Antonio Carlos Jobim - Wave (1967)
Antonio Carlos Jobim 1967

Antonio Carlos Jobim - Wave (1967)

Jazz Bossa Nova Latin Jazz

Antonio Carlos Jobim『Wave』(1967)

アントニオ・カルロス・ジョビンの『Wave』は、1967年にリリースされたアルバムで、ボサノヴァの作曲家として知られるジョビンが、米国のジャズ・シーンに向けて自分の楽曲世界を整理して提示した作品として位置づけられる。ブラジル音楽の枠に収まりきらない、洗練されたコード感とメロディの運びが前面に出た内容で、ジャズ・アルバムとしても長く語られてきた一枚である。

この盤はUSのA&M Recordsからのリリースで、白ラベルのプロモ盤。ラベルには「Promotion Copy Not For Sale」の表記があり、販促用に流通した個体であることがわかる。ゲートフォールド仕様でもあり、当時のA&Mが力を入れていたジャズ/ポップ寄りの高級感あるパッケージングの流れの中にある。オリジナルの1967年盤として見たとき、ジョビンのアメリカ録音の中でも、特に重要な位置を占める作品だろう。

制作の中心にあるのは「歌」よりも「曲」

『Wave』で印象に残るのは、ジョビン本人の歌唱を前面に出すのではなく、楽曲そのものの輪郭を丁寧に見せていく姿勢である。演奏の設計はクラウス・オガーマンが担い、弦を含むアレンジが全体を包み込む。リオのボサノヴァが持つ軽さだけでなく、アメリカのスタジオ録音らしい整った音像が加わり、ジョビンのメロディが別の角度から見えてくる。

録音は1967年5月下旬から6月にかけて行われ、Rudy Van Gelderのスタジオで収録されたことも、この作品の性格をよく示している。ジャズの録音現場で知られる空間に、ジョビンの楽曲とオガーマンの書いた編曲が置かれたことで、ボサノヴァが単なる流行ではなく、ジャズの文法と接続できる作曲語法として提示されている。

収録曲の核となる「Wave」と「Triste」

タイトル曲「Wave」は、このアルバムを象徴する一曲で、のちにスタンダードとして広く演奏されるようになった。単純に“有名曲”というだけでなく、ジョビンのコード進行、旋律の滑らかさ、そして余白の作り方がよく見える曲である。もう一つの代表曲「Triste」も、このアルバムを通じて国際的な定着を強めた楽曲として重要だ。

ジョビン作品の強さは、メロディが耳に残ることだけではない。和声の進み方に、歌い手や演奏者が解釈を重ねやすい余地がある。だからこそ、ボサノヴァの枠を超えてジャズ・ミュージシャンに取り上げられ続けたのだと思える。スタン・ゲッツやアストラッド・ジルベルトの流れで広がったボサノヴァの受容を踏まえると、『Wave』はその後の“作曲家ジョビン”の存在感を強めた作品としても見えてくる。

聴き進めると見えてくる録音の性格

実際に耳を傾けると、派手なソロの応酬よりも、各曲の立ち上がりや音の置き方に意識が向く。リズムは前に出すぎず、弦の処理も必要以上に厚くならない。そのため、メロディの線がはっきり残る。ジョビンの作品にある“流れていく感じ”が、ここではかなり整えられていて、カフェ音楽のような軽さとは少し違う、スタジオ作品としての密度がある。

一方で、ボサノヴァ特有の語り口の柔らかさはきちんと残っている。ラテン・ジャズ的な躍動感を前面に出すというより、テンポや音数を抑えながら、曲の内側にある緊張を静かに見せるタイプの作りである。そこが、同時代のより即興性の強いジャズ作品とは違うところだろう。

1967年という時代の中で

1967年は、ボサノヴァが国際的な言葉としてすでに広く認識されていた時期である。そのなかで『Wave』は、ブラジルの音楽をそのまま輸出するというより、アメリカの録音環境の中でジョビンの作曲力を再提示したアルバムとして聴ける。A&Mというレーベルが、当時ジャズやポップの洗練された作品を広く扱っていたことも、この盤の性格とよく合っている。

ジョビンは、ボサノヴァの中心人物として知られるだけでなく、作曲家、編曲家、ピアニスト、ギタリストとしても活動した人である。『Wave』は、その中でも“作曲家としてのジョビン”が最も見えやすい作品のひとつだろう。本人の歌声が主役ではないからこそ、曲の骨格がはっきりする。そうした意味で、このアルバムはジョビンの代表作群の中でも、楽曲の強度を確認できる一枚として残っている。

まとめ

『Wave』は、ボサノヴァをジャズの文脈へ置き直しつつ、ジョビンの作曲世界を端正に示した1967年作である。タイトル曲をはじめ、後年まで演奏され続ける楽曲を含み、アメリカ録音ならではの整った響きと、ジョビン特有の旋律の流れが同居している。派手さよりも設計の巧さが残るアルバムで、聴き進めるほどに、曲そのものの強さが前に出てくる作品だと言える。

トラックリスト

  1. A1 Wave 2:50
  2. A2 The Red Blouse 5:00
  3. A3 Look To The Sky 2:15
  4. A4 Batidinha 3:12
  5. A5 Triste 3:02
  6. B1 Mojave 2:20
  7. B2 Dialogo 2:48
  8. B3 Lamento 2:41
  9. B4 Antigua 3:05
  10. B5 Captain Bacardi 4:27

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