Julia Holter - Have You In My Wilderness (2015)
Julia Holter 2015

Julia Holter - Have You In My Wilderness (2015)

Rock Pop Indie Pop

Julia Holter『Have You In My Wilderness』について

Julia Holterの『Have You In My Wilderness』は、2015年に登場した4作目のフルレングス・アルバムで、本人のソングライティングをより前面に押し出した作品として知られている。Julia Holterは1984年生まれ、アメリカ・ミルウォーキー出身のシンガー/ソングライター/マルチインストゥルメンタリストで、もともと実験性の強い作風で注目を集めてきた人物だが、この作品ではそうした要素を保ちながらも、曲の輪郭がかなりはっきりしている。タイトルの通り、ひとつの風景を見渡すような感覚がありつつ、実際には歌そのものの強さが中心にあるアルバムという印象になる。

UK盤はDominoからのリリースで、カタログ番号はWIGLP341。Dominoはロンドンを拠点にした独立系レーベルとして知られ、00年代以降のインディー・ロックやオルタナティヴの文脈で重要な役割を果たしてきた。Julia Holterのように、ポップの形式を保ちながらも音の組み立てに独自性があるアーティストを扱うには、相性のよいレーベルだと言えそうだ。

作品の位置づけ

『Have You In My Wilderness』は、Julia Holterのキャリアの中でも比較的広いリスナーに届いたアルバムとして語られることが多い。前作までで積み上げてきた室内楽的な構成感や、音のレイヤーを重ねていく手つきはそのままに、ここではメロディと歌詞の受け取りやすさがぐっと前に出ている。2010年代半ばのインディー・ポップの中でも、単純なバンド・サウンドに寄らず、アレンジの密度で勝負するタイプの作品として位置づけられるだろう。

同時代の文脈で見ると、Fiona AppleやJoanna Newsomのように、歌の存在感が強く、なおかつ曲の内部に複雑な構造を持ち込むアーティストたちと比較されやすい。とはいえ、Julia Holterの場合はジャズや現代音楽、室内楽の感触がより細かく入り込み、ひとつの曲が一定のテンポやコード進行に収まりきらないところに特徴がある。インディー・ポップという棚に置かれながら、実際にはかなり多層的な作りになっている作品だ。

聴きどころ

“Feel You”

アルバムの中でも代表曲として挙げられやすいのが“Feel You”だろう。曲の入口は比較的やわらかく、声の置き方も親密だが、進むにつれて伴奏の配置が少しずつずれていき、普通のポップソングの直線的な展開にはならない。リズムの揺れ方や、音が鳴っていない隙間の取り方にJulia Holterらしさがよく出ている。歌のメロディは覚えやすい一方で、全体の空気は簡単に説明しきれない、その両立がこの曲の核にある。

この曲は、アルバム全体の中で「聴き手をつかむ入口」として機能しているように感じられる。派手に盛り上げるのではなく、細部の変化で引き込んでいく構成で、何度か聴くうちに音の重なり方が見えてくるタイプだ。Julia Holterの作品に初めて触れる人にとっても、彼女の歌の輪郭とアレンジの緻密さが同時に伝わりやすい1曲になっている。

“Silhouette”

“Silhouette”は、アルバムの中でも少し陰影の強い曲として印象に残る。タイトル通り、輪郭は見えるのに全体像はすぐには掴めない、という感覚が曲の進行にも表れている。声の重なり方、楽器の入り方、フレーズの反復が、単純なサビの高揚とは別の方向で緊張感を作っている。歌詞を細かく追わなくても、音の配置だけで物語が進んでいるように聴こえる場面がある。

この曲では、Julia Holterが得意とする「ポップソングの形を借りながら、その内側を少しずつずらしていく」手法がよく見える。過剰に説明的ではないのに、曲の終わりまで聴くと印象が残る。アルバムの中で派手さを担うというより、全体の質感を決める重要な位置にある曲だと思える。

“Betsy on the Roof”

“Betsy on the Roof”は、アルバムの中でも特にタイトルのイメージが強く、曲の展開にも独特の浮遊感がある。リズムやメロディが一定の枠に収まりきらず、視点が少しずつ移動していくような作りで、聴いている側の耳も自然に細部へ向かう。音数は多いのに、圧迫感よりも空間の広がりが先に来るのが面白いところだ。

この曲の聴きどころは、曲全体のまとまりよりも、途中で現れる小さな変化にある。声のニュアンス、伴奏の重なり、フレーズの置き方が少しずつずれていくことで、ひとつの場面が長く持続しているように感じられる。アルバムの中では、Julia Holterの作曲の精度がよく見える1曲だと言えそうだ。

アルバム全体の印象

『Have You In My Wilderness』は、インディー・ポップの枠の中で聴くと、かなり細部志向の作品だ。メロディは前に出ているが、単純に口ずさめることだけを目的にしていない。むしろ、曲の流れが少しずつ変化し、同じフレーズでも置かれる位置によって意味が変わるような作りが続く。そうした構成の中で、Julia Holterの声は楽器のひとつとしても、言葉を運ぶ媒介としても機能している。

2015年という時点で見ると、インディー・ロックやオルタナティヴの領域では、シンプルなギター・バンドの形式から少し離れた作品が増えていた。その流れの中で本作は、ポップソングとしての分かりやすさと、実験的な作曲感覚の両方を持つアルバムとして印象を残す。タイトルだけを見れば静かな風景を思わせるが、実際には音の配置や歌の運びにかなりの情報量が詰まっている。Julia Holterのディスコグラフィーの中でも、歌の存在感と構成の緻密さがうまく噛み合った一枚として記憶されやすい作品だろう。

トラックリスト

  1. A1 Feel You
  2. A2 Silhouette
  3. A3 How Long?
  4. A4 Lucette Stranded On The Island
  5. A5 Night Song
  6. B1 Sea Calls Me Home
  7. B2 Everytime Boots
  8. B3 Betsy On The Roof
  9. B4 Vasquez
  10. B5 Have You In My Wilderness

動画

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