Kendrick Lamar - Good Kid, M.A.A.D City (2012)
Kendrick Lamar 2012

Kendrick Lamar - Good Kid, M.A.A.D City (2012)

Hip Hop Conscious

Kendrick Lamar『good kid, m.A.A.d city』レビュー

Kendrick Lamarの『good kid, m.A.A.d city』は、2012年にUSのInterscope Recordsから登場した2作目のスタジオ・アルバムで、彼の名を一気に世界規模へ押し上げた重要作だ。Compton出身のラッパーとしての視点を軸に、地元の空気、家族、仲間、誘惑、暴力の気配までを、1本の映像作品のように組み立てた内容になっている。副題にある通り、単なる曲集というより「a short film by Kendrick Lamar」という物語性の強い作品として設計されている点がまず大きい。

この盤は初回USプレスで、ゲートフォールド仕様。収録はデラックス相当で、3曲のボーナス・トラックを含む構成だ。ジャケット周りの作りも含め、2012年当時のメジャー盤らしい情報量の多さがある一方で、音の中心はかなり明確で、Kendrickの語り口とビートの切り替わりを軸に進んでいく。聴いていてまず感じるのは、曲ごとの完成度だけでなく、アルバム全体の流れがかなり緻密に作られていることだ。

作品の位置づけ

『good kid, m.A.A.d city』は、Kendrick Lamarにとってブレイクスルーの位置にある作品として知られている。前作『Section.80』で示していた社会性や内省はそのままに、ここではストーリーの輪郭がよりはっきりし、プロダクションもメジャー作らしい厚みを帯びる。Top Dawg Entertainment周辺の流れを背景にしつつ、Interscope/Aftermathの文脈に乗ったことで、ヒップホップの中でも広い層に届く作品になった印象だ。

同時代のコンシャス寄りラップの中でも、この作品は説教臭さに寄らず、具体的な場面描写で引っ張っていくところが強い。Nasの都市描写や、The Roots以降のストーリー性のある作品とも比較されやすいが、Kendrickはそこに西海岸の生活感と、個人の記憶を細かく差し込んでいる。結果として、社会の話と私的な話が分離せず、同じ温度で並んでいる。

注目曲「Swimming Pools (Drank)」

アルバム中でも特に広く知られているのが「Swimming Pools (Drank)」だ。タイトルだけ見ると酒を祝う曲のように見えるが、実際には飲酒の誘惑と、それがコミュニティの中でどう機能しているかを見つめる内容になっている。フックの反復が強く、クラブ向けの抜けの良さを持ちながら、歌詞の中身はかなり逆方向に向いている。このねじれが、曲を単なるヒット曲以上のものにしている。

聴感上も印象的で、ビートの開け方とKendrickの語りの緊張感がぶつかる構造だ。パーティーの空気を持ちながら、途中で視点が内側へ引き戻される感じがある。アルバム全体の中では、若さゆえの流されやすさと自己観察が同時に出る場面として機能している。

注目曲「Bitch, Don’t Kill My Vibe」

「Bitch, Don’t Kill My Vibe」は、この作品の中でもKendrickのスタンスを端的に示す1曲だ。外からの圧力や、周囲の雑音に対して自分の集中を守ろうとする姿勢がはっきりしている。タイトルの強さが先に立つが、実際には攻撃性だけで押す曲ではなく、落ち着いたテンポの中で自分の感覚を保とうとする内容になっている。

この曲がアルバム内で効いているのは、派手さよりも持続力があるからだ。大きな盛り上がりを作るというより、Kendrickがどの位置から話しているのかを固定する役割がある。以後の彼のキャリアでも重要になる、「周囲に飲まれずに語る」感覚の土台が、ここではかなり早い段階で見えている。

注目曲「m.A.A.d city」

タイトル曲「m.A.A.d city」は、アルバムの核に近い存在だ。m.A.A.d の語は「My Angry Adolescence Divided」と「My Angel’s On Angel Dust」の両方の意味を持つとされていて、作品全体の二面性をそのまま言い表している。曲の中では、Comptonの現実を単純な美談にも悲惨譚にも寄せず、断片的な記憶と緊張の連なりとして描いている。

音の面でも、かなり切迫感がある。ビートの進み方に合わせてKendrickの声色が変わり、場面転換のように話が進むので、1曲というより短編の一場面を見ている感覚に近い。アルバムの「short film」というコンセプトを最も強く感じる部分でもある。

代表曲とサンプル使い

この盤では、サンプルや引用の使い方もかなり重要だ。たとえば「Money Trees」ではBeach Houseの「Silver Soul」が使われており、硬質なラップの中に浮遊感のある層が差し込まれる。「Poetic Justice」ではJanet Jacksonの「Any Time, Any Place」の断片が使われ、恋愛曲としての色合いを支えている。こうした選曲が、単純な西海岸色だけではない広がりを作っている。

また、Dr. Dreが参加する楽曲群や、Mary J. Bligeを迎えた「Real」など、客演の置き方も作品の流れに沿っている。派手な客演競演というより、Kendrickの物語の中に必要な声だけを置いた印象だ。ヒット曲として知られる楽曲が複数ある一方で、アルバム全体としては曲単位の強さより、通して聴いたときの筋の通り方が際立つ。

US初回盤について

このUS初回プレスは、ゲートフォールド仕様で、シュリンク上のステッカーには「Deluxe Edition」「Includes 3 Bonus Songs」とある。ただし品番表記には一部誤記も見られる。ブックレットやクレジット面では録音場所、ミックス、サンプル出典まで細かく記載されていて、作品の作り込みを裏側から確認できる内容だ。2012年のオリジナル盤として、当時のリリース感をそのまま持っている盤といえる。

『good kid, m.A.A.d city』は、Kendrick Lamarのディスコグラフィーの中でも、物語性、サンプル感覚、ラップの切れ味が高い密度でまとまった一枚だ。コンセプトの強さだけでなく、1曲ごとの記憶の残り方もはっきりしている。聴き終えたあとに、曲順ごとに場面が戻ってくるタイプのアルバムである。

トラックリスト

  1. A1 Sherane A.K.A Master Splinter's Daughter
  2. A2 Bitch, Don't Kill My Vibe
  3. A3 Backseat Freestyle
  4. A4 The Art Of Peer Pressure
  5. B1 Money Trees
  6. B2 Poetic Justice
  7. B3 Good Kid
  8. B4 M.A.A.D City
  9. C1 Swimming Pools (Drank) (Extended Version)
  10. C2 Sing About Me, I'm Dying Of Thirst
  11. C3 Real
  12. D1 Compton
  13. D2 The Recipe
  14. D3 Black Boy Fly
  15. D4 Now Or Never

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