Liquid Liquid - Remixes (1998)
Liquid Liquid『Remixes』(1998)について
Liquid Liquidの『Remixes』は、1998年にUKのMo Waxから出た作品で、Liquid Liquidの音楽を別の角度から聴き直せる一枚だ。オリジナル曲の持つ反復、打楽器的な手触り、低音の粘りを土台にしながら、リミックスという形式を通してクラブ寄りの感覚へ接続していく内容になっている。Liquid Liquidといえば、1980年代前半のニューヨーク・ダウンタウン・シーンを代表するバンドのひとつで、99 Recordsに残した音源や、特に「Cavern」で知られる存在だ。ヒップホップ側からも参照されてきたグループで、後年のダンス・ミュージックやインディーの文脈でもたびたび名前が挙がる。
この1998年盤は、そうしたバンドの過去を整理するベスト盤的なものではなく、Mo Waxという90年代UKのトリップホップ周辺を代表するレーベルの感覚の中にLiquid Liquidを置き直した作品として見ると分かりやすい。レーベルの持つサンプル感覚、ビート重視の編集感覚と、Liquid Liquidの元々のストイックな反復がよく噛み合っている印象だ。盤面はダイカット・スリーブ仕様で、見た目にも少し無骨な作り。作品全体の性格とも合っている。
Liquid Liquidというバンドの位置づけ
Liquid Liquidは、もともとより実験的な名義で活動していたメンバーが、よりパーカッシブな方法に軸足を移して成立したバンドだとされる。観客に打楽器を持ち寄らせるようなライブのエピソードも残っていて、バンドの音楽が「曲を聴かせる」というより、音の層とリズムの往復で場を作る方向に向かっていたことがうかがえる。メンバーにはDennis Young、Salvatore Principato、Scott Hartley、Richard McGuireが名を連ねる。特にDennis Youngのマリンバが加わったことで、単なるポストパンクでもファンクでもない、独特の硬質なグルーヴが形になった。
80年代当時の文脈で見ると、Liquid Liquidは同じニューヨークのダンス・パンクやミニマル・ファンクの流れと近い場所にいながら、より削ぎ落とされた反復の強さで存在感を出していたグループだ。後年のビッグ・ビートやブレイクス、インディー・ロックの一部にも通じる要素が早い段階でまとまっていた、と言えるかもしれない。
「Cavern」とその周辺
Liquid Liquidを語るうえで外せないのが「Cavern」だ。グループの代表曲として知られ、同時にGrandmaster Flash & The Furious Fiveの「White Lines」で一部が再演されたことで広く名前が知られるようになった。オリジナルの「Cavern」は、メロディを前に出すというより、ベースとパーカッション、短いフレーズの繰り返しで引っ張っていく構造が印象的だ。いかにもサンプリングされそうな、という言い方では足りないくらい、断片が強く、リズムの単位が前面に出ている。
『Remixes』でも、この「Cavern」が持っていた素材感が別の形で見えやすい。リミックスという形式によって、元の曲の輪郭が少しずつずらされ、ダンスフロア向けの圧や、音の配置の面白さが際立つ。原曲を知っていると、どこが残され、どこが切り替えられているのかを追う楽しみがあるし、知らないまま聴いても、ループの持続と抜き差しの感覚が自然に伝わってくるはずだ。
『Remixes』の聴きどころ
この作品の面白さは、Liquid Liquidの音楽がもともと持っていた「踊れるが、整いすぎない」という性格が、リミックスを通してむしろはっきりするところにある。音の隙間がきちんと残されていて、そこにベースやパーカッションが差し込まれると、単純な高揚ではなく、身体の重心が少しずつ引き上げられる感じが出る。派手な展開で押すタイプではないが、同じフレーズが少し形を変えて戻ってくるたびに、曲の重心がずれたように聴こえる。
Mo Waxからの1998年リリースという点も重要だ。90年代後半のMo Waxは、ヒップホップ、ブレイクビーツ、ダウンテンポ、実験性の交差点に立っていたレーベルで、Liquid Liquidのような80年代のバンドを単なる懐古ではなく、現在進行形の素材として扱う空気があった。結果として『Remixes』は、過去の名曲集というより、Liquid Liquidの音が90年代末の耳でどのように再配置されるかを示す一枚になっている。
作品全体の印象
聴いていてまず残るのは、音の密度よりもリズムの輪郭だ。ギターが前に出る場面でも、ドラムが目立つ場面でも、最終的には反復の気持ちよさに収束していく。Liquid Liquidの音楽が、パンクの粗さとファンクの身体性、そしてアート寄りの実験性のあいだに立っていたことが、この作品でも確認できる。1998年という時点で振り返ると、彼らの音はすでに「古典」になっていたはずだが、このリミックス集では古さよりも、素材としての強さが前に出る。
初期80年代のニューヨーク・アンダーグラウンド、サンプリング文化、90年代UKのレーベル感覚。その三つが一本の線でつながるような作品として、『Remixes』はLiquid Liquidの位置を見直す入口になっている。代表曲「Cavern」を含む彼らの核が、別の時代の手つきでどう解釈されるかを確かめられる一枚、そんな捉え方がしやすい。
トラックリスト
- A Cavern (The Cut Chemist Rocks A Rave In A Missile Silo Remix)
- B Scraper (Psychonauts Remix)
動画
- Liquid Liquid - Cavern (Cut Chemist Rocks A Rave In A Missile Silo Remix) (vinyl)
- Liquid Liquid - Scraper (Psychonauts Remix) (vinyl)