Vinyl Record Reviews
AIRは、ジャン=ブノワ・ダンケルとニコラ・ゴダンを中心に1995年から活動しているフランスのエレクトロニック/ロック・デュオだ。ジャンル表記ではElectronic、Popが挙がっていて、スタイルとしてはDowntempo、Synth-pop、Dream Popが並ぶ。メンバー欄にはジュホ・ヴィルヤネンの名前もあるが、プロフィールではAIRはダンケルとゴダンの2人組として説明されている。
グループ名の「AIR」については、Amour, Imagination, Rêve(愛、想像、夢)の略だという説明もある一方で、本人たちの発言は一貫していない。名前の由来そのものよりも、作品ごとに音の作り込みを積み重ねてきたユニットとして見たほうが自然だ。
AIRの名前が広く知られるきっかけになったのが、1998年のデビュー・アルバム『Moon Safari』だ。ソフィア・コッポラは脚本を書いている途中、たまたまレコード店でAIRのデビューEP『Premiers Symptômes』を見つけて彼らを知り、その後『Moon Safari』を聴いたあとに、自身の監督デビュー作『The Virgin Suicides』のサウンドトラックを依頼したという。
この流れからもわかる通り、AIRは早い段階から映像作品との結びつきが強い。『The Virgin Suicides』のためにまとめられたサウンドトラック・アルバムは2000年に発表され、その後の活動でも映画や映像と関わる場面が続いていく。
AIRの音楽は、打ち込みを軸にしながらも、ロックの感触やメロディの流れをはっきり残している。Downtempoのテンポ感、Synth-popのシンセサイザー主体の音作り、Dream Pop寄りの質感が重なっていて、曲の中でリズムを前に出しすぎず、音色とコードの流れを丁寧に組み立てる傾向がある。
特に『Moon Safari』では、電子音の処理が前面に出る一方で、歌ものとしてのまとまりも保っている。その後の作品では、同じ方向をなぞるのではなく、エレクトロニックな実験性を強めたり、映画音楽のような構成を取り入れたりしている。
この並びを見ると、AIRはオリジナル・アルバムだけでなく、映像作品に対する音楽制作でも存在感を残してきた。とくに『Le Voyage Dans La Lune』では、1902年のジョルジュ・メリエス監督作品に対して新しいサウンドトラックを与えていて、映画史の古い作品と現代の電子音楽を接続する仕事をしている。
『Le Voyage Dans La Lune』の後、デュオは長期の活動休止に入る。ニコラ・ゴダンは2015年にソロ作『Contrepoint』を発表し、ジャン=ブノワ・ダンケルもDarkel名義のプロジェクトやCharlotte Gainsbourgとの共作など、個人での活動を進めた。
その後、Moon Safari の記念公演などで再集結している。長く止まっていた時期があっても、AIRの作品が再び演奏される場面があるのは、アルバム単位での支持が続いているからだろう。
AIRのキャリアを整理すると、音楽単体の活動と映像作品との接点がかなりはっきりしている。『The Virgin Suicides』のサウンドトラックを手がけたことはもちろん、後年の『Le Voyage Dans La Lune』でも映画と一体になった制作を行っている。
ソフィア・コッポラとの関係はその代表例だが、AIRの音楽が映画や映像の文脈で扱われやすいのは、曲の構成が場面の流れに合わせやすいからだ。テンポを急いで上げず、音の層を重ねる作りが、そのまま映像の時間感覚と結びついている。
AIRは、フランスの電子音楽とポップの接点を、アルバムごとに少しずつ形を変えながら積み上げてきたデュオだ。『Moon Safari』で広く知られるようになり、その後は映画音楽や実験的な制作も含めて活動の幅を広げてきた。