Stanley Cowell - Musa • Ancestral Streams (1974)
Stanley Cowell『Musa • Ancestral Streams』について
Stanley Cowellが1974年に発表した『Musa • Ancestral Streams』は、ストレートなピアノ作品としても、Strata-Eastというレーベルの個性をよく示す一枚としても重要なアルバムだ。録音は1973年12月10日と11日、ニューヨーク州ホワイト・プレインズのMinot Studiosで行われている。収録の中心はソロ・ピアノで、B2のみアフリカン・サムピアノ(カリンバ)とエレクトリック・ピアノのデュオという構成。盤面の情報だけ見ても、形式を絞りながら音色の幅を確保していることがわかる。
Stanley Cowellは1941年オハイオ州トレド生まれのアメリカ人ジャズ・ピアニストで、Charles TolliverとともにStrata-Eastを立ち上げた人物でもある。1970年代前半の同レーベルは、独立性の高い制作姿勢と、演奏者主導の企画が際立っていた。その文脈の中でこの作品は、単なるピアノ・ソロ集ではなく、作曲家としてのCowellの視点が前面に出た記録として聴ける。タイトルの通り、個人史や家族の記憶、音楽的な継承が軸にある構成だ。
作品の輪郭
全9曲のうち、クレジット上ではそれぞれ異なる年に書かれた楽曲が並ぶ。アルバム内部に記された年を見ると、1958年から1972年まで幅があり、長い時間をまたいで蓄積された素材を一つの作品にまとめた形になっている。演奏は技巧の誇示に寄るというより、フレーズの置き方、間の取り方、和声の運びで曲の性格を立ち上げていくタイプ。ソロであることによって、その設計がはっきり見える。
同時代の文脈で見ると、Strata-East周辺の作品群や、独立系ジャズ・レーベルが押し出したスピリチュアルな志向、自由度の高い即興性と接続しやすい。とはいえ、このアルバムは大編成の熱量で押すのではなく、ピアノ1台の中でリズムと旋律を組み立てていく点に特徴がある。McCoy Tynerのような力感、Cecil Taylorのような前衛的な断片性、あるいはPharoah Sanders周辺の霊性と比較されることはあっても、Cowell自身の書法はもう少し整理されていて、曲ごとの輪郭が明確だ。
B2「Musa」の位置づけ
アルバムの核としてまず触れたいのが、タイトル曲の「Musa」。ここではアフリカン・サムピアノ(カリンバ)とエレクトリック・ピアノのデュエットになっており、ソロ・ピアノ中心の流れの中で音色が大きく切り替わる。木や金属の小さな響きが前に出るカリンバと、持続音を持つ電気ピアノの対比がはっきりしていて、アルバム全体の中でも最も素材の差がわかりやすい場面だ。
この曲では、旋律を細かく積み上げるというより、短い音型を置き、その余韻を含めて構成している印象が強い。ピアノ・ソロで進む他の曲と比べると、より儀式的というか、音の発生そのものに意識が向いている。タイトルがアルバム全体の方向を示しているようにも感じられる部分で、単なる変化球ではなく、作品の中心概念に結びついた配置といえる。
A面のソロ・ピアノ曲群
A1「Maimoun」、A2「Angel Child」、A3「Travelin' Man」、A4「Equipoise」は、いずれもソロ・ピアノの魅力がよく出る並びだ。A1は冒頭曲らしく、アルバムの空気を決める役割が大きい。左手の動きと右手のフレーズの関係が明確で、リズムが前に出る場面と、和音の響きを長く取る場面が切り替わる。ソロでありながら、バンドでの対話を思わせるような運びがある。
A2「Angel Child」は、曲名どおりの柔らかさを持たせつつも、単純に甘い方向へ寄せない。音数を増やしすぎず、旋律の線を保ったまま進むので、Cowellの作曲家としての整理された感覚が見えやすい。A3「Travelin' Man」は、タイトルから受ける移動の感覚がそのままリズムの推進力に置き換えられているような曲で、フレーズが少しずつ姿を変えながら進む。A4「Equipoise」は均衡を意味する題名のとおり、強く押すでもなく、止まるでもない中間の張力が保たれている。
B面の展開と「Bantu」
B面は、A面よりもさらに曲ごとの性格が分かりやすい。B1「Kwanza」は、タイトルが示す文化的な連想も含めて、打鍵の輪郭がくっきりした演奏。B3「Abscretions」、B4「Bantu」、B5「Brilliant Circles」と続く流れでは、自由度の高い即興と、明確なモチーフの反復が交互に現れる。ソロ作品でありながら、メロディの断片をどう配置するかという作曲的な視点が終始保たれている。
特にB4「Bantu」は、アルバムの中でも民族的・儀礼的な響きを強く感じさせる曲だ。タイトルや音型の運びから、単にジャズ・ピアノの範囲に収めない視野が見える。ここではリズムの置き方が重要で、和音を厚く塗るというより、音の間隔で推進力を作っていく。B5「Brilliant Circles」は、後年のスピリチュアル・ジャズや自由なピアノ作品にも通じる、回転するようなモチーフの扱いが印象的で、アルバムの締めくくりとして余韻を残す。
アルバムとしての意味
『Musa • Ancestral Streams』は、Stanley CowellがStrata-Eastの共同設立者であることを考えると、その美学を音で示した作品の一つとして位置づけやすい。政治性や共同体意識を前面に出すというより、個人の演奏と作曲の中に、黒人音楽の歴史や精神性を折り込んでいる。父親 Stanley R. Cowell に捧げられている点も含め、家族史と音楽史が重なるアルバムだ。
1974年のUSオリジナル盤はゲートフォールド仕様で、内側には各曲の作曲年が明記されている。こうした情報の出し方も、この作品が単なる録音の集積ではなく、時間をまたいで書かれた楽曲群のアーカイブとして組まれていることを示している。ソロ・ピアノ、カリンバ、エレクトリック・ピアノという限られた編成の中で、Cowellは曲の輪郭、音の質感、歴史の気配をそれぞれ分けて提示している。ジャズの自由さと作曲の明確さが、同じフレームの中に収まっている一枚だ。
トラックリスト
- A1 Abscretions 5:10
- A2 Equipoise 3:44
- A3 Prayer For Peace 7:07
- A4 Emil Danenberg (From "Illusion Suite") 2:45
- B1 Maimoun (From "Illusion Suite") 6:30
- B2 Travelin' Man 2:56
- B3 Departure No. 1 5:25
- B4 Departure No. 2 2:15
- B5 Sweet Song 3:05