Jon Hassell / Brian Eno = ブライアン・イーノ - Fourth World Vol. 1 - Possible Musics = 第四世界の鼓動 (1980)
Jon Hassell / Brian Eno = ブライアン・イーノ 1980

Jon Hassell / Brian Eno = ブライアン・イーノ - Fourth World Vol. 1 - Possible Musics = 第四世界の鼓動 (1980)

Electronic Ambient Experimental

Jon Hassell / Brian Eno『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』について

1980年に登場した『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』は、トランペット奏者・作曲家のジョン・ハッセルと、ブライアン・イーノの共作アルバム。Electronicを基盤に、Experimental、Ambientの感触を強く持つ作品で、ハッセルが提唱した「Fourth World」という考え方を、そのままアルバムの核に置いた一枚である。タイトルにある「Vol. 1」が示す通り、単独の作品というより、ひとつの方法論の出発点として聴こえる内容になっている。

日本盤はEdtions EGからのリリースで、国内表記では『第四世界の鼓動』。1980年という時点で、アンビエントがまだ現在ほど一般化していないことを思うと、この作品の立ち位置はかなり先鋭的だったはずだ。ブライアン・イーノの空間設計と、ハッセルの演奏と発想が組み合わさることで、単なる実験音楽でも、単なる環境音楽でもない、独特の地平を作っている。

作品の位置づけ

ジョン・ハッセルは、米国メンフィス生まれのトランペット奏者であり作曲家。欧州で電子音楽やセリエル音楽を学び、その後ニューヨークでミニマル音楽の周辺に接近し、ラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリーらとの接点を持った人物として知られる。このアルバムは、そうした経歴の延長線上にありつつ、彼自身の「Fourth World」という概念を明確に打ち出した初期の重要作と見てよさそうだ。

一方のイーノは、70年代後半から80年代初頭にかけて、ロックの文脈から離れた音響設計を深めていた時期。ここでは、イーノの作家性が前面に出るというより、ハッセルのイメージを支える構造体として機能している印象がある。両者の役割が拮抗していながら、どちらか一方に寄りすぎないバランスが、この作品の特徴だろう。

聴きどころ: 「Promenade」

冒頭の「Promenade」は、このアルバムの入口として非常にわかりやすい。リズムは前に出すぎず、音の粒子が少しずつ重なっていく構成で、最初から「曲を聴く」というより「場に入る」感覚が強い。ハッセルのトランペットは、旋律をはっきり歌い上げるというより、輪郭をぼかしたまま空間に置かれていくように響く。

この曲で目立つのは、音数の少なさではなく、音の置き方の慎重さだと思う。ひとつひとつの音が次の音を押し出すのではなく、余白を残したまま連なっていくため、聴いている側は自然と細部に意識が向く。アンビエントの入口として語られることがあるのも納得しやすい流れである。

聴きどころ: 「Ba-Benzele」

「Ba-Benzele」は、アルバムの中でも特に重要な曲として知られている。ここでは、ハッセルが示す「第四世界」の輪郭がよりはっきり見える。土着的なリズム感や反復の感覚を借りながらも、特定の民族音楽をそのまま再現するのではなく、電子的な処理とスタジオ上の構成によって別の場所へ持っていく作りである。

曲の進行は穏やかだが、単調にはならない。音が前進するというより、同じ地点を少しずつ角度を変えながら見せていくような展開で、聴いていると時間の流れ方が変わる感じがある。後年のアンビエントやポスト・クラブ的な音作りを先取りした、という言い方もできそうだが、この作品は流行の先読みというより、別の聴取感覚を提示した記録として残っている。

聴きどころ: 「Chemistry」

「Chemistry」では、より抽象度の高い音像が前面に出る。メロディを追う楽しみより、音色の変化や空間の密度を追う楽しみが大きい。ここでのハッセルのトランペットは、ジャズ的なソロ楽器というより、電子音の一部として混ざり込む場面が多く、イーノの作品群に通じる質感も感じられる。

ただし、イーノ単独のアンビエント作品に比べると、ハッセルの演奏が残す「息」の感触がはっきりある。金属的でありながら人間的でもある、その中間の響きが作品全体の印象を決めている。ここにこのアルバムの独自性があるように思う。

同時代との関係

1980年前後のイーノ周辺には、環境音楽やミニマルな反復、スタジオ作業を重視する作品が多くあった。その中で本作は、単に静かな音楽として片づけにくい。ジャズ、現代音楽、電子音楽、そして非西洋的な響きへの関心が、ひとつの枠の中で交差しているからだ。比較対象としては、イーノのアンビエント作品群、あるいはラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリー以後のミニマルな流れが思い浮かぶが、このアルバムはそのどこにも完全には収まらない。

ジョン・ハッセルが後に展開する「第四世界」の発想を考えると、この一枚はその原型として重要だろう。80年代以降のワールドミュージック的な受容とは違い、ここでは「異文化を混ぜる」というより、「どこでもない場所の音楽」を作る方向が強い。そうした姿勢が、現在まで語られ続ける理由になっているように見える。

日本盤としての印象

今回の日本盤は1980年リリースで、オリジナルと同年の盤。国内タイトル『第四世界の鼓動』は、原題の概念をそのまま日本語化した印象があり、作品の方向性を比較的わかりやすく伝えている。盤面や帯の情報は別として、作品そのものは初出時点で完成度の高い形にあるため、再発盤特有の付加要素よりも、当時の空気をそのまま受け止めるタイプの一枚といえる。

全体としては、音の数を抑えながらも、聴き手の認識を静かにずらしていくアルバム。トランペット、電子音、反復、空間処理が、ひとつの風景としてまとまっている。ジョン・ハッセルとブライアン・イーノ、それぞれの仕事がはっきり感じられる一方で、最終的には両者のどちらにも回収されない独自の音像が残る作品である。

トラックリスト

  1. A1 Chemistry = ケミストリー 6:48
  2. A2 Delta Rain Dream = デルタ・レイン・ドリーム 3:22
  3. A3 Griot (Over "Contagious Magic") = グリオ 4:00
  4. A4 Ba-benzélé = バ・ベンゼレ 6:03
  5. A5 Rising Thermal 14° 16' N; 32° 28' E = ライジング・サーマル 北緯14度16分 東経32度28分 3:34
  6. B Charm (Over "Burundi Cloud") = チャーム 21:24

動画

Share
記事一覧に戻る
toast