The War On Drugs - Lost In The Dream (2014)
The War On Drugs『Lost In The Dream』レビュー
2014年にリリースされたThe War On Drugsの『Lost In The Dream』は、フィラデルフィアを拠点に活動するこのバンドが、インディー・ロックの枠の中で音の重なりと演奏の持続力を前面に押し出した作品として知られている。中心人物はAdam Granducielで、歌、ギター、作曲、録音感覚のすべてが作品の輪郭を決めている。前作までの延長線上にありながら、曲のスケールと音像の作り込みが一段階進んだアルバムという位置づけが見えやすい一枚。
レーベルはSecretly Canadian。インディー・ロックの文脈ではおなじみの存在で、2014年当時の作品としては、バンドの活動がより広く認知されていく流れの中に置ける。録音は2012年8月から2013年11月にかけて複数のスタジオで行われ、ミックスもBrooklynとPhiladelphiaで分担されている。制作期間の長さは、そのまま曲の密度に反映されている印象がある。
作品全体の印象
このアルバムは、ギターの反復、鍵盤の持続音、ドラムの推進力が少しずつ積み上がっていく作りが中心にある。The War On Drugsは、同時代のアメリカン・ロックの中でも、Bruce Springsteen以降の広がりを持つアリーナ志向の感覚と、インディー・ロックの内省を同じ曲の中に置くバンドとして語られることが多い。『Lost In The Dream』では、その特徴がかなり明確に出ている。
実際に通して聴くと、1曲ごとの強い起伏だけで押すのではなく、前の曲の残響が次の曲にそのままつながるような流れがある。音数は多いが、各パートの役割は比較的はっきりしていて、ベースが土台を置き、ドラムが前へ進め、ギターとシンセが空間を埋める構図。ヘッドフォンで聴くと、左右の広がりやリヴァーブの使い方がよく分かるタイプの録音でもある。
アルバムの位置づけ
The War On Drugsは2005年にフィラデルフィアで結成され、2008年のデビュー作『Wagonwheel Blues』でアルバム・デビューしている。Kurt Vileが初期に関わっていたことでも知られるが、本作の時点ではAdam Granducielを軸にしたバンド像がより鮮明になっている。『Lost In The Dream』は、その流れを受けて、バンドの名前がより大きく広がるきっかけになった作品として扱われることが多い。
インディー・ロックの中でも、ギターの粒立ちや長めの展開を持つ作品が好きな層に響きやすい構成で、同時代のバンドと比べると、単純なローファイ感や荒さよりも、音の層を丁寧に積む方向へ振れている。曲の長さも含めて、短いフレーズを繰り返しながら少しずつ熱を上げる作りが目立つ。
注目曲「Under the Pressure」
冒頭を飾る「Under the Pressure」は、このアルバムの性格をかなり早い段階で示す曲。ゆっくり立ち上がる導入から、ドラムとギターのうねりが重なっていく構成で、アルバム全体の“待ちながら進む”感覚をそのまま持っている。曲の長さはあるが、展開は細かく区切られ、同じモチーフを繰り返しながら少しずつ音圧を上げていく。
聴きどころは、Granducielの歌が前に出すぎず、バンド全体のうねりの中に置かれている点。歌詞の内容以上に、演奏の積み重ねそのものが緊張感を作っている。アルバムを象徴する代表曲として挙げられることが多いのも納得しやすい。
注目曲「Red Eyes」
「Red Eyes」は、この作品の中でも比較的わかりやすく推進力のある楽曲。ギターのフレーズが前へ前へと押し出され、リズム隊もそれに合わせて一定の速度感を保つ。長尺の曲が多いアルバムの中では、フックの見えやすさが目立つ一曲で、ライブでも扱いやすそうな輪郭を持っている。
この曲が印象に残るのは、勢いだけで終わらず、音の層がしっかり残るところ。サビの開け方も含めて、The War On Drugsが持つ“走りながら広がる”感覚がよく出ている。アルバムの代表曲として触れられる機会が多いのも自然な流れに見える。
注目曲「An Ocean in Between the Waves」
「An Ocean in Between the Waves」は、アルバム後半にかけての広がりを支える重要な曲のひとつ。録音・ミックスのクレジットでも、この曲はUniform Recordingで別途ミックスされており、音の輪郭に少し違う手触りがある。タイトル通り、波のように押し寄せる感触が曲全体を貫いている。
演奏面では、反復するギターのラインとリズムの持続が中心。派手な転調や急な切り替えではなく、同じ流れを保ったまま熱量だけを高めていく。『Lost In The Dream』の中でも、長時間の流れを支える配置のうまさが分かりやすい曲だと思う。
制作と音の記録
アルバムは、Uniform Recording、Echo Mountain、Fidelitorium、Rare Book Room、Miner St、Water Music、Public Hi-Fi、University of the Arts、そしてAdamの自宅など、複数の場所で録音されている。こうした分散した制作環境は、結果として一枚の中にさまざまな空気感を持ち込んでいる。ミックスはBrooklynのRare Book Room Studiosを中心に行われ、一部の曲はPhiladelphiaで追加ミックスされている。
マスタリングはSterling Sound, NYC。完成版は、細部の音が埋もれすぎず、かといって乾きすぎないバランスに収まっている。シールド盤にはPitchfork、Rolling Stone、NMEの引用を入れた3インチ角の紫色のハイプ・ステッカーが付く場合があるとされており、発売当時の評価の高さもうかがえる。
まとめ
『Lost In The Dream』は、The War On Drugsがバンドとしての輪郭をより強く見せた2014年の作品。長尺の展開、層の厚い演奏、前進するリズムが一体になった作りで、同時代のインディー・ロックの中でもかなり記憶に残りやすいタイプのアルバムだと思う。代表曲の「Under the Pressure」「Red Eyes」を軸に聴くと、この作品がどのように評価されてきたかも見えやすい。
トラックリスト
- A1 Under The Pressure 8:51
- A2 Red Eyes 4:59
- A3 Suffering 6:01
- B1 An Ocean In Between The Waves 7:11
- B2 Disappearing 6:51
- C1 Eyes To The Wind 5:54
- C2 The Haunting Idle 2:55
- C3 Burning 5:48
- D1 Lost In The Dream 4:09
- D2 In Reverse 7:41
動画
- Lost in the dream | Full album
- The War on Drugs - Under The Pressure (Official Video)
- The War on Drugs - Under the Pressure
- The War on Drugs - "Red Eyes" (Official Video)
- The War on Drugs - An Ocean In Between the Waves (Live on KEXP)