Matthew Herbert - Bodily Functions (2001)
Matthew Herbert『Bodily Functions』レビュー
Matthew Herbertの『Bodily Functions』は、2001年にUK & Europeで!K7 Recordsから登場したアルバムだ。電子音楽を軸にしながら、ジャズやハウスの感触を自然に取り込んだ一枚で、Herbertらしい「日常の音を素材にする」発想が、より身体感覚に近い形でまとまっている作品として知られている。ビートの組み立て方は緻密で、音の隙間の使い方にも注意が行き届いている。派手な展開で押すタイプではないが、細部を追うほどに構造が見えてくるタイプのアルバムだ。
Matthew Herbertは1972年生まれのイギリスのミュージシャン、DJ、プロデューサーで、テーブルの音や食器、衣服、呼吸のような身近な音を取り込んで電子音楽へ変換していく手法でよく知られる。『Bodily Functions』というタイトル自体が、その制作姿勢をかなり端的に示しているように見える。身体、リズム、反応、温度といった要素が、単なる概念ではなく音の質感として前に出てくる。2000年代初頭の電子音楽のなかでも、クラブ向けの機能性と、家庭で聴いたときの細やかさを両立していた作品のひとつといえる。
作品の位置づけ
この時期のMatthew Herbertは、いわゆるハウスやダウンテンポの文脈にいながら、ジャズ的な和声感や即興性を持ち込むことで、単純な4つ打ちの枠に収まらない音作りを進めていた。『Bodily Functions』は、その流れの中でも特にまとまりがあり、Herbertの手法がアルバム単位で明確に伝わる作品として受け取られている。後年の彼の実験的な作品群を見ても、このアルバムには「音の素材」「身体性」「クラブ・トラックとしての機能」が比較的バランスよく並んでいる印象がある。
同時代の文脈でいえば、クラブ・ミュージックの洗練が進む一方で、音の組み立てに個性を求める流れが強まっていた。!K7 Recordsが持っていた、DJカルチャーと先鋭的な電子音楽をつなぐ役割とも相性がよく、レーベルのカタログの中でも存在感のある一枚になっている。Kruder & DorfmeisterやToscaのような、グルーヴの持続と音響の細部を重んじるアーティスト群と並べて語られることも多い。
聴きどころ: 音の「身体感覚」が前に出る構成
このアルバムでまず目を引くのは、リズムが単に機械的に刻まれるのではなく、どこか有機的な揺れを持っていることだ。キックやハイハットの配置に加えて、細かなパーカッションや断片的な音がレイヤーになり、曲ごとに呼吸の仕方が変わる。耳で追うと、音が前へ押し出されるというより、体の内部に入り込んでくるような感触がある。タイトルどおり、「身体」が抽象的なテーマではなく、聴感そのものとして組み込まれている。
また、ジャズの要素は単なる装飾ではない。コードの流れやフレーズの置き方に、クラブ・ミュージックよりも少し遅いテンポで空気を運ぶような感覚があり、そのために全体が硬くなりすぎない。冷たさと温かさの間を行き来するようなバランスで、深夜のフロアでも部屋のスピーカーでも成立しそうな作りだ。音数は多いのに、混み合った印象になりにくいのも特徴といえる。
代表曲としての注目点
『Bodily Functions』では、アルバム全体の流れの中で印象に残る曲がいくつかあるが、特に知られているのは先行的に評価されたトラック群だ。なかでも、身体的なテーマをそのままビートの設計に落とし込んだ曲は、この作品の方向性を理解するうえで重要だ。ループの反復だけで押し切るのではなく、音の配置を少しずつ変えながら緊張を保つところにHerbertらしさがある。単発の強いフックよりも、展開の持続で聴かせるタイプだ。
また、ボーカルや断片的な声の扱いも見逃せない。歌が前面に出る場面でも、主役はあくまで全体の構造のほうにある。声がメロディをなぞるのではなく、リズムや空間の一部として組み込まれていくため、曲の輪郭が少しずつ変化していく。こうした作りは、同時代のディープ・ハウスやダウンテンポの作品と比べてもかなり独特で、クラブの機能性と実験性の両方を持った仕上がりになっている。
!K7 Records盤としての印象
2001年のオリジナル・リリースとしてのこの盤は、!K7 Recordsのカタログの中でも、レーベルが持っていた先鋭性と実用性の両方を示すタイトルとして見やすい。ベルリン発のレーベルらしい、クラブ・カルチャーに根を置きながらも、単なる現場向けの音源に留めない姿勢がはっきりしている。Matthew Herbertの作家性と!K7のラインがうまく噛み合った例といえる。
『Bodily Functions』は、Herbertのディスコグラフィーの中でも、実験性が前面に出すぎず、それでいて素材の扱い方にはかなり強い個性がある。電子音楽、ジャズ、ハウスの境界をなめらかにまたぐ一枚として、2001年という時代の空気も含めて記録されているアルバムだ。音のひとつひとつを追っていくと、タイトルの意味が少しずつ立ち上がってくる構成になっている。
トラックリスト
- 1 It’s Only
- 2 You Saw It All
- 3 On Reflection
- 4 Foreign Bodies
- 5 Suddenly
- 6 I Know
- 7 Leave Me Now
- 8 The Last Beat
- 9 The Audience
- 10 I Miss You
- 11 Simple Mind
- 12 We Go Wrong
動画
- You're Unknown To Me
- It's Only
- Foreign Bodies
- Suddenly
- I Know
- Leave Me Now
- The Last Beat
- You Saw It All
- On Reflection
- About This Time Each Day
- Addiction
- I Miss You
- It's Only A Reprise
- The Audience
- It's Only