Mick Harvey Featuring Anita Lane - Intoxicated Man (1995)
Mick Harvey Featuring Anita Lane『Intoxicated Man』(1995)について
Mick Harvey Featuring Anita Lane名義の『Intoxicated Man』は、1995年にMuteからリリースされたアルバムで、Serge Gainsbourgの楽曲をまとめて取り上げた作品である。Mick HarveyはThe Birthday PartyやNick Cave and the Bad Seedsで知られるオーストラリア出身のミュージシャンで、ここでは単独名義に近い形で、Anita LaneをフィーチャーしながらGainsbourg作品の解釈に向き合っている。録音は1995年初頭にメルボルン、シドニー、ロンドンで行われ、ミックスとマスタリングはEMI 301で仕上げられた。オーストラリア、イギリス、フランスの空気が混ざるような制作背景も、この作品の輪郭を決めている。
このアルバムは、Mick Harveyにとって単なるカヴァー集ではなく、作曲家としてのGainsbourgをどう読み替えるかに重点が置かれた一枚として位置づけられる。もともとNick Cave周辺の文脈では、Harveyはアレンジや音の構築を担う存在としても重要だったが、この作品ではその手腕がかなり前面に出ている。原曲のメロディや言葉の運びを残しつつ、英語圏のロック/ポップの感触へ寄せていく作業が中心で、Anita Laneの参加も含めて、単なる敬意だけでは終わらない距離感がある。
作品の聴こえ方
実際に聴くと、派手なアレンジで押すタイプではなく、曲ごとの輪郭をはっきり見せる作りが印象に残る。打ち込みや生演奏の質感が過度に前に出ることはなく、歌とコードの進行、そして言葉の置き方が中心にある。Muteからの1995年作らしく、実験性を完全に捨てているわけではないが、前衛性よりも曲の構造を丁寧に見せる方向。Acid Jazz、Pop Rock、Synth-pop、Experimentalというタグが付くのも、制作の幅をそのまま示しているように見える。
アーティストの文脈
Mick Harveyは1958年生まれのオーストラリア人で、Melbourneに拠点を置くスタジオも運営している。Nick Cave and the Bad Seedsのメンバーとしての印象が強い人も多いはずだが、この『Intoxicated Man』では、バンドの一員というより、選曲と解釈を引き受けるプロデューサー的な視点が際立つ。Anita Laneもまた、Nick Cave周辺で重要な役割を果たしてきた人物で、この組み合わせ自体が当時のオーストラリア系オルタナティヴ・ロックの延長線上にある。
同時代の文脈で見ると、欧米のロック系ミュージシャンがシャンソンやフレンチ・ポップを再解釈する流れの中に置ける。だが、この作品は単に“フランス趣味”を装うものではなく、Gainsbourgの楽曲が持つ乾いたユーモアや緊張感を、英語圏の録音美学でなぞり直している点に特徴がある。Nick Cave周辺の暗さや劇性を想起させる瞬間もあるが、そこで終わらず、もっと整理された室内楽的な感触へ寄っていく場面もある。
注目曲: タイトル曲「Intoxicated Man」
タイトル曲は、このアルバムの方向性をつかみやすい一曲である。原曲の持つ酔いの感覚や、少し斜に構えた語り口を、Harveyの落ち着いた歌唱と簡潔な伴奏が支えている。ここでは過剰な感情表現より、言葉の響きとリズムの置き方が前に来る。Anita Laneが絡むことで、曲の視点にわずかな温度差が生まれ、単独のカヴァー以上の立体感が出ている。
この曲の面白さは、原曲の持つ軽さをそのまま再現するのではなく、少し距離を置いて演奏している点にある。結果として、歌の内容が持つ皮肉や曖昧さが見えやすくなる。派手なアレンジではないが、アルバム全体の入口としては十分に機能している。
注目曲: Serge Gainsbourg作品の読み替え
アルバム全体を通して目立つのは、各曲を同じ温度で揃えないことだ。曲によってはリズムの前進がはっきりし、別の曲ではメロディの余白が前に出る。Gainsbourgの楽曲は、元来、シンプルなコード進行の中に言葉のねじれや視点のずらし方があるが、Harveyはそこを強調しすぎず、しかし曖昧にもせずに扱っている。そのため、曲ごとの表情が似通わず、アルバムとしての流れも保たれている。
特に、歌のフレージングが曲の印象を決める場面が多い。Anita Laneの参加する曲では、声の質感の差がそのまま場面転換になる。男女の声が交差することで、Gainsbourgの楽曲にある会話性や視線の揺れが、より明確に感じられる構成になっている。
リリース情報と盤の特徴
この盤はEuropeリリースのMute盤で、カタログ番号はSTUMM144。MuteはDaniel Millerによって1978年に設立されたUKレーベルで、電子音楽や実験的なポップに強い印象を持つが、この作品もその文脈に自然に収まっている。録音クレジットや制作拠点を見ると、MelbourneとLondonをまたいだ制作で、当時の国際的なオルタナティヴ・シーンのつながりがそのまま反映されている。
『Intoxicated Man』は、Mick Harveyのキャリアの中でも、解釈者としての側面が強く出た作品として見られる一枚である。原曲の輪郭を保ちながら、録音と演奏の質感で別の場所へ運ぶ。その距離感が、このアルバムのいちばんの特徴だろう。
トラックリスト
- A1 69 Erotic Year 3:25
- A2 Harley Davidson 2:44
- A3 Intoxicated Man 2:36
- A4 The Sun Directly Overhead 2:53
- A5 Sex Shop 3:18
- A6 The Barrel Of My 45 2:11
- A7 Ford Mustang 2:17
- A8 Overseas Telegram 3:43
- A9 New York USA 2:22
- B1 Bonnie & Clyde 3:57
- B2 Chatterton 2:02
- B3 The Song Of Slurs 2:38
- B4 Jazz In The Ravine 2:00
- B5 I Have Come To Tell You I'm Going 2:53
- B6 Lemon Incest 1:51
- B7 Initials B.B. 3:48
動画
- Mick Harvey - Chatterton (Official Audio)
- MICK HARVEY "I have come to tell you i´m going" Intoxicated man