Miles Davis - Kind Of Blue (1959)
Miles Davis『Kind Of Blue』— モード・ジャズを決定づけた1959年の一枚
Miles Davisの『Kind Of Blue』は、1959年にUSのColumbiaからリリースされたアルバムだ。マイルス・デイヴィスはトランペット奏者、バンドリーダー、作曲家として20世紀ジャズの中心に立った人物で、この作品はそのキャリアの中でも特に重要な位置を占める。一般にジャズ史を語るうえで外せない定番作として扱われており、彼の代表作としてまず挙げられることが多い。
この盤は、1959年2月3日と4月22日に録音された内容を収めている。収録は少人数編成で、各曲の中で演奏者が長く息を合わせながら進んでいく構成だ。ハード・バップの文脈を背負いながらも、コード進行を細かく追うのではなく、より限定された音の枠組みの中で即興を組み立てるやり方が核になっている。のちにモード・ジャズの代表例として参照されるのは、その作り方に理由がある。
作品の位置づけ
マイルス・デイヴィスは1940年代から活動し、50年代にはハード・バップの形成にも大きく関わったが、『Kind Of Blue』ではさらに別の方向へ踏み込んでいる。前後の作品と比べても、音の置き方やフレーズの運びに余白があり、演奏の密度を競うというより、ひとつの音型を時間の中でどう展開するかに重心がある。ピアニストのBill Evansが関わったことも、この空気感を作るうえで大きい。Evansはマイルスの理想に寄り添うように、和声を重くせず、輪郭を保ったまま響きを広げている。
このアルバムは、マイルスの五十年にわたる活動の中でも転換点として見られることが多い。のちに電気楽器やロック、ファンクの要素へ進む前の段階で、すでに「従来のジャズの進行に縛られない」という発想が明確に形になっているからだ。同時代のジャズと比べても、演奏の速度や技巧だけで押すのではなく、音の間隔そのものを作品の要素にしている点が印象に残る。
収録曲の流れ
アルバムは短い導入部を持たず、すぐに各曲の世界へ入っていく。しかも曲ごとの役割がはっきりしていて、1枚を通して聴くと、静かな張力が少しずつ形を変えながら続いていくのが分かる。実際に聴くと、音数が多くない場面でも空白が間延びせず、むしろ演奏者同士の間合いが前に出てくる。録音年代を考えると、音像も比較的明瞭で、各楽器の位置が追いやすい。
「So What」
冒頭の「So What」は、このアルバムを象徴する代表曲だ。ベースの印象的な導入から始まり、そこに管とピアノが入ってくる流れは、ジャズをあまり聴かない人にも記憶されやすい。曲の進み方は複雑な和音の連続というより、限られた素材の上でソロがどう表情を変えるかに重点がある。ここでのマイルスの演奏は、音の数を増やさずに輪郭を保つタイプで、テーマ提示の時点で作品全体の方針が見える。
「So What」はしばしば『Kind Of Blue』の入口として語られるが、単に有名だから目立つというより、この1曲だけでアルバムの設計思想が伝わる。ビル・エヴァンスのピアノ、キャノンボール・アダレイのアルト・サックス、ジョン・コルトレーンのテナー・サックスが順に入ることで、同じ枠組みの中でも語り口が違うことが分かる。ソロの展開が速さではなく、音の置き方の違いで進むところが面白い。
「Freddie Freeloader」
「Freddie Freeloader」は、ブルースの感触を持ちながらも、この作品らしい整理された空気がある曲だ。ここではマイルスの周囲にいるメンバーの個性が、比較的わかりやすく出る。ブルースの形式を土台にしていても、単純な昔ながらのブルースには寄らず、洗練された間合いの中で進むため、アルバム全体の中でも聴きやすい位置にある。
この曲では、ハード・バップ期のジャズに通じる輪郭の強さが残りつつ、演奏の焦点はやはりモード的な発想へ向いている。リズムの押し出しはあるが、各ソロが過度に主張しすぎない。結果として、ブルースを下敷きにしたジャズの延長線上にありながら、次の時代の語法を先取りしているように聴こえる。
「Blue in Green」
「Blue in Green」は、アルバムの中でも特に静かな場面を担う。Bill Evansの繊細な感触がよく出る曲で、音の余韻を聴かせるタイプの演奏だ。はっきりした盛り上がりを作るのではなく、短いフレーズの積み重ねで空気を整えていくので、他の曲と比べると内省的な印象が強い。
この曲が入ることで、『Kind Of Blue』は単に理論的に重要な作品というだけでなく、聴感上のバリエーションも持つアルバムになっている。速いテンポや強い推進力だけでなく、静けさの中でどう音を置くかを示している点が、この作品の広さだろう。ジャズ・バラードの延長としても聴けるが、和声の運びと即興の距離感は、このアルバムならではのものになっている。
「All Blues」「Flamenco Sketches」
後半の「All Blues」は、アルバムの中でも比較的リズム感が前に出る曲だ。とはいえ、ここでも演奏は過剰に熱を上げる方向には向かわない。ブルースの形を持ちながら、一定のうねりを保ったまま進むため、1枚の流れの中で場面を切り替える役割を果たしている。テーマの反復とソロの差し替えが自然で、作品全体の中で骨格が見えやすい曲でもある。
終曲の「Flamenco Sketches」は、アルバムを静かに閉じる構成だ。ここでは各演奏者が順番に景色を描くような進み方で、他の曲よりも時間の流れがゆるやかに感じられる。タイトル通り、ひとつの形式を細かく詰めるというより、響きの変化を追う感覚が近い。『Kind Of Blue』がモード・ジャズの代表作とされるのは、この曲のような発想がアルバムの最後に置かれていることも大きい。
1959年盤としての見どころ
このUSオリジナルはColumbiaのCS 8163で、6-eye labelが使われている。ジャケット裏面には印刷上の誤記があり、「Flamenco Sketches」が4曲目、「All Blues」が最後の曲として記されているが、レーベル面の曲順は正しい。1959年のステレオ盤にはいくつかの異なるラベル版があり、この盤はその中でも6-eye labelの初期仕様として位置づけられる。スリーブ裏面右下に印刷番号「4」がある点も特徴だ。
『Kind Of Blue』は、作品としての影響力が非常に大きい一方で、内容は意外なほど端正だ。技巧を見せる場面より、音と音の距離、テーマと即興の関係、曲ごとの温度差がはっきりしている。そのため、長く聴かれてきた理由は派手さよりも、構造の明快さと演奏の落ち着きにあるように思える。ジャズ史の中心に置かれるのも、そうした作りの強さゆえだろう。
トラックリスト
- A1 So What
- A2 Freddie Freeloader
- A3 Blue In Green
- B1 All Blues
- B2 Flamenco Sketches
動画
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Miles Davis - So What (Audio) (Official Audio)
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Miles Davis - Freddie Freeloader (Audio) (Official Audio)
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Miles Davis - Blue In Green (Official Audio)
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Miles Davis - All Blues (Audio) (Official Audio)
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Miles Davis - Flamenco Sketches (Audio) (Official Audio)