Vinyl Record Reviews
Weldon Irvine(1943-2002)は、アメリカのジャズ・ピアニスト、作曲家、オルガン奏者だ。1943年10月27日にバージニア州ハンプトンで生まれ、2002年4月9日にニューヨーク州ユニオンデールで亡くなっている。
ジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップにまたがる活動を残した人物で、商業的な大成功よりも、後の世代への影響の大きさで知られている。
Irvineは1965年にニューヨークへ移り、翌年からNina Simoneのオルガン奏者、バンドリーダー、アレンジャーとして活動を始めた。ここでの仕事は彼のキャリアの大きな出発点になっている。
特に知られているのが「To Be Young, Gifted and Black」だ。Lorraine Hansberryの戯曲にNina Simoneが触発され、Irvineに作詞を依頼して生まれた曲で、1970年のアルバム『Black Gold』でSimoneによって披露された。公民権運動を象徴する楽曲のひとつとして扱われている。
自分名義の作品では、ジャズにファンク、ソウル、ゴスペルを組み合わせた演奏を追求している。代表作としては『Liberated Brother』(1973年)や『Time Capsule』(1974年)、『Spirit Man』(1975年)などが挙げられる。
これらの作品では、ジャズの演奏を土台にしながら、リズムの強いファンクやソウル寄りのコード感を重ねている。後にアシッドジャズの先駆的な存在として語られることもある。
『Spirit Man』に収録された「We Gettin' Down」は、A Tribe Called Questの「Award Tour」でサンプリングされたことでよく知られている。Irvineの楽曲はほかにも多くのヒップホップ作品で使われていて、ジャズとヒップホップの接点を語るときに名前が出やすい。
彼の楽曲がサンプル素材として重宝されたのは、演奏のグルーヴだけでなく、和音の動きや展開に使いやすい部分が多かったからだろう。実際、Mos DefやQ-Tipのようなアーティストが彼の影響に触れている。
Irvineは1970年代のBlack Arts Movementにも深く関わっていた。音楽だけでなく、劇作にも力を入れていて、50本以上の劇を書いたという記録がある。作曲と演劇の両方を行き来しながら、黒人文化や政治意識と結びついた表現を続けた。
作品数も多く、500曲以上を書いたとされている。ジャズのリーダー作だけでなく、劇音楽や周辺の創作まで含めると、かなり幅広い仕事をしていたことがわかる。
晩年のIrvineは、ニューヨーク・クイーンズのジャマイカ/セント・オールバンズ周辺で、若いミュージシャンたちの指導にも力を入れていた。Q-Tip、Mos Def、Talib Kweli、Commonらの世代に直接影響を与えたとされている。
この地域は、ジャズとヒップホップが近い距離で交わる場所としても知られていて、Irvineはその流れの中で精神的な支柱のような存在だった。演奏家としてだけでなく、教育者としての側面も強い。
Weldon Irvineは、ジャズの演奏家としてだけでなく、ファンク、ソウル、ヒップホップ、演劇までまたいだ作り手として見ると輪郭がはっきりする。派手なヒットで知られるタイプではないが、後続の音楽に残した材料はかなり多い。