Lizzy Mercier Descloux - Lizzy Mercier Descloux (1984)
Lizzy Mercier Descloux『Lizzy Mercier Descloux』邦題:『純・アフリカ』について
Lizzy Mercier Desclouxは、フランス出身のシンガー、作家、画家としても知られるリジー・メルシエ・デクルーの3作目にあたるアルバムで、1984年に発表された作品である。日本盤は同年にEpic Internationalからリリースされており、1980年代前半の彼女の音楽活動を代表する一枚として位置づけられる。フランスでは収録曲に由来する別タイトルでも流通し、のちの再発では別名義で扱われることもあるが、この盤は本人名義のセルフタイトル作としてまとまっている。
このアルバムの大きな特徴は、南アフリカのヨハネスブルグで録音され、アフリカ音楽のリズムや質感を土台にしながら、80年代フレンチポップ、ポストパンク、ラテンの要素を交差させている点にある。ムバカンガをはじめとする当時のアフリカ音楽の感覚を、欧州のポップ・ミュージックの文法にそのまま接続しているような構成で、後年「ワールドミュージック」と呼ばれる流れを先取りした作品として語られることが多い。ポール・サイモンの『Graceland』以前に似た視点を示していた、という文脈でも知られている。
作品の位置づけ
リジー・メルシエ・デクルーは、初期にはニューヨークやパンク/アート・ロック周辺の空気とも近い場所にいた人物で、この3作目ではそれまでの都市的で尖った感触を残しながら、より広いリズムの世界へ踏み込んでいる。単に「異国風の音」を足したアルバムではなく、打楽器のノリや反復の設計が曲の骨格そのものになっているところが重要で、彼女のディスコグラフィーの中でも方向性の転換点として聴ける一枚である。
同時代の文脈で見ると、ポップ、ファンク、アフロ、ラテン、ポストパンクを横断する試みは、アートスクール由来の感覚を持つミュージシャンたちに共通する動きでもあった。ブライアン・イーノ周辺の実験性、トーキング・ヘッズ以降のリズム志向、あるいはフレンチ・ポップの軽やかさといった要素を、より現場感のある演奏と結びつけた作品としても理解しやすい。
冒頭から引き込む流れ
アルバム全体を通して、まず耳に入るのはビートの立ち方である。パーカッションが前に出て、ベースが細かく動き、上物のギターやキーボードがその上を軽くすり抜けていく。歌は強く押し出すというより、リズムの隙間に言葉を置いていくような感触で、英語圏のロックともフランス語圏のポップとも違う、独特の距離感を作っている。音数は多いが、密度で圧迫するタイプではなく、身体が先に反応するような組み立てが印象に残る。
録音地がヨハネスブルグであることも、このアルバムの手触りを決めている。アフリカ音楽のグルーヴを「引用」するのではなく、現地の演奏環境と接続しながら作品化しているため、机上のコンセプト盤とは異なる生々しさがある。耳で追うと、曲ごとのテンポ感やリズムの揺れがきちんと違っていて、同じ方向の音作りでも単調になりにくい。
注目曲「Mais où sont passées les gazelles ?」
このアルバムを語るうえで外せないのが「Mais où sont passées les gazelles ?」である。フランス盤ではタイトルにもなった曲で、アルバムの顔として扱われてきた。軽快なリズムと、どこかとぼけたような語感のフレーズが噛み合っていて、ポップソングとしての輪郭がはっきりしている。タイトルの印象だけで言葉遊びの曲に見えるが、実際にはビートの推進力とコーラスの配置がしっかり作られており、アルバムの中でも入口として機能している。
この曲では、彼女の声が前に出すぎないことが効いている。メロディを大きく歌い上げるより、リズムの上で言葉を転がすような歌い方で、楽器群の細かな動きとぶつからない。フレンチ・ポップの洗練と、アフロ系リズムの推進力が、かなり自然な形で同居している一曲である。
注目曲「Zulu Rock」的なグルーヴ
後年の再発盤では『Zulu Rock』の名で知られることもあるこのアルバムは、曲単位で見てもリズムの設計が分かりやすい。特にタイトルに通じるようなトラックでは、ロック的な骨組みにアフリカ由来の反復が組み込まれ、演奏が前へ進むたびに景色が少しずつ変わっていく。ギターの切り方、ベースのうねり、打楽器の置き方が、いわゆる「ダンス・ロック」とも少し違う感覚を作っている。
ここでは、ポップなフックだけで押し切るのではなく、同じパターンを保ちながら細部を変えていくことで熱を持続させている。曲の表面は明るいが、単純な快活さだけでは終わらない。アレンジの隙間にある硬質さが、作品全体の芯になっている。
日本盤としての見え方
1984年の日本盤はEpic Internationalからのリリースで、当時の輸入ポップ/ニューウェーブの流れの中でも、かなり個性の強い一枚として置かれていたはずだ。ジャケットとクレジットの見え方も含めて、一般的なロック・アルバムとは少し違う佇まいがある。タイトル表記や国ごとの扱いに揺れがある作品だが、この日本盤では1984年の作品として、彼女の代表作のひとつをそのまま捉えることができる。
Lizzy Mercier Desclouxは、ポストパンク以降の感覚を持ちながら、アフリカ音楽やラテンの要素を、流行語になる前の段階で作品に落とし込んだアルバムである。派手なヒット曲集というより、リズムの組み方、歌の置き方、録音の空気感が一体になった記録。1980年代前半の国境をまたぐポップのあり方を、かなり早い時期に示した一枚として読める。
トラックリスト
- A1 It's All My Imagination
- A2 Abyssinia
- A3 Gazelles
- A4 Dolby Sisters Saliva Brothers
- A5 Eclipse
- A6 Les Dents De L'Amour
- B1 Wakwazulu Kwezizulu Rock
- B2 Momo On My Mind
- B3 I'm Liquor
- B4 Queen Of Overdub Kisses
- B5 Sun's Jive
- B6 All The Same
動画プレイリスト
このアーティストについて
Lizzy Mercier Desclouxは、1956年12月16日にフランス・パリで生まれたシンガー、ミュージシャン、作家、画家だ。2004年4月20日にフランス・コルシカ...
Lizzy Mercier Descloux のプロフィール・作品一覧