Ray Barretto - Barretto Power (1970)
Ray Barretto『Barretto Power』
「ハード・ハンズ(Hard Hands)」の異名をとるプエルトリコ系アメリカ人の名コンガ奏者/バンドリーダー、レイ・バレット(Ray Barretto、本名:Raymundo Barretto Pagán)が、1970年にニューヨークのラテン/サルサ名門レーベルFania Records(規格番号:LP 391/ステレオ盤 SLP 391)から発表したスタジオ・アルバム。1950年代後半にティト・プエンテ(Tito Puente)楽団でモンゴ・サンタマリアの後任コンガ奏者を務め、ブルーノートやプレスティッジ、リヴァーサイドなど数多くのジャズ名盤(ケニー・バレルの『Midnight Blue』など)にも参加してきたバレットが、1967年にジェリー・マスッチとジョニー・パチェーコが率いるFaniaへ移籍して以降に築いたラテン・ソウル/ブーガルー路線と、1970年代初頭の「サルサ・ドゥーラ(ハード・サルサ)」の潮流が交差する重要作だ。
制作背景と参加メンバー
プロデュースはレイ・バレット自身、エグゼクティブ・プロデューサーはジェリー・マスッチ(Jerry Masucci)が担当。ジャケットのアート・ディレクションとデザインは、「Mr. Salsa」の異名でFaniaの視覚的イメージを築いた名デザイナーのイジー・サナブリア(Izzy Sanabria)が手がけている。録音には、リード・ヴォーカルに名ソネロのアダルベルト・サンティアゴ(Adalberto Santiago)、ピアノにルイ・クルス(Louie Cruz)、ベースに若きアンディ・ゴンサレス(Andy González)、ティンバレスにオレステス・ヴィラト(Orestes Vilató)、ボンゴにトニー・フエンテス(Tony Fuentes)、そして重厚な3トランペット編成のホーン・セクションにロベルト・ロドリゲス(Roberto Rodríguez)、レネ・ロペス(René López)、パピ・ロマン(Papy Román)が参加した。さらにコロ(バック・コーラス)には、フスト・ベタンクール(Justo Betancourt)、エクトル・ラヴォー(Héctor Lavoe)、ヤヨ・エル・インディオ(Yayo “El Indio” Pequero)というFaniaオールスター級の歌手陣が名を連ねている。
この布陣は、バレット楽団の第1期黄金時代と呼ばれる充実した編成として知られる。のちに1972年の『Que Viva La Música』を発表したのち、同年暮れにアダルベルト・サンティアゴ、オレステス・ヴィラト、レネ・ロペスら主力メンバーの大半がバレット楽団から独立して人気バンド「ティピカ73(Típica 73)」を結成することになるため、この第1期オーケストラの絶頂期を捉えた記録としても評価が高い。
時代の文脈と収録曲
1962年のパチャンガ曲「El Watusi」で全米ポップ・チャート17位の大ヒットを記録したバレットは、Fania移籍後に『Acid』(1968年)、『Hard Hands』(1968年)、『Together』(1969年)と作品を重ねてきた。Faniaでの4作目にあたる本作『Barretto Power』は、1960年代後半のニューヨーク・ラテン・シーンを席巻した英語詞のラテン・ブーガルー(Boogaloo)ブームが一段落し、1970年代初頭のハード・サルサ黄金期へと本格突入する転換点に生まれたアルバムであり、ハード・バップ/ラテン・ジャズの和声感覚とアフロ・キューバンの伝統リズム、ニューヨークのストリート感覚あふれるファンク/ソウルのグルーヴが緊密に結晶している。
アルバムは、バレット自身が書いた力強いグアラチャ/グアグアンコA1「Oye La Noticia」で幕を開け、トランペット奏者ロベルト・ロドリゲスがプエルトリコ南部の都市ポンセ(「南の真珠」)に捧げて書いたA2「Perla Del Sur」、ルイ・クルスのピアノとアンディ・ゴンサレスのベースがユニゾンでファンキーなリフを刻みレネ・ロペスのジャジーなトランペット・ソロが冴える英語タイトルのラテン・ファンク/ブーガルーA3「Right On」(バレットとクルスの共作)、名作曲家ティテ・クレ・アロンソ(Tite Curet Alonso)作の疾走感あふれるA4「De Qué Te Quejas Tú」へと進む。B面では、ボンゴ奏者トニー・フエンテス作のソン・モントゥーノB1「Y Dicen」、ウーゴ・ゴンサレス(Hugo González)作の代表曲B2「Quítate La Máscara(仮面を脱げ)」、ルイ・クルス作のロマンティックなボレロB3「Sé Que Volverás」、そしてバレットのコンガとヴィラトのティンバレス、ホーン隊がスリリングなソロ回しを繰り広げる約6分の長尺ラテン・ジャズ/デスカルガB4「Power」で幕を閉じる。
後世への反響と評価
なかでもアダルベルト・サンティアゴの気迫に満ちたヴォーカルと3本のトランペットが炸裂するB2「Quítate La Máscara」はバレット楽団屈指のサルサ・アンセムとなり、翌1971年にニューヨークのクラブ「チーター(Cheetah)」で行われ映画『Our Latin Thing(ヌエストラ・コサ)』に記録された伝説の「ファニア・オール・スターズ(Fania All-Stars)」の公演でも、バレットとサンティアゴを中心に白熱のパフォーマンスが披露された。また、A3「Right On」やタイトル曲B4「Power」は、後年のレア・グルーヴ/クラブ・ジャズ世代のDJやコレクターからも高い人気を集めている。AllMusicなどの批評においても、1968年の『Acid』や1972年の『Que Viva La Música』、1973年の『Indestructible』と並び、レイ・バレットのFania時代を代表する傑作のひとつとして高く評価されている。
トラックリスト
- A1 Oye La Noticia 5:25
- A2 Perla Del Sur 5:40
- A3 Right On 2:40
- A4 De Que Te Quejas Tu 4:05
- B1 Y Dicen 3:54
- B2 Quitate La Mascara 4:26
- B3 Se Que Volveras 3:45
- B4 Power 5:59