Taeko Ohnuki - Sunshower (1977)
大貫妙子『Sunshower』――1977年の都市感覚を刻んだソロ作
大貫妙子の『Sunshower』は、1977年に日本でリリースされたセカンド・ソロアルバム。前作で見せたシンガーソングライターとしての輪郭をさらに明確にしながら、ジャズ、ファンク、ソウル、ポップスの要素を自然に織り込んだ作品として知られている。大貫妙子は1970年代初頭から活動し、山下達郎らとSugar Babeを経てソロへ移行した人物で、このアルバムはその流れの中で、より洗練された都市型の音楽表現へ踏み込んだ一枚といえる。
この時代の日本のポップスには、歌謡曲の親しみやすさと、洋楽由来のリズム感や和声感を接続していく動きがあった。『Sunshower』はその文脈の中でも、メロディの明快さと編曲の細やかさが両立している点が目立つ。レーベルはPanam、品番はGW-4029。歌詞カードと帯を備えた当時のLPとして流通した記録が残っている。
作品の位置づけ
大貫妙子のディスコグラフィの中で、『Sunshower』は初期ソロ期の重要作として扱われることが多い。Sugar Babeでの経験を経た彼女が、ソロ名義で自分の歌の輪郭を固めていく途中に置かれたアルバムで、後年の都会的で透明感のあるイメージにつながる要素がすでに見えている。のちに坂本龍一やYMO周辺のミュージシャンとも継続的に関わっていくが、その前段階として、ここでは作曲家・歌い手としての個性がしっかり前面に出ている。
レーベルのPanamは、1970年にフォークやニュー・ミュージック系の作品を送り出すために設立された日本のレーベルで、かぐや姫、イルカ、細野晴臣などの名前が並ぶ。そうした環境の中で『Sunshower』が出たことは、この作品が当時のニュー・ミュージックの流れと地続きにあることを示している。
聴きどころの中心にある曲
このアルバムでまず触れておきたいのは、A2「くすりをたくさん」。英題表記では“Kusuri wo Takusan”。曲名の印象どおり、歌詞の言葉運びと旋律の乗り方に独特の引っかかりがある。大貫妙子の歌は、感情を大きく押し出すよりも、音節の配置や間の取り方で意味を立ち上げていくタイプだが、この曲でもその持ち味がはっきり出ている。リズムの上に言葉を置く感覚がよく、聴き進めるほどに、歌そのものが編曲の一部として機能している印象を受ける。
続くA3「何もいらない」も、タイトルの短さに対して、曲の中身はかなり繊細だ。英題は“Nani mo Iranai”。過不足のないフレーズで進みながら、メロディの流れと伴奏のニュアンスが曲の温度を決めていく。ここでは、派手な転調や強いフックよりも、声の置き方、和音の変化、演奏の間合いが印象に残る。大貫妙子の初期作品に通じる、感情を表に出しすぎない書き方がよくわかる楽曲だ。
都市の景色を描く側面
A4「都会」は、そのまま作品全体の方向性を象徴する一曲。英題は“Tokai”。このアルバムが持つ都市的な感触は、単に題材が都会というだけではなく、音の配置やリズムの進め方にも表れている。歌が前に出すぎず、楽器の輪郭がくっきりしすぎず、その中間に独特の距離感がある。1970年代後半の日本のポップスの中でも、こうした空気感は大貫妙子ならではのものとして聴こえる。
A5「からっぽのイス」も重要な場面。英題は“Karappo no Isu”。題名の通り、視線の向きが内省的で、歌詞の情景がそのまま空席のイメージへつながっていく。ここでの大貫妙子は、ドラマティックに感情を押し広げるのではなく、淡々とした語り口の中に余白を残す。その余白が、曲の後味として残りやすい。
B面で際立つ曲とアルバムの流れ
B2「誰のために」は、アルバム後半の中でも視点が少し開ける曲。英題は“Dare no Tame ni”。問いかけの形を持ちながら、答えを強く提示しないところがこの作品らしい。サウンドの側では、ジャズやソウルの影響を感じさせる運びがあり、歌の線を支える伴奏が柔らかくも機能的に組まれている。
B5「フリコのヤギ」も見逃しにくい。英題は“Furiko no Yagi”。この曲では、言葉のイメージと音の動きが結びついていて、アルバムの中でも少し視界が変わるような感覚がある。曲名の持つ不思議さに比べると、演奏自体は過度に奇をてらわず、あくまで歌を中心に据えた作り。その落ち着きが、かえって曲の輪郭をはっきりさせている。
同時代の中での聴こえ方
『Sunshower』は、同時代の日本のシティ・ポップやニュー・ミュージックの流れと近い場所にありながら、山下達郎のようなソウル/ポップ志向とも、細野晴臣のような実験性の強い方向とも、少しずつ距離を取っている。むしろ大貫妙子自身の声、言葉、フレージングが中心にあって、その周囲にジャズやファンクの感触が静かに置かれている印象がある。だからこそ、ジャンル名でまとめるより、歌の細部を追ったほうがこの作品の輪郭は見えやすい。
1977年という年を考えると、日本のポップスがより洗練されたアレンジや洋楽的なリズム感を取り込み始めた時期でもある。『Sunshower』はその流れの中で、単なる流行の反映ではなく、歌い手の個性を軸に音楽を組み立てた一枚として残っている。派手なヒット性よりも、曲ごとの質感や言葉の置き方で記憶に残るアルバムだ。
まとめ
『Sunshower』は、大貫妙子の初期ソロ期を代表する作品のひとつであり、1970年代後半の日本のポップスが持っていた都市感覚を、かなり高い精度で切り取ったアルバムだと言えそうだ。歌の抑制、編曲の細やかさ、言葉の余白。その三つがそれぞれ独立せず、ひとつの流れとして聴こえてくる。初期大貫妙子を知るうえでも、当時の日本のシティ・ポップやニュー・ミュージックを追ううえでも、重要な位置を占める作品である。
トラックリスト
- A1 Summer Connection 4:29
- A2 くすりをたくさん 4:07
- A3 何もいらない 4:00
- A4 都会 5:09
- A5 からっぽの椅子 5:35
- B1 Law Of Nature 3:46
- B2 誰のために 5:30
- B3 Silent Screamer 3:31
- B4 Sargasso Sea 2:46
- B5 振子の山羊 5:40