King Crimson = キング・クリムゾン - The Young Persons' Guide To King Crimson = 新世代への啓示(キング・クリムゾン・ベスト) (1976)
King Crimson『The Young Persons' Guide To King Crimson』1976年日本盤について
キング・クリムゾンの『The Young Persons' Guide To King Crimson』は、1976年に登場したベスト盤で、初期から中期までの活動をまとめた編集作品だ。日本では『新世代への啓示(キング・クリムゾン・ベスト)』という題で出ており、ワーナー・パイオニア配給のアトランティック盤としてリリースされている。2枚組、ゲートフォールド仕様、青い帯、英日併記の解説・歌詞シート付きという作りで、当時の国内盤らしい情報量の多さが目を引く。
キング・クリムゾンは、1968年結成の英ロック・バンドで、プログレッシブ・ロックの初期を代表する存在のひとつだ。音楽性は時期ごとにかなり変化していくが、このベスト盤はその変遷を、単なる代表曲集ではなく、バンドの輪郭が見える形で切り取っている。『In The Court Of The Crimson King』期の象徴的な楽曲群に加え、1970年代前半の編成による曲まで含まれているため、バンドの歴史を追う入口としても位置づけられる作品だ。
作品の構成と聴きどころ
このアルバムの面白いところは、年代順の整理よりも、楽曲の性格がはっきり伝わる並びにある点だ。初期の楽曲では、メロトロンやサックス、アコースティックな質感、そして急激に展開する構成が前面に出る。そこから徐々に、より硬質で緊張感の強い演奏へ移っていく流れが見える。プログレという言葉だけでは収まりきらない、室内楽的な静けさと即興性の同居が、この編集盤でも確認できる。
日本盤のパッケージでは、インサートに英語と日本語のライナーが入っている。さらに8ページの写真ブックレットが付属し、ゲートフォールドの内側には各曲の録音場所や制作クレジットも記されている。こうした資料性の高さは、当時まだ情報を集めにくかった海外ロック作品を聴くうえで、かなり重要だったはずだ。
「21st Century Schizoid Man」について
キング・クリムゾンの代表曲としてまず挙がるのが「21st Century Schizoid Man」だろう。歪んだギター、切り刻むようなリズム、サックスの鋭いフレーズが、冒頭から強い圧を持って立ち上がる。1969年のデビュー作を象徴する曲であり、のちのプログレやアート・ロックの方向性を考えるうえでも、重要な起点になっている。重さがある一方で、単純なハードロックには収まらない構造の複雑さがある。
この曲は、バンドの初期像を端的に示す存在でもある。ブルースやジャズの要素を含みながら、演奏はかなり切迫していて、歌メロよりも全体の推進力が先に来る。ベスト盤の中で聴くと、キング・クリムゾンが最初から「美しい曲を書くバンド」ではなく、「形式そのものを揺らすバンド」として始まったことがわかる。
「Epitaph」「The Court of the Crimson King」の存在感
「Epitaph」と「The Court of the Crimson King」は、このベスト盤でも中心に置かれるタイプの曲だ。前者はメロトロンの厚みと、終末感のある歌詞、ゆるやかに高まっていく構成が印象に残る。後者は、バンド名をそのまま体現するような大曲で、重厚なコーラス感と展開の大きさが特徴だ。どちらもキング・クリムゾンの初期を語るうえで外せない。
この2曲を続けて聴くと、当時のイギリスのプログレ勢の中でも、キング・クリムゾンが特に劇的な構成を重視していたことが見えてくる。YesやGenesisが長大な構築美を伸ばしていったのに対し、キング・クリムゾンはより不穏で、摩擦のある音像を作っていた、という印象につながる。
「I Talk To The Wind」の別ヴァージョン
この盤で特に注目したいのが「I Talk To The Wind」だ。マスターノートによれば、このコンピレーションに収録された版は、1968年7月にロンドンの93A Brondesbury Roadで録音されたもので、『In The Court Of The Crimson King』収録版とは異なる。最大の違いはボーカルで、こちらはJudy Dybleが歌っている。Fairport Conventionの名でも知られる彼女の声が入ることで、曲の印象はかなり変わる。
このヴァージョンは、のちに『The Brondesbury Tapes (1968)』にもGiles, Giles and Fripp名義で収録されている。つまり、このベスト盤は単なるヒット曲集ではなく、バンド形成期の資料的価値も持つ編集になっている。キング・クリムゾンの歴史を初期の段階から追える点で、かなり特徴的だ。
1970年代前半の曲が加わる意味
この編集盤には、初期の代表曲だけでなく、1970年代前半の編成による楽曲も含まれている。そこでは、演奏の密度やアンサンブルの緊張感がいっそう強まり、同じキング・クリムゾンでも初期の叙情性とは違う方向へ進んでいることがわかる。ジャズ・ロック寄りの即興性や、より尖ったリズム処理が見えてくるところが興味深い。
録音クレジットを見ると、Wessex Sound Studios、Command Studios、Olympic Sound Studios、Amsterdam Concertgebouwなど、複数の現場が並ぶ。スタジオ録音とライヴ録音が混在していることも、このバンドの性格に合っている。完成された作品というより、時期ごとの表情を並べた記録として読むと、より筋が通る。
日本盤としての特徴
この日本盤は、Atlanticのオリジナル仕様を踏まえつつ、国内流通向けに丁寧に整えられている。ラベルには「℗ 1976 Atlantic Recording Corporation」「Made by Warner-Pioneer Corporation, Japan, under license from Atlantic Recording Corp U.S.A.」とあり、1976年当時の正規ライセンス盤としての性格がはっきりしている。さらに、同年発売のオリジナル盤として扱える点も、このレコードの基本情報として重要だ。
キング・クリムゾンの入口として見ると、この作品は代表曲の確認だけでなく、バンドがどの段階で何をしていたかを整理するのに向いた一枚だ。初期の象徴的な楽曲、別テイクの「I Talk To The Wind」、そして1970年代前半の変化が一つのパッケージに収まっていて、1976年時点での“キング・クリムゾン像”をよく伝えている。
トラックリスト
- Epitaph = エピタフ(墓碑銘) 8:52
- A2 Cadence & Cascade = ケイデンスとカスケイド 3:36
- A3 Ladies Of The Road = レディース・オブ・ザ・ロード 5:27
- A4 I Talk To The Wind = 風に語りて 3:17
- B1 Red = レッド 6:18
- B2 Starless = スターレス 12:17
- C1 The Night Watch = 夜を支配する人々 4:38
- C2 Book Of Saturday = 土曜日の本 2:52
- C3 Peace - A Theme = 平和 / テーマ 1:14
- C4 Cat Food = キャット・フード 2:43
- C5 Groon = グルーン 3:30
- C6 Coda From Larks' Tongues In Aspic, Part I = 太陽と戦慄 パートI 2:09
- Moonchild = ムーンチャイルド 2:24
- D2 Trio = トリオ 5:36
- In The Court Of The Crimson King = クリムゾン・キングの宮殿 9:21