Vinyl Record Reviews
J Dillaは、アメリカ・デトロイト出身のヒップホップDJ/プロデューサー、James Dewitt Yanceyの名義だ。1974年2月7日生まれ、2006年2月10日に32歳で亡くなっている。活動初期はJay Dee名義を使い、2001年以降はJ Dillaとして知られるようになった。
90年代半ばのデトロイト地下ヒップホップ・シーンから頭角を現した。キャリア初期はSlum Villageのメンバーとして活動し、その後はCommon、A Tribe Called Questなどの作品に参加している。さらに、MadlibとのユニットJaylibや、Q-Tip、Ali Shaheed Muhammadと組んだThe Ummahでも制作を担った。
2003年には病気が判明し、その後はデトロイトからロサンゼルスへ移って母親と暮らした。闘病中も制作は続けられ、2006年2月7日、自身の32歳の誕生日にStones Throw Recordsから『Donuts』が発売された。これは生前にリリースされた最後のアルバムとして知られている。3日後の2月10日、ロサンゼルスの自宅で亡くなった。
J Dillaのビートメイキングでよく語られるのが、後に「Dilla Time」と呼ばれる独特のリズム感だ。ドラムをきっちりグリッドに合わせるのではなく、キック、スネア、ハイハットをわずかに前後へずらして打ち込み、機械的な揃い方とは違うノリを作っていた。
愛用機材はMPC3000で、PPQが96という仕様もあって、打ち込みの細かいズレや揺れがそのままビートの質感につながったとされる。こうした作り方は、Boom Bapやインストゥルメンタル・ヒップホップの文脈で特に重要視されている。
また、サンプルの切り貼りや断片的な構成の扱いにも特徴がある。『Donuts』では短いフレーズをつなぎながら曲を展開していて、サンプルベースの制作手法を整理して聴ける作品になっている。
J Dillaのビート感覚は、The RootsのQuestloveが自身の演奏に取り入れたことで知られている。ほかにもKanye West、Madlib、Pharrell Williamsなどが、彼のリズムの作り方やサンプリングへの向き合い方から影響を受けたと公言している。
生前から海賊版のビートテープがネット上で広まり、完成作だけでなく制作途中の素材まで含めて注目されていたのも特徴だ。亡くなった後も評価は続き、MPC3000とMinimoogがスミソニアン博物館に収蔵されている。
『Donuts』は、闘病の中で完成した最終期の重要作として扱われている。サンプルの使い方、曲の短い構成、ビートのずれ方がまとまっていて、J Dillaの制作手法を知るうえで外せないアルバムだ。
彼の死後には、母親によってJames Dewitt Yancey Foundationの設立が発表された。ループス研究への支援や、子どもたちへの音楽教育を含む芸術トレーニングの機会づくりを目的としている。