Ryo Fukui = 福居良 , 福居良トリオ - Scenery = シーナリィ (1976)
Ryo Fukui = 福居良 , 福居良トリオ 1976

Ryo Fukui = 福居良 , 福居良トリオ - Scenery = シーナリィ (1976)

Jazz Cool Jazz Bop Modal

Ryo Fukui / 福居良トリオ『Scenery = シーナリィ』

1976年に日本で発表された、札幌を拠点に活動したピアニスト、福居良のファースト・アルバム。タイトル通り、後年まで長く語られることになる代表作であり、福居良という名前を知るうえでまず触れたい一枚だ。録音は1976年9月7日、札幌のYAMAHA Hallで行われている。レーベルはNadja、流通はTRIO RECORDS。ジャズ・ピアノ・トリオの基本形を保ちながら、Bop、Modal、Cool Jazzの要素が自然に同居しているところに、この作品の輪郭がある。

福居良は1948年生まれ。1970年に独学でピアノを始め、6年後にこの『Scenery』を録音している。演奏歴の出発点が早いわけではないが、そのぶん音の置き方や間合いに、長く弾き込んできた人のような落ち着きがある。札幌のジャズ・クラブ「Slowboat」を拠点にした経歴も含めて、都市の中で積み上げられた実演の感覚が、そのままアルバムの芯になっているように聴こえる。のちに『Mellow Dream』『My Favorite Tune』『In New York』へと続く福居良のディスコグラフィの中でも、最初の到達点として位置づけられる作品だ。

アルバム全体の印象

全体を通して目立つのは、音数を過剰に増やさず、旋律を明確に置いていく進め方。左手で和音を厚く押し込む場面よりも、右手のフレーズを見通しよく運ぶ場面が印象に残る。録音も、ホール録音らしい広がりを残しつつ、トリオの各楽器が近い距離でまとまっている。ベースとドラムは前に出すぎず、しかし輪郭ははっきりしていて、ピアノのラインを支える役割が明確だ。

同時代の日本のジャズ・ピアノ作品と比べると、技巧の誇示よりもフレーズの流れを優先している印象がある。アメリカのピアノ・トリオでいえば、ビル・エヴァンス以降の繊細なバランス感や、ハード・バップ系の明快さの両方が、無理なく同じ盤面に置かれている感じだ。派手な展開より、曲の輪郭を崩さない演奏の積み重ね。そうした作りが、アルバム全体の聴きやすさにつながっている。

注目曲「Scenery」

タイトル曲の「Scenery」は、このアルバムの入口として分かりやすい一曲。主題の提示が明瞭で、メロディの流れがそのまま記憶に残るタイプの演奏だ。福居良のピアノは、音を強く打ち出すというより、フレーズの終わり方まで含めて整えていくように進む。冒頭から、アルバム全体の温度感を決める役割を担っている。

この曲で感じるのは、単に静かな演奏ということではなく、テンポの中で細かく呼吸していること。ベースとドラムが一定の推進力を保ちながら、ピアノはその上で旋律を少しずつ組み替えていく。派手なソロの切り返しよりも、テーマをどう扱うかに耳が向く構成で、福居良の作法がよく見える。

注目曲「Early Summer」

「Early Summer」は、この作品を語る際に外しにくい代表曲のひとつ。タイトルの通りの季節感を直接説明するわけではないが、曲の進行が持つ明るさと、少しだけ控えめな抑制が印象に残る。メロディははっきりしていて、トリオの演奏がその輪郭を崩さないまま進むため、曲の形が見えやすい。

この曲では、福居良のフレーズの置き方が特に分かりやすい。音を詰め込みすぎず、ひとつひとつの音価を保ちながら前へ進めるため、旋律線が自然に浮かび上がる。ジャズ・ピアノの名曲として後年まで聴かれる理由も、こうした明快さにあるのかもしれない。アルバムの中でも、最初に耳に残りやすい曲として挙げられることが多いのは納得しやすい。

演奏と録音のエピソード

本作は札幌のYAMAHA Hallで録音され、地元の空気をまとった初作として成立している。福居良がその後も札幌を拠点に演奏を続けたことを考えると、この録音は単なるデビュー作ではなく、活動の基点を記録した一枚とも言える。クレジットには特別な謝辞も記されており、制作の現場が限られた人数で丁寧に支えられていたことがうかがえる。

福居良の作品は、のちに海外でも広く聴かれるようになるが、この『Scenery』はその出発点として、すでに一本筋の通った内容を持っている。派手さよりも、曲を最後まで保ち切る集中力。そうした演奏の積み方が、初作の時点で見えているところに、このレコードの強さがある。

まとめ

『Scenery = シーナリィ』は、福居良のピアノ・トリオがどのような音を出すのかを、最初に明確に示したアルバムだ。札幌録音、日本制作、1976年という条件の中で、ジャズの基本形をきちんと押さえながら、旋律の通り道を丁寧に残している。後年の評価を抜きにしても、1曲ごとの作りがはっきりしていて、アルバムとしてのまとまりも強い。福居良という演奏家の出発点を知るうえで、重要な位置を占める作品である。

トラックリスト

  1. A1 It Could Happen To You = イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
  2. A2 I Want To Talk About You = アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー
  3. A3 Early Summer = アーリー・サマー
  4. B1 Willow Weep For Me = ウィロウ・ウィープ・フォー・ミー
  5. B2 Autumn Leaves = 枯葉
  6. B3 Scenery = シーナリィ

動画

Share
記事一覧に戻る
toast