Vinyl Record Reviews
Ethel Cainは、シンガーソングライターのHayden Anhedöniaが作り出したステージネームであり、同時に架空の人物像でもある。オフィシャルな活動名としてはEthel Cain、過去にはMother Cain名義でも作品や発信が見られる。国籍の明記はないが、公開されている情報ではアメリカの音楽家として紹介されている。
敬虔なキリスト教の家庭で育ったAnhedöniaは、自身のクィア性やトランスジェンダー女性としてのアイデンティティと信仰のあいだで葛藤を抱えていたとされる。その経験をもとに「Ethel Cain」という人物を作り上げた、という説明がされている。名字の「Cain」は、聖書のカインとアベルの物語を連想させる要素としても語られている。
ジャンルの軸はRockとPopに置かれていて、実際の音作りはIndie Rock、Alternative Rock、Ethereal、Shoegaze、Dream Pop、Alt-Pop、Slowcoreあたりをまたいでいる。作品ごとに方向性は変わるが、歌を中心に据えつつ、音の層を重ねる作り方が目立つ。
初期からよく知られているのは、フォーク、ドリームポップ、スロウコアを混ぜたサウンドだ。ギターや空間系の処理を使いながら、テンポを抑えた楽曲も多い。一方で後年の作品では、ドローンやダークアンビエントの要素も前面に出てくる。
2022年の1stアルバム『Preacher's Daughter』で広く注目を集めた。この作品は、敬虔な家庭の抑圧から逃れた少女が、虐待的な恋人のもとで悲劇的な運命をたどるというストーリーを持つコンセプトアルバムとして作られている。
アルバム全体は物語形式で進み、個々の曲が登場人物の状況や心理を少しずつつないでいく構成になっている。サウンド面では、フォーク、ドリームポップ、スロウコアを中心にしながら、曲によって質感を変えている。さらに、この作品はケイン家の女性3世代を描く三部作構想の第1作として位置づけられている。
2025年の『Perverts』では、前作とはかなり違う方向に進んだ。ドローン、スロウコア、ダークアンビエントを基調にした、実験性の強い陰鬱なサウンドが中心になっている。
この作品では、テープの再生速度を極端に落とす「ポールストレッチ」という技法が多用されている。音の伸び方や質感を大きく変える処理で、前作の歌と物語を軸にした作り方とはかなり対照的だ。
Ethel Cainの活動は、単に曲を発表するというより、人物設定や物語、宗教観、家族史のイメージを作品に組み込んで進んでいる。関連サイトとしては公式サイトのほか、Bandcamp、Instagram、SoundCloud、NTSの番組ページなどがあり、作品発表や周辺情報を追いやすい。
音楽面では、アメリカーナ的な感触を持つ場面もあれば、シューゲイズやドリームポップ寄りの処理で音を広げる場面もある。加えて、スロウコアのように速度を落として感情を押し出す作りも使っている。作品ごとの差がはっきりしていて、同じ名義でも表現の幅が広い。
Ethel Cainは、歌詞の内容や人物設定まで含めて作品を組み立てるタイプのアーティストとして見ておくと整理しやすい。アルバム単位で世界観を追う楽しみが強い名義だ。