Vinyl Record Reviews
Grimesは、カナダ出身のミュージシャン、シンガー、ソングライター、作曲家、音楽プロデューサーだ。1988年3月17日生まれで、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーで育ち、その後はケベック州モントリオールへ移っている。音楽だけでなく、映像監督、画家、作家としても活動している。
本名はClaire Boucher。マギル大学で神経科学と哲学を学んでいた学生時代に、モントリオールのDIYロフト・パーティーのシーンで音楽制作を始めた。Majical CloudzやD'Eonといった地元のアーティストたちと近い環境にいて、Arbutus Recordsから作品を発表するようになった。
初期の活動は、モントリオールのインディー・シーンと強く結びついていて、そこから独自の制作スタイルを固めていった流れが見える。
Grimesの大きな特徴は、作詞・歌唱・演奏・プロデュースをひとりで担うことが多い点だ。特に『Visions』以降は、そのスタイルがはっきりしている。
ジャンル表記としてはElectronicを軸に、Experimental、New Wave、Synth-pop、Abstract、Leftfieldといった要素が挙がる。実際の音像も、シンセ中心の曲から、リズムや音の配置を崩したものまで幅がある。
出世作としてよく挙げられるのが、2012年の『Visions』だ。この作品は、モントリオールの自室にこもり、窓を黒く覆って外界を遮断した状態で、約3週間かけてGarageBandのみで制作された。制作環境の話はよく知られているが、そこで生まれた音は、単にローファイというより、限られた機材の中で細かく組み立てられたものとして受け取られている。
「Oblivion」や「Genesis」は、退廃感のある質感とポップなメロディを同時に持つ曲として評価された。ここで見えるのは、聴きやすさと実験性を分けずに扱う姿勢だ。
2015年の『Art Angels』では、Grimesは自らギターとヴァイオリンを習得し、より複雑なソングライティングに踏み込んだ。前作の延長線上にありながら、曲の展開や音の重なり方はさらに緻密になっている。
この時期は、ポップソングとしての完成度を上げながら、音作りの細部をかなり作り込む方向に進んでいた。電子音だけに寄らず、生楽器の要素も取り込んでいる点が見どころだ。
2020年の『Miss Anthropocene』でも、作詞・演奏・プロデュースのほぼすべてを一人で手がけている。このアルバムは、『Visions』のダークな質感と、『Art Angels』で積み上げたプロダクションの手法をつないだ作品として紹介されることが多い。
Grimesは、アルバムごとにサウンドの比重を変えながらも、自分で音を組み立てる姿勢を保ってきた。作品ごとの変化はあるが、制作の主導権を自分で持つところは一貫している。
Grimesは音楽以外にも、映像監督、画家、作家として活動している。アルバムジャケットのアートワークも長く自身で手がけてきたため、音だけでなく視覚面でも作品全体をコントロールするタイプのアーティストだ。
そのため、楽曲単体だけでなく、ビジュアルや発信のしかたも含めて作品として見られることが多い。