Björk - Post (1995)
Björk 1995

Björk - Post (1995)

Electronic Pop Jazz Downtempo IDM Experimental Leftfield Trip Hop Big Beat Big Band

Björk『Post』について

1995年に発表されたBjörkの2作目のフル・アルバムが『Post』である。前作『Debut』でソロ・アーティストとしての輪郭をはっきりさせたあと、その流れを受けつつ、さらに音の振れ幅を広げた作品として位置づけられる。Electronic、Jazz、Popをまたぐ内容で、Trip HopやDowntempo、IDM、Big Beat、Big Band、Experimental、Leftfieldといった要素が並ぶあたりにも、このアルバムのまとまり方がよく出ている。ひとつの型に収まる作品ではなく、曲ごとに質感が変わっていく構成だが、Björkの歌声と曲の芯が最後まで強く残る一枚である。

リリースはUKのOne Little Indianから。Björkにとって1990年代半ばの活動を語るうえで、『Post』は重要な節目のひとつと見なされることが多い。『Debut』で広く知られるようになった後、次にどこへ進むのかを示した作品であり、以後の『Homogenic』や『Vespertine』へつながる、実験性とポップ性の両立がここでかなり明確になっている。

アルバム全体の印象

『Post』は、いわゆる“統一感のあるアルバム”というより、異なるテンポや編成の曲を並べながら、Björkの声と感覚でひとつに束ねている印象が強い。打ち込み主体のトラックもあれば、ブラスやビッグバンド的な響きを持つ曲もあり、リズムの作り方もかなり幅広い。とはいえ、どの曲でも歌が前に出すぎず、伴奏の中に溶け込みすぎもしない。その距離感がこの作品の特徴だと思う。

実際に聴くと、音数の多さよりも、音の置き方の巧さが目に入る。細かいビートが動いていても、メロディは意外なほどはっきりしているし、逆に大きく広がる編曲でも、曲の中心は崩れない。90年代半ばのUKシーンで語られることの多いトリップホップやブレイクビーツの感触を持ちながら、単に流行の文脈に乗るだけでは終わっていない点が、このアルバムの強さである。

「Army of Me」

冒頭を飾る「Army of Me」は、重いリズムと無機質な推進力が前面に出た曲で、このアルバムの入口としてかなり印象が強い。ベースラインの動きがはっきりしていて、歌のフレーズも短く切り込んでくるため、最初の数十秒で作品の温度が伝わってくる。Björkの声はここで感情を過剰に膨らませるというより、一定の距離を保ちながら強い意志を示すように響く。

シングルとしても知られるこの曲は、『Post』の中でも硬質な側面を代表している。後のリミックスやカバーでも取り上げられたことからも、曲そのものの骨格の強さがうかがえる。アルバム全体の中では攻めた配置だが、だからこそ次の曲以降の展開がより広く感じられる。

「Hyperballad」

『Post』を語るうえで外せない代表曲が「Hyperballad」である。打ち込みの細かな揺れと、メロディの伸びがきれいに噛み合った曲で、アルバムの中でも特に構成のバランスがよい。静かな立ち上がりから徐々に輪郭が見えてくる作りで、音が増えていくのに圧迫感が出にくい。Björkの声が高く抜ける場面でも、曲の中心がぶれないのが印象的だ。

この曲は、90年代のオルタナティブ・ポップやエレクトロニック・ミュージックの文脈で語られることが多いが、単に“美しい曲”というより、細部の設計がはっきりしている。ビート、コーラス、歌の入り方がそれぞれ独立しているのに、最後にはひとつの流れにまとまる。聴き終えたあとに、メロディよりも音の配置が記憶に残るタイプの曲でもある。

「Isobel」

「Isobel」は、物語性のある歌詞と、少し演劇的な広がりを持つアレンジが印象に残る。アルバムの中では、ポップソングとしての輪郭が比較的見えやすい一方で、普通のラジオ向けシングルとは違う展開を持っている。リズムの置き方や音の積み重ねに、Björkらしい違和感の設計がある。

この曲では、メロディが前へ出るだけでなく、周囲の音が歌の意味を補強している。UKの同時代の作品でいえば、Massive AttackやTrickyの周辺にあった暗さや重さと比較されることもあるが、「Isobel」はそれをそのままなぞるのではなく、より色彩感のある方向へ振っているところが面白い。

「It’s Oh So Quiet」

「It’s Oh So Quiet」は、ビッグバンド的な華やかさが前面に出た曲で、『Post』の中でも特に振れ幅の大きさを示す一曲である。静かなパートと一気に爆発するパートの切り替えがわかりやすく、アルバム全体の中でも異なる空気を持っている。ここではBjörkの声がリズムの一部というより、曲の演出そのものを引っ張る役割を担っている。

この曲の存在によって、『Post』が単なるエレクトロニック・アルバムではないことがはっきりする。ジャズやビッグバンドの要素を含みつつ、ポップの分かりやすさも持っているため、アルバムの中でかなり目立つ位置にある。曲順の中で聴くと、前後の曲との落差も含めて作品の幅を実感しやすい。

「Possibly Maybe」「I Miss You」

「Possibly Maybe」は、アルバム後半に向かう流れの中で、内向きの感情を扱いながらも音の密度を保っている曲である。派手な展開で押すのではなく、細かな音の動きと歌の間合いで引き込むタイプで、聴き込むほどに細部が見えてくる。Björkの作品では感情の表現が直接的になりすぎないことが多いが、この曲もその例に入る。

一方の「I Miss You」は、より開けた感触を持つ。アルバム中では比較的明るい輪郭を持ちながら、単純に軽い曲にはなっていない。リズムの跳ね方と歌の流れがうまく噛み合っていて、終盤に向けてアルバムの流れを前へ進める役割を果たしている。

まとめ

『Post』は、Björkの2作目のスタジオ・アルバムとして、ソロ・アーティストとしての表現をさらに広げた作品である。エレクトロニック、ポップ、ジャズの要素を横断しながら、各曲がそれぞれ違う表情を持っているのに、全体としてはBjörkの声と感覚でまとまっている。『Debut』で見えた方向性を、より大胆に、より多面的に押し広げた一枚と言えそうだ。

シングル曲の強さもさることながら、アルバム単位で聴いたときの流れにこそ、この作品の面白さがある。硬いビート、広い音像、急な切り替え、そして声の存在感。そのどれもが前に出るのに、どこかで必ずポップソングとしての芯に戻ってくる。1995年という時点でここまで振れ幅の大きい作品を成立させていること自体が、『Post』の大きな特徴である。

トラックリスト

  1. A1 Army Of Me
  2. A2 Hyper-ballad
  3. A3 The Modern Things
  4. A4 It's Oh So Quiet
  5. A5 Enjoy
  6. A6 You've Been Flirting Again
  7. B7 Isobel
  8. B8 Possibly Maybe
  9. B9 I Miss You
  10. B10 Cover Me
  11. B11 Headphones

動画

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