The Heath Brothers / Albert , Jimmy And Percy Featuring Stanley Cowell - Marchin' On! (1976)
Heath Brothers / Albert, Jimmy And Percy Featuring Stanley Cowell「Marchin' On!」について
1976年にUSのStrata-Eastから登場した「Marchin' On!」は、Heath Brothersの名義でまとまった作品の中でも、家族バンドとしての輪郭がはっきり見えるアルバムだ。Percy Heath、Jimmy Heath、Albert Heathという3兄弟に、Stanley Cowellをはじめとする周辺の精鋭が加わり、モダールな展開、ジャズ・ファンクの推進力、ハード・バップの語法、そしてスピリチュアル・ジャズ寄りの空気が一枚の中で共存している。録音は1975年10月22日、ノルウェーのTalent Studios。ニューヨークでリミックスと編集が施され、US盤として1976年に世に出た作品である。
Heath Brothersは1975年にフィラデルフィアで結成されたアメリカのジャズ・バンドとして紹介されることが多いが、このアルバムでは単なる「兄弟ユニット」という以上に、各人の役割分担がくっきりしている。Jimmy Heathの作編曲の整理された設計、Percy Heathの低音の安定感、Albert Heathの推進するドラム、そしてStanley Cowellのピアノが持ち込む和声の張りが、全体の骨格を作っている。Strata-Eastというレーベル自体も、Charles TolliverとStanley Cowellが立ち上げたニューヨーク拠点のレーベルで、1970年代の独立系ジャズの流れを語るうえで重要な存在だ。
作品の位置づけ
「Marchin' On!」は、Heath Brothersの初期を代表する一作として見られることが多い。家族の結束を前面に出しつつ、当時のアコースティック・ジャズが持っていた開放感をそのまま残しているのが特徴だ。Strata-East周辺の作品群に共通する、演奏者主導の作り込みと、黒人音楽の伝統を強く意識した構えも感じられる。Miles Davis以後の電化ジャズとは少し距離を置きながら、同時代のモード・ジャズやスピリチュアル・ジャズの文脈にしっかり接続している印象である。
この作品の題名は、ブックレット記載の言葉によれば、兄弟の姉Bettyが両親への敬意を込めて名付けたものだという。家族の記憶をタイトルに重ねたアルバムであり、演奏のまとまりにもその背景がにじむ。録音地がオスロであることも含め、単なるニューヨーク録音とは少し違う空気を持っている。
A面の聴きどころ
A1「Marchin' On!」は、タイトル曲らしくアルバムの性格を端的に示す1曲だ。Percy Heathのベースが歩幅を整え、Albert Heathのドラムが前へ押し出し、Jimmy Heathのフレーズがその上を滑るように進む。Stanley Cowellのピアノは、伴奏にとどまらず、和声の抜けを作りながら全体の流れを整理していく。行進という言葉の通り、足取りは一定だが、硬直した感じはない。むしろ、リズムの中に小さな揺れがあり、その揺れが曲の推進力になっている。
A2「Smilin' Billy」は、曲名の軽さに対して、演奏は意外と引き締まっている。ここではジャズ・ファンクの要素が前に出やすく、リズム隊のグルーヴが曲の芯になる。James Mtumeが参加していることもあり、打楽器的なニュアンスや反復の感覚が要所で効いてくる。派手に展開するというより、短いモチーフを保ちながら粘り強く進むタイプの曲で、1970年代中盤のジャズが持っていた身体性がよく出ている。
A3「Biskit」は、アルバムの中でも比較的、モダールな余白を感じやすいトラックだ。主題の提示からソロへ向かう流れが自然で、各楽器の音色の違いが聞き取りやすい。Jimmy Heathのサックスは、太く押し出すだけでなく、フレーズの端を少しだけずらしていくような運びがあり、Stanley Cowellのピアノもそれに呼応する。速いパッセージで押すのではなく、音の配置で緊張感を作るタイプの演奏である。
B面の聴きどころ
B面は、アルバム全体の中でもよりスピリチュアルな輪郭が見えやすい。B1「Have No Fear」は、そのタイトル通り、前に進む意志を強く感じる曲だ。宗教音楽やゴスペルの直接的な引用ではないが、コール&レスポンス的な感触や、リズムを繰り返しながら高揚を作る構造に、その系譜が見える。演奏が熱を帯びても、崩れずに芯を保つのは、Percy HeathとAlbert Heathの兄弟ならではのまとまりだろう。
B2「Spirits Up Above」は、作品の中でも特にタイトルと音の感触が近い。浮遊感を狙うというより、拍の上で少しずつ視点が上がっていくような進行で、モード・ジャズの聴き味がよく出る。Stanley Cowellの存在感が大きく、和音の置き方ひとつで空気が変わる。Jimmy Heathのソロも、メロディを崩しすぎずに芯を残すため、曲全体が散らからない。
B3「The Time and the Place」は、アルバムを締めるにふさわしい落ち着きがある。タイトルから受ける印象ほど劇的ではなく、むしろ演奏の中で時間の流れそのものを確かめるような曲だ。ここでは各メンバーの会話がよく聞こえ、ソロの受け渡しも自然。派手な決め技より、バンドとしての呼吸を残す方向に重心がある。Heath Brothersという名前の意味が、最後にもう一度確認されるような終わり方である。
この盤ならではのポイント
Strata-East盤らしく、演奏者主体の設計が前に出ている点がまず大きい。さらに、録音がオスロのTalent Studiosで行われていることから、アメリカ東海岸のジャズにありがちな密度とは少し違う、抜けのある音像もこのアルバムの持ち味になっている。リミックスとマスタリングがニューヨークで行われているため、ヨーロッパ録音のまま終わらず、USジャズ・レーベルらしい輪郭に整えられているのも興味深いところだ。
Heath Brothersのディスコグラフィーの中では、家族の結束、ストレートな演奏力、1970年代ジャズの広がりを同時に伝える一枚として位置づけやすい。Jimmy Heathの作曲家としての手腕、Percy Heathの堅実なベース、Albert Heathのドライブ、そしてStanley Cowellの色彩感が、どれも前に出すぎずにまとまっている。硬派なハード・バップの延長線にありながら、そのまま閉じないところが、このアルバムの面白さだ。
トラックリスト
- A1 Warm Valley 2:29
- A2 Tafadhali 3:54
- A3 The Watergate Blues 5:54
- A4 Maimoun (From "Illusion Suite") 8:02
- Smilin' Billy Suite
動画
- The Heath Brothers Ft. Stanley Cowell – Marchin' On! LP 1976
- The Heath Brothers Warm Valley
- The Heath Brothers - Tafadhali
- The Heath Brothers - The Watergate Blues
- the heath brothers - smilin' billy suite part 1
- The Heath Brothers - Smilin' Billy Suite: Part II [feat. Stanley Cowell] (Official Audio)
- The Heath Brothers - Smilin' Billy Suite Part III
- The Heath Brothers - Smilin' Billy Suite Part IV
- The Heath Brothers - Smilin' Billy Suite