Kikagaku Moyo = 幾何学模様 - Masana Temples = マサナ寺院群 (2018)
Kikagaku Moyo『Masana Temples』レビュー
幾何学模様ことKikagaku Moyoが2018年に発表した『Masana Temples』は、バンドの名をそのまま体現するような作品だ。サイケデリック・ロックを軸にしながら、フォークやジャズ寄りの運び、ファンク的な粘りを自然に混ぜ込み、曲ごとの色を変えながらもアルバム全体の流れは崩さない。東京で結成され、海外でも評価を広げてきたバンドの、その時点での到達点として語られることが多い一枚でもある。
リリースは日本盤で、レーベルはGuruguru Brain。2018年当時の同レーベルは、アジア圏の気持ちよさのある音楽を扱う独立レーベルとして存在感を強めていた時期で、この作品もその文脈の中にきれいに収まっている。帯には日本語の情報が入り、バーコードも数字なしの装飾的な仕様。物としての作りにも、作品の世界観をそのまま持ち込む意識が見える盤だ。
作品の位置づけ
Kikagaku Moyoは2012年に東京で始動したサイケデリック・ロック・バンドで、当時の日本のインディー/サイケ周辺でも独自の存在感を持っていた。『Masana Temples』は、そうした活動の中でも特に輪郭がはっきりした作品として受け止められている。勢いだけで押し切るのではなく、演奏の間合い、音数の整理、曲の切り替えがかなり丁寧だ。バンドの持ち味である有機的なバンド・アンサンブルが、より立体的に聴こえるアルバムでもある。
同時代の日本のサイケデリック・ロックを思い浮かべると、海外のクラウトロック、ストーナー、フォーク・ロックの影響をそれぞれ別の場所で吸収したバンドが多い中で、Kikagaku Moyoはその接点をかなり自然にまとめている印象がある。派手なギミックより、反復の気持ちよさとメロディの通りやすさが前に出るつくり。聴き進めるほど、演奏の細かいズレや重なりが効いてくるタイプの作品だ。
冒頭からアルバムの流れを作る曲たち
この作品でまず目を引くのは、曲の入り方と展開の作り方だ。いきなり大きく盛り上げるのではなく、リズムとギターの反復で場を整え、そこから少しずつ音を増やしていく。聴き手の意識を急がせないまま、自然に深いところへ連れていく進行である。サイケデリック・ロックにありがちな過剰な長尺感よりも、曲ごとの役割がはっきりしているのがこのアルバムの特徴だろう。
特に前半は、勢いのある曲と、呼吸を整えるような曲の配置がうまい。リズムが前に出る場面ではファンク的なノリが見え、そこにフルートやコーラス、ギターの残響が重なることで、単純なロックの推進力とは少し違う浮遊感が生まれる。耳に残るのは派手なフックというより、繰り返しの中で少しずつ変わる音の配置。そこがこのバンドらしさでもある。
中盤の聴きどころ
中盤では、フォーク・ロック寄りの親しみやすさが前に出る曲が印象に残る。アコースティックな質感や、歌の線の細やかさがはっきり聴こえる場面では、サイケデリックな装飾が単なる色づけではなく、曲の中心を支える役割になっている。音が厚いのに、どこか空気が通っているのが面白いところだ。
また、演奏の揺れ方にも注目したい。きっちり揃えるというより、少しだけ前後するビートや、ギター同士の絡み方が曲の温度を作っている。スタジオで組み上げた完成品というより、バンドで鳴らしている感じが残る。だからこそ、ヘッドフォンで細部を追う聴き方でも、部屋で流して全体の流れを追う聴き方でも、受け取り方が変わる作品になっている。
終盤に見えるアルバム全体のまとまり
後半に進むほど、『Masana Temples』は単独の名曲集というより、一つの流れとして機能していく。強い曲を並べるだけではなく、テンポ感や音の密度を調整しながら、最後まで同じ空気を保つ構成だ。アルバム単位で聴いたときに残るのは、曲名よりも、あの反復と展開の感覚そのものかもしれない。
この時期のKikagaku Moyoは、海外のサイケデリック再評価の流れの中でもよく語られていた。Eternal TapestryやComets on Fireのような轟音寄りの文脈とも、よりフォーク色の強いアシッド・フォークとも接点があるが、幾何学模様の場合はそこに和声感や歌の柔らかさが加わる。結果として、過激さよりも、長く聴けるバランスのよさが前に出る。
盤としての見どころ
日本盤は帯付きで、日本語情報がしっかり入った仕様。Guruguru Brainらしい、作品世界をそのままパッケージに落とし込んだ作りになっている。フロントのステッカーには「Brain rolling dreamy psychedelia from Japan.」というコピーが入り、BBQや自転車、宇宙旅行まで想定した文言も添えられている。少しユーモラスだが、このアルバムの軽快さと広がりを端的に示す表現でもある。
『Masana Temples』は、Kikagaku Moyoの代表作の一つとして挙げられることが多い作品だ。バンドの持つサイケデリックな感覚、フォーク的な親密さ、ファンク的な粘りが、2018年という時点でかなり自然な形にまとまっている。派手な一撃で押すというより、通して聴いたあとに構造が見えてくるタイプのアルバム。幾何学模様というバンド名の意味を、音の組み立てでそのまま感じさせる一枚である。
トラックリスト
- A1 Entrance = 入信
- A2 Dripping Sun = 滴る太陽
- A3 Nazo Nazo = なぞなぞ
- A4 Fluffy Kosmisch = ふわっと宇宙
- A5 Majupose = マジュポセ
- B1 Nana = 七
- B2 Orange Peel = 蜜柑の皮
- B3 Amayadori = 雨宿り
- B4 Gatherings = 民、集まりし場所
- B5 Blanket Song = ブランケットのうた