The Cure - Boys Don't Cry (1980)
The Cure『Boys Don't Cry』レビュー
The Cureの『Boys Don't Cry』は、1980年にUS盤として登場した作品で、北米における彼らの最初のリリースとして位置づけられる一枚だ。イングランド・クローリーで結成されたこのバンドは、ロバート・スミスを中心に、ニューウェイヴやポストパンクの文脈で独自の存在感を強めていくが、この作品にはその初期像がかなりはっきり残っている。のちの大規模なサウンドや内省的な作風よりも、曲の輪郭が立っていて、短い時間の中でバンドの初期衝動がまとまっている印象が強い。
内容としては、1979年5月のデビュー作『Three Imaginary Boys』からの曲に、1978〜1979年頃の新しい素材を加えた構成になっている。US盤としては、当時まだアメリカで出ていなかったオリジナル・アルバムの代わりに、代表曲と初期シングル群を組み直した形だ。なので、同じ「初期The Cure」でも、英国盤デビュー作とは収録曲が異なり、別の作品として聴く必要がある。ジャケットも『Three Imaginary Boys』のバックカバーの一部を使ったもので、初期のバンドのイメージをそのまま切り取ったようなデザインだ。
作品の位置づけ
この時期のThe Cureは、まだ後年のような広がりのある音作りや、長尺の構成美で知られる以前の段階にある。とはいえ、単なる若いバンドの記録ではなく、すでにロバート・スミスの曲作りの癖や、乾いたギターの使い方、低温の緊張感が見えている。The SmithsやJoy Divisionと並べて語られることの多い初期ポストパンクの空気を共有しながらも、The Cureはそこに少し軽さやポップさを差し込むところがある。そのバランスが、この作品でも確認できる。
録音はロンドンのMorgan Studiosで行われ、クレジットには1980年のUSリリース、PVC Recordsによる発売、Jem Recordsによる流通が記されている。PVCの青白いブルズアイ型ラベルも、この時期のUS盤らしい仕様だ。盤としては、オリジナルの初期流通を示す資料性も高い。
「Boys Don't Cry」
表題曲の「Boys Don't Cry」は、この作品を語るうえで外せない。The Cureの名前を広く印象づけた曲のひとつで、軽快なギターの刻みと、抑えたテンションのまま進むボーカルが中心になる。曲の進行自体はシンプルだが、メロディの運びに引っかかりがあり、反復しても耳に残る。ここでのロバート・スミスは感情を大きく揺らすというより、言葉を乾いたまま置いていく。その距離感が、逆に曲の輪郭をはっきりさせている。
後年のThe Cureが持つ、甘さと陰影が同居する感触を思うと、この曲はかなり直線的だ。ただ、単純に明るいだけではなく、歌詞の持つ感情の抑制が曲全体に残るため、軽いポップソングとして消費されきらない。そのあたりが、初期作品の中でも特に長く聴かれてきた理由だろう。
「Killing An Arab」「Jumping Someone Else's Train」
「Killing An Arab」は、初期The Cureを代表するシングルのひとつで、緊張感のあるギターリフと、短いフレーズを積み重ねる構成が印象に残る。演奏は派手ではないが、音数を絞ったぶん、リズムとギターの間合いがよく見える。ポストパンクらしい冷えた空気の中に、どこかメロディの引力があるのがThe Cureらしいところだ。
「Jumping Someone Else's Train」も同様に、初期のバンドが持っていた切迫感と、曲の短さの中で展開を作る感覚がよく出ている。リフ主体で進みながら、演奏の密度で引っ張るタイプの曲で、アルバム全体の中でも勢いを作る役割がある。ここでは「I'm Cold」の代わりに「World War」が収録されており、シングル集的な性格の中に少しだけ別の色が差し込まれている。
聴きどころと全体の流れ
この作品は、のちのThe Cureの大作志向や、より耽美な方向へ向かう前段階として聴くと分かりやすい。演奏はコンパクトで、曲ごとの役割もはっきりしている。ベースとドラムが前に出すぎず、ギターの切り方で空気を作っていく感じが全体にあり、初期のニューウェイヴ/ポストパンクの整理された質感が保たれている。
また、US盤としての『Boys Don't Cry』は、英国オリジナルの『Three Imaginary Boys』とは別物として組み直されている点が重要だ。初期シングルを軸にしたことで、当時のThe Cureをより分かりやすくまとめた内容になっている。結果として、この一枚は「アルバム」というより、初期代表曲と周辺曲を通してバンドの出発点を確認するための記録として機能しているように見える。
The Cureの入口としても、1980年という時点の空気を知る資料としても、よく整理された作品だ。ロバート・スミスの作曲家としての輪郭、初期メンバーによる緊張感のある演奏、そして後の長いキャリアへつながる最初期のバンド像。そのあたりが、この一枚にはそのまま残っている。
トラックリスト
- A1 Jumping Someone Else's Train 2:57
- A2 Boys Don't Cry 2:50
- A3 Plastic Passion 2:49
- A4 10:15 Saturday Night 2:40
- A5 Accuracy 2:15
- A6 Object 2:58
- A7 Subway Song 1:57
- B1 Killing An Arab 2:30
- B2 Fire In Cairo 3:20
- B3 Another Day 3:42
- B4 Grinding Halt 2:49
- B5 World War 2:30
- B6 Three Imaginary Boys 3:12
動画
- The Cure-Jumping Someone Else's Train- HQ
- The Cure - Boys Don't Cry
- The Cure - Plastic Passion
- The Cure - Accuracy
- The Cure Subway Song
- Fire In Cairo by The Cure
- The Cure - Another Day
- Grinding Halt by The Cure
- The Cure - Three Imaginary Boys