Andy Stott - Faith In Strangers (2014)
Andy Stott『Faith In Strangers』について
Andy Stottの『Faith In Strangers』は、2014年にUKのModern Loveから出たアルバムで、Manchesterを拠点に活動する英国の電子音楽プロデューサーとしての立ち位置を、さらに明確にした作品だ。前作『Luxury Problems』で広く知られるようになった流れを引き継ぎながら、音の組み立てや質感を少しずつ広げていった内容として受け止められている。ジャンル表記ではElectronicを軸に、Experimental、Bass Music、Grime、Techno、Ambientが並ぶが、実際の聴感はそれらをそのままなぞるというより、断片的なビート、低域の圧、声の処理、空間の取り方が一つの流れとしてまとまっている印象が強い。
前作の延長線上にあるが、単純な続編ではない
この作品は、2011年から2012年頃に固めた手法をさらに押し進めたものとして語られることが多い。Pitchforkは、初期の冒険性と接続しながら拡張した試みとして評価し、とくに「Damage」を最も短く、最も磁力のある曲として挙げた。実際、この曲はアルバムの中でも輪郭がはっきりしていて、短い尺の中に強い引力がある。ビートの置き方、音の抜き差し、声の残し方が明快で、アルバム全体の中でも目印のような役割を持っている。
一方で、The Quietusは、Alison Skidmoreの声が再び重要な役割を果たしつつ、ジャングル由来の感触やStott特有のグルーヴがより前面に出たと評している。ここでのグルーヴは、いわゆる分かりやすいダンスフロア向けの推進力というより、細かくずれながらも止まらない感触に近い。展開が派手に転がるわけではないが、聴き進めるほどに細部の動きが見えてくるタイプの作りだ。
制作の手触りと曲ごとの具体性
Boomkatによると、制作は2013年1月から2014年6月にかけて進められ、同年7月に編集と曲順の決定が行われた。フィールド録音、見つけた音、ボーカル処理などを用い、かなりアナログ寄りの手触りで作られているという。こうした情報を踏まえて聴くと、音の輪郭がきっちり整えられているというより、断片を重ねて全体像を作っている感覚が伝わりやすい。Stott自身も、曲「Violence」をきっかけに、自分用のリミックスのような短い断片を積み重ねる作曲法を始めたと語っている。
冒頭の「Time Away」にはユーフォニアムが入り、アルバムの入口としてはやや意外な質感を持つ。いきなりビートだけで押し切るのではなく、音の層そのものを見せる始まり方だ。終盤の「Missing」ではSkidmoreの歌が入り、作品全体の中でも声の存在感が再確認される。声が前面に出る場面は多くないが、出てくるたびに曲の重心が変わる。そうした配置が、このアルバムの構造を支えている。
当時の評価と作品の位置づけ
『Faith In Strangers』は、2014年当時の評価がかなり高かった作品でもある。PitchforkやFACTなどが年間ベストに選出しており、特にFACTは、前作ほど即効性はないものの、繰り返し聴くほど報われるアルバムだと位置づけている。これはこの作品の性格をよく表している。初回の聴取で派手に輪郭が立つタイプではなく、低域の揺れ、間の置き方、声の処理、細かな音色の変化が少しずつ効いてくる。
チャート面でも、Official Chartsの記録で2014年11月29日付のダンス・アルバム・チャート最高24位、インディペンデント・アルバム・ブレイカーズ・チャート最高11位を記録している。こうした数字からも、地下的な文脈にとどまらず、同時代の電子音楽作品の中で一定の存在感を持っていたことがうかがえる。Manchesterの現行エレクトロニック・シーン、そしてModern Loveというレーベルの系譜の中でも、かなり重要な一枚として見られている。
Modern Loveとの関係
リリース元のModern Loveは、Manchesterの旧レコード店Pelicanneckのスタッフによって2002年に設立され、その後Boomkatへつながっていく流れを持つレーベルだ。Andy Stottのように、音響の細部とクラブ由来の感覚を両立させるアーティストを継続して扱ってきた背景がある。『Faith In Strangers』も、その文脈の中で自然に位置づけられる作品だろう。手でエッチングされたランアウトという仕様も、盤としての物理的な存在感を感じさせる要素になっている。
『Faith In Strangers』は、派手なフックを前面に出すアルバムではないが、曲ごとの温度差や音の密度の変化がはっきりしていて、2014年のAndy Stottを示す一枚として記憶されている。『Luxury Problems』以後の流れを受けながら、グルーヴ、声、低域、空間処理をもう一段深く掘り下げた作品、と見てよさそうだ。
トラックリスト
- A1 Time Away 6:24
- A2 Violence 6:37
- B1 On Oath 8:08
- B2 Science & Industry 5:32
- C1 No Surrender 4:58
- C2 How It Was 6:09
- C3 Damage 4:35
- D1 Faith In Strangers 6:29
- D2 Missing 4:55