MC5 - High Time (1971)
MC5『High Time』(1971)について
MC5の『High Time』は、1971年にアトランティックから出た3作目であり、バンドにとって最後のスタジオ・アルバムでもある。デトロイト周辺のガレージ・ロック、ヘヴィなサイケデリック、そして後のパンクに直結する荒さを、より整理された形でまとめた作品として位置づけられることが多い。『Kick Out the Jams』の爆発力、『Back in the USA』の直進性を経て、この作品では演奏の切れ味を保ちながら、曲の構成やアレンジに少し余裕が出ているのがわかる。
レーベルはAtlantic SD 8285。アトランティックがすでに大手としての体制を固めていた時期で、MC5自身もメジャー・レーベルの枠の中で、なお鋭い音を鳴らしていたことが興味深い。録音時期はバンド末期にあたり、翌1972年には解散するため、このアルバムは活動の終盤を記録した一枚でもある。
作品の位置づけ
MC5は1964年にミシガン州リンカーン・パークで結成され、のちにアナーバーへ拠点を移した。政治性の強い姿勢と、ライヴでの過激な印象で知られたバンドだが、スタジオ作品では単なる粗暴さだけではなく、リフの組み立てや曲の推進力に独自の工夫がある。『High Time』は、その中でも比較的まとまりのあるアルバムとして聴かれてきた。前2作のような強烈な一発芸だけで押し切るのではなく、曲ごとの役割分担がはっきりしている印象がある。
同時代の文脈で見ると、ストゥージズやニューヨーク・ドールズ以前の、より早い段階でパンクの骨格を示したバンドとして語られることが多い。とはいえ、この作品の中身は「後のパンクの予告編」というより、1971年時点のハードなロック表現としてきちんと成立している。ガレージ感、ブルース由来の硬さ、サイケデリックな広がりが同居している点が、MC5らしさだと思う。
注目曲「Sister Anne」
冒頭を飾る「Sister Anne」は、アルバムの方向性をつかみやすい曲だ。ギターのリフが前へ出て、リズム隊がそれを支え、ヴォーカルがその上を押し切る構図。MC5らしい攻撃性がありながら、演奏は意外と整理されていて、勢いだけでなく構成の見通しもある。ライヴでの爆発をそのまま切り取ったタイプではなく、スタジオでの密度を感じさせる仕上がり。
この曲は、『High Time』が単なる終末期の記録ではなく、まだバンドとしての形を保っていたことを示す一曲でもある。ラフさの中にフックがあり、聴き終えたあとにリフだけが残るタイプの曲だ。MC5の代表曲群に比べると一般的な知名度は高くないが、アルバム全体の入口としては非常にわかりやすい。
注目曲「Future/Now」
「Future/Now」は、アルバムの中でも特にMC5らしい直線的な推進力が出ている。タイトル通り前進感のある曲で、演奏のテンポ感と、言葉の切り方が噛み合っているのが面白い。ここではバンドの持つ政治的な姿勢や時代への反応が、あからさまなスローガンというより、音の圧として表れているように感じる。
この曲を聴くと、後年のハードコアやパンクに繋がる要素がすでにかなり揃っていたことがわかる。速さそのものより、止まらない感じ、引き返さない感じが強い。MC5の音楽が「荒い」だけではなく、前へ押し出す設計を持っていたことを示す場面だと思う。
注目曲「High School」
タイトル曲「High School」は、バンドの中でも少し異なる空気を持つ。リフ主体の攻め方は保ちながら、曲の運びにやや遊びがあり、アルバムの中で耳を変える役割を果たしている。MC5の作品では、ただ速くて大きいだけでなく、こうした曲の温度差があると全体像が見えやすい。
『High Time』は全編を通して音圧の強い作品だが、この曲ではその圧が少し引いた状態で鳴る。そのぶん、バンドの演奏の輪郭や、各楽器のぶつかり方が見えやすい。派手な代表曲というより、アルバムの中で「MC5はこういうバンドだった」と整理してくれる一曲。
「Over and Over」と終盤の流れ
終盤に置かれた「Over and Over」は、アルバムの後味を決める曲だ。繰り返しの感覚が強く、前半の勢いとは少し違う粘りがある。MC5の音楽は、しばしば瞬発力で語られるが、この曲では持続するリズム感が前に出る。そこにバンドの演奏力が見える。
『High Time』全体としては、派手なヒット曲を並べた作品ではないが、アルバム単位で聴くと曲順の流れがはっきりしている。前半で勢いを作り、中盤で曲調をずらし、終盤で余韻を残す構成。ラスト・アルバムらしい整理のされ方で、解散前のMC5がどこまで到達していたかを確認できる内容だ。
音の印象と盤の特徴
このUS盤はゲートフォールド仕様で、当時のアルバムらしい存在感がある。アトランティック盤らしく、音の見通しと迫力の両方を意識した作りで、MC5の荒い演奏も比較的明瞭に入ってくるタイプの作品だ。オリジナルの1971年盤としては、バンド末期の空気をそのまま閉じ込めた記録としても重要だろう。
MC5のディスコグラフィーの中では、最初の衝撃作と最終作の間をつなぐだけでなく、バンドが単なる伝説ではなく、アルバムごとに表現を更新していたことを示す一枚でもある。パンクの源流として語られることが多いが、実際にはその前提として、1971年時点のロックの語法をかなり高い密度で使い切っている作品だと思う。
トラックリスト
- A1 Sister Anne 7:15
- A2 Baby Won't Ya 5:41
- A3 Miss X 5:07
- A4 Gotta Keep Movin' 3:24
- B1 Future / Now 6:18
- B2 Poison 3:24
- B3 Over And Over 5:12
- B4 Skunk (Sonicly Speaking) 5:25
動画
- "Skunk (Sonicly Speaking)" MC5 (1971, vinyl needle drop from "High Time" LP)
- "Future / Now" MC5 (1971, vinyl needle drop from "High Time" LP)
- MC5 - Sister Anne (Official Vinyl Video)
- Baby Won't Ya
- Miss X
- Gotta Keep Movin'
- Future / Now
- Poison
- Over and Over
- Skunk (Sonicly Speaking)