音で記録したアルバムとして受け取れる。
再発について
近年はSoul Jazz Recordsから再発も出ている。オリジナルの1976年盤と比べると、再発盤は当時のジャケットや音源を現代の流通に乗せ直した位置づけになる。作品そのものは1976年の録音を基準に考えるのが自然だが、再発によってジョー・ターナーの名が改めて目に触れる機会が増えたのも事実だ。
『Another Epoch - Stride Piano』は、ジョー・ターナーというピアニストの長い経歴を、ソロ・ピアノの形で静かにまとめた記録だ。ストライドの伝統曲とモダンなレパートリーが同居し、ニューヨークとロンドンのセッションが並ぶ構成も含めて、1976年という年の空気がそのまま残っている。
トラックリスト
- A1 Salute To The Lion 1:28
- A2 Studio Blues In C 2:26
- A3 Caravan 3:46
- A4 Squeeze Me 2:18
- A5 Willow Weep For Me 3:09
- A6 Viper's Drag 1:57
- A7 Well You Needn't 2:03
- A8 Gone With The Wind 2:02
- A9 Wedding Boogie 2:39
- B1 Rosetta 2:27
- B2 I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter 2:36
- B3 Song Of The Vagabonds 2:42
- B4 Smashing Thirds 2:17
- B5 No Idea 2:20
- B6 Cloud 15 2:39
- B7 Harry Numa 3:27