Massive Attack - Blue Lines (1991)
Massive Attack 1991

Massive Attack - Blue Lines (1991)

Electronic Downtempo Trip Hop

Massive Attack『Blue Lines』――ブリストル発の新しい低音のかたち

Massive Attackの『Blue Lines』は、1991年に登場したデビュー・アルバムで、後に「トリップ・ホップ」と呼ばれる流れを決定づけた重要作として語られている。出身地はイングランド・ブリストル。もともとThe Wild Bunchの流れをくむ集団で、Robert Del Naja、Grant Marshall(Daddy G)、Andrew Vowlesを中心に、のちにAdrian Thaws(Tricky)も加わる形で知られるようになった。ヒップホップの手法、ダブの低音、ソウルの感触、そして都市的な静けさが同居する一枚で、90年代以降の英国電子音楽の土台のひとつになった作品だ。

この1991年ヨーロッパ盤は、オリジナル時期のリリース。Wild Bunch Recordsのクレジットで出ているのが特徴で、のちのMassive Attack作品とは少し事情が異なる。アルバム全体を通して、ビートは重く、テンポは落ち着き、音数は多すぎない。それでも空間の使い方が巧みで、音が止まったあとにも余韻が残る。いわゆる派手なダンス・アルバムではなく、じっくり聴くことで輪郭が見えてくるタイプの作品だ。

アルバムの位置づけ

『Blue Lines』は、Massive Attackにとって単なるデビュー作ではなく、グループの方向性をはっきり示した作品でもある。サンプルの使い方、ラップと歌の配置、ソウルフルな要素の取り込み方が、当時のUKシーンの中でも独自の立ち位置を作っている。アメリカのヒップホップやR&Bを参照しながらも、ロンドン的なクラブ感覚とは少し違う、ブリストル特有の湿度と距離感がある。後年のPortisheadやSneaker Pimpsなどと並べて語られることも多いが、その前提を作った一枚として見られることが多い。

また、1991年は湾岸戦争の影響でグループ名の表記が一時的に変更された時期でもある。この盤でも、当時の事情を反映した表記が見られる。そうした時代背景も含めて、作品が単なる音楽以上の文脈を持っていたことがわかる。

「Safe From Harm」

冒頭を飾る「Safe From Harm」は、このアルバムの入口として非常に重要な曲だ。低くうねるベースと、ゆっくり組み上げられるビートがまず印象に残る。楽曲にはBilly Cobhamの「Stratus」からのサンプルが使われており、その素材が曲の推進力を作っている。派手に展開するというより、同じ重心を保ちながら少しずつ熱を上げていく構成で、アルバム全体の空気を最初に決める役割を担っている。

聴きどころは、リズムの隙間とヴォーカルの置き方だろう。音を詰め込みすぎず、余白を残したまま進むので、結果として各パートがよく見える。ソウルやヒップホップの要素を下敷きにしつつ、クラブの即効性よりも、曲の内部にある圧力で引っ張るタイプの1曲だ。

「Unfinished Sympathy」――代表曲としての存在感

『Blue Lines』を語るうえで外せないのが「Unfinished Sympathy」。Massive Attackの代表曲として最も知られている楽曲のひとつで、アルバムの中でも特に広い層に届いた曲だ。ストリングスを前面に置いた展開と、ビートの組み立てが特徴で、クラブ・ミュージックの文脈にありながら、ポップソングとしても強い輪郭を持っている。サンプリングやスクラッチの使い方も含めて、曲の密度は高いが、聴感は不思議と開けている。

この曲は、のちのトリップ・ホップ像を象徴する存在としても扱われることが多い。ラップや歌が前に出すぎず、オーケストラ的な広がりとビートが同じ画面に収まっている感じがある。Massive Attackの音楽が「暗い」「重い」とだけは言い切れないことを示す曲でもあり、アルバムの中で最も記憶に残りやすい場面のひとつになっている。

「Daydreaming」

「Daydreaming」は、アルバムの中でもサンプル感覚が前面に出た曲だ。Kool & the Gangの「Mambo」から複数の要素を取り込んでおり、断片を組み合わせながら曲の流れを作っている。タイトルどおり、意識が少し漂うような感触があり、しかしただ穏やかなだけではない。リズムの配置と音の重なりで、静かな緊張が保たれている。

この曲は、Massive Attackが単に「遅いビートのグループ」ではなく、サンプルを素材として再構成する感覚に長けていたことを示している。ヒップホップの編集感覚と、ブリストルのダビーな響きが自然に接続されていて、アルバムの中でも制作手法の輪郭が見えやすい1曲だ。

「Be Thankful For What You’ve Got」

William DeVaughnの同名曲をカバーした「Be Thankful For What You’ve Got」は、原曲の持つソウル感をMassive Attack流に組み替えた楽曲だ。ここでは歌ものとしてのわかりやすさがありつつ、伴奏の作りはあくまでアルバム全体の文脈に沿っている。オリジナルのメロディやメッセージを踏まえながら、1991年の時点でのUKプロダクションの感触に置き換えている印象がある。

この曲がアルバム内で果たす役割は大きい。『Blue Lines』がヒップホップやダブだけでなく、ソウルの受け継ぎ方にも意識的だったことをはっきり示しているからだ。ラップ中心の曲が並ぶ中で、こうしたカバーが入ることで、作品の幅がより見えやすくなっている。

まとめ

『Blue Lines』は、Massive Attackの出発点であると同時に、90年代UK音楽の地図を塗り替えた作品でもある。サンプル、ビート、歌、空間の扱いがそれぞれ独立しながら、全体としては一つの低い重心にまとまっている。派手に主張する場面は多くないが、曲が進むほどに構造が見えてくるアルバムだ。

代表曲の「Unfinished Sympathy」を中心に、冒頭の「Safe From Harm」、編集感覚が際立つ「Daydreaming」、ソウルの輪郭を残した「Be Thankful For What You’ve Got」まで、どの曲もこの時点でMassive Attackがすでに独自の言語を持っていたことを示している。ブリストルという土地、1991年という時代、その両方がそのまま音になったような一枚だ。

トラックリスト

  1. A1 Safe From Harm 5:16
  2. A2 One Love 4:48
  3. A3 Blue Lines 4:21
  4. A4 Be Thankful For What You've Got 4:09
  5. A5 Five Man Army 6:04
  6. B1 Unfinished Sympathy 5:08
  7. B2 Daydreaming 4:14
  8. B3 Lately 4:26
  9. B4 Hymn Of The Big Wheel 6:36

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