Orange Juice - You Can't Hide Your Love Forever (1982)
Orange Juice『You Can't Hide Your Love Forever』──スコットランド発、ポストパンクからポップへ伸びる1枚
Orange Juiceの『You Can't Hide Your Love Forever』は、1982年にUKのPolydorから出たデビュー・アルバムである。バンドはスコットランド、グラスゴー近郊のBearsdenで結成され、もともとはNu-Sonics名義で活動していたが、1979年にOrange Juiceへ改名し、Alan Horne主宰のPostcard Recordsと結びついた。そこから出た初期シングルで注目を集め、のちにメジャーのPolydorへ進んでいく流れの中で、このアルバムは最初の本格的な到達点として位置づけられる。
収録内容を見ると、Postcard期の軽やかな感触を保ちながら、曲の輪郭がよりはっきりし、ギターのカッティング、ベースの推進力、Edwyn Collinsの少し投げやりでありながら言葉がよく立つ歌い方が前面に出ている。録音物としては、インナー・スリーブに歌詞が印刷されている点も含め、作品全体をきちんと聴かせる作りになっている。ジャケットやラベルには℗ 1981/1982の表記があり、83年以降の再発に見られるような新しいPolydorの番号体系ではなく、1982年当時のUK盤らしい仕様である。
バンドにとっての位置づけ
Orange Juiceは、同時代のUKインディーの中でも、鋭さだけで押すタイプではなく、ソウルやポップの感覚を自然に混ぜ込んだ点で独特である。The Smiths以前の英国ギター・ポップ、あるいはThe Go-BetweensやAztec Cameraと並べて語られることがあるが、この作品ではそうした後続の流れにつながる要素がすでに見えている。Postcard時代のシングルで示していた「短くて、よく鳴って、少し皮肉がある」持ち味が、アルバム単位で整理されている印象である。
このアルバムは、Orange Juiceが単なるシングル・バンドではなく、長めのフォーマットでも十分に個性を保てることを示した作品として見られることが多い。ポストパンクの緊張感を残しながら、演奏の隙間やリズムの跳ね方にポップな快感がある。のちのEdwyn Collinsのソロ活動まで見通すと、言葉の置き方やメロディの運び方の原型がこの時点でかなり固まっている。
注目曲1: 「Rip It Up」
このアルバムを語るうえで外せないのが「Rip It Up」である。Orange Juiceの代表曲として広く知られ、アルバムの中でも最も引っかかりのあるフックを持つ1曲だろう。タイトルの通り勢いのある言葉が先に立つが、実際には単純な爆発ではなく、ギターの細かな刻みとリズムの推進で前へ進むタイプの曲である。ここではEdwyn Collinsのボーカルが、冷めた表情を残しながらもメロディをきちんと引っ張っていて、バンドの個性が最も分かりやすい形で出ている。
ポストパンクの文脈に置くと、「Rip It Up」は攻撃性よりも運動感が前に出た曲と言える。ベースラインとギターの絡みが曲の骨格を作り、そこにポップなコーラス感が乗る。シングルとしてもアルバムの顔としても機能し、Orange Juiceがメジャーに入ってからも自分たちの感触を失っていないことを示す代表例になっている。
注目曲2: 「Falling and Laughing」
初期の代表曲「Falling and Laughing」も、このアルバムの核に近い存在である。Postcard Records時代から知られていた曲だが、アルバムの中では単独の名刺ではなく、作品全体の流れに組み込まれているのが面白い。曲の進み方は派手ではないが、ギターの音の抜け方と、歌詞の言い回しの軽さが記憶に残る。初期Orange Juiceが持っていた、少し距離を置いた視線と、しかしメロディはきちんと耳に残るというバランスがそのまま出ている。
この曲を聴くと、Orange Juiceが後のインディー・ポップに残した影響の輪郭が見えやすい。演奏は抑制されているのに、曲の中には動きがある。感情を大きく誇張しないまま、歌としての印象を残す作りであり、同時代のUKギター・バンドの中でもかなり早い段階でこの感覚を形にしていたことが分かる。
アルバム全体の聴こえ方
『You Can't Hide Your Love Forever』は、全編を通してテンポの速さだけで押す作品ではない。むしろ、各曲の間にある余白や、ギターの音がぶつかりすぎない配置に耳が行く。ポストパンクの硬さと、ジャングリーなギター・ポップの開けた感じが同居していて、その間を行き来する感触がある。収録曲のクレジットを見ると、A1からA5、B1からB7までの多くがCopyright Controlで、A6のみMews Music Ltd.となっている。こうした収録曲のまとまり方も、バンドの初期レパートリーをアルバムとして整理した印象につながる。
UK盤のPolydor、カタログ番号POLS 1057という形で出たこの1枚は、Orange Juiceがインディーの枠にとどまらず、より広いポップの文脈へ踏み出した最初期の記録として読める。後年の再発では番号体系や表記が変わるが、1982年のオリジナル盤は、その時代のPolydor UKらしい体裁の中で、このバンドの初期像をそのまま閉じ込めたものになっている。
Orange Juiceの作品群の中では、最も入口に近いアルバムのひとつでありながら、単なる導入盤では終わらない。Postcard由来の軽さ、メジャー移籍後の整った音像、そしてEdwyn Collinsの書き方の輪郭が、すでにこの時点で見えている。1982年という時代のUKギター・バンドの流れを追ううえでも、重要な位置にある作品である。
トラックリスト
- A1 Falling And Laughing 3:48
- A2 Untitled Melody 2:05
- A3 Wan Light 2:23
- A4 Tender Object 4:24
- A5 Dying Day 2:59
- A6 L.O.V.E. Love 3:34
- B1 Intuition Told Me (Part 1) 1:09
- B2 Upwards And Onwards 2:27
- B3 Satellite City 2:40
- B4 Three Cheers For Our Side 2:49
- B5 Consolation Prize 2:50
- B6 Felicity 2:34
- B7 In A Nutshell 4:16
動画
-
Dying Day
-
Orange Juice - Falling and laughing
-
Orange Juice - L.O.V.E
-
Orange Juice - Wan Light (1982)
-
Tender Object - Orange Juice
-
Orange Juice - Upwards and Onwards