Buju Banton - 'Til Shiloh (1995)
Buju Banton 1995

Buju Banton - 'Til Shiloh (1995)

Folk, World, & Country Reggae Acoustic Roots Reggae Ballad Dancehall

Buju Banton『’Til Shiloh』──ダンスホールからルーツへ向かった1995年の転機

Buju Bantonの『’Til Shiloh』は、1995年にUSのLoose Cannonから出たアルバムで、彼のキャリアを語るうえで外せない一枚だ。ジャマイカ出身のダンスホール・ディージェイ/シンガーとして知られるBujuが、それまでの勢いのあるダンスホール路線から、より内省的で社会意識の強いルーツ・レゲエへ軸足を移した作品として位置づけられている。アルバム全体の空気も、攻撃性よりも言葉の重み、リズムの推進力よりも歌の内容に耳が向く作りになっている。

リリース元のLoose CannonはPolyGram傘下のレーベルで、短命ながら1990年代半ばのメジャー流通の中で動いていた印象がある。その中でBujuだけが後にPolyGramに残されたという事実も、この作品の存在感を示している。ジャケット表記はカナダ印刷だが、作品としてはUSリリースの1995年盤。録音は主にキングストンのPenthouse Recording Studiosで行われ、いくつかの曲だけDigital Recording Studio、Cell Block Studio、Studio 2000が使われている。制作の中心がジャマイカにあることも、音の手触りに直結しているように聞こえる。

転換点としての内容

この時期のBuju Bantonについては、前作『Voice of Jamaica』以後に身近な友人を失ったことが人生観の変化につながり、ラスタファリアンへの傾倒と、銃を賛美するような表現からの距離が生まれた、という説明がよく語られる。『’Til Shiloh』はその変化がはっきり形になった作品で、全体を通して自己省察、信仰、社会の現実といった主題が前に出る。ダンスホールの文脈にいたアーティストが、ここでルーツ・レゲエの語り口に深く入っていく流れは、同時代のレゲエの中でもかなり印象的なものだ。

特に「Untold Stories」は、このアルバムを代表する曲として扱われることが多い。静かなギターを軸に、生活の苦さや言葉になりきらない感情を積み上げていくタイプの楽曲で、Bujuの声の抑え方がよく出ている。派手なフックで押すのではなく、フレーズの間合いと語りの説得力で持っていく曲で、アルバムの核に置かれているのも納得しやすい。

収録曲と録音の輪郭

この盤では、A面・B面ともに各5曲構成だが、ジャケット上のみ「Not An Easy Road」がA6として印字されている点がある。実際のレコードは各面5曲で、曲順表記に少し注意が必要なタイトルだ。こうした細部も含めて、当時のアナログ盤らしい編集の揺れが見える。

録音場所のクレジットも興味深い。多くの曲がPenthouse Recording Studiosで録られ、A2のみDigital Recording Studio、A6の「Not An Easy Road」はCell Block Studio、B5はStudio 2000という記載になっている。キングストンの複数スタジオをまたいで作られたことから、ひとつの場所の空気だけで閉じた作品ではなく、当時のジャマイカの現場感が複数の層で入っているように見える。

1995年のレゲエの中で

『’Til Shiloh』は、1990年代のレゲエがダンスホールの加速感だけではなく、ルーツ回帰や社会的メッセージの再強化へ向かう流れの中でも語られる作品だ。Buju Banton自身が、その橋渡し役のような立ち位置にいたと見る向きは多い。後年の評価でも「代表作」「名盤」として扱われることが多く、アーティストのイメージを更新したアルバムとして定着している。

チャート面でも存在感があり、1995年8月5日付のBillboard 200で148位に初登場し、米レゲエ・アルバム・チャートでは3位でのデビューとされている。初週売上は約8,000枚と伝えられており、商業的にも一定の反応を得たことがわかる。長く聴かれたことで、のちの再評価ではさらに重要度が増したタイプの一枚といえる。

この作品の手触り

実際に聴くと、Bujuの声の使い方がかなり整理されていることがわかる。以前の鋭いディージェイ的な押し出しだけではなく、語るように置く歌い方、フレーズをためてから前に出す歌い方が目立つ。ビートの側も、ダンスホール的な即効性だけでなく、歌詞を受け止める余白を持っている。結果として、曲ごとの輪郭がはっきりしやすく、アルバム全体としても一本の流れを感じやすい。

同時代のダンスホール勢と比べると、Buju Bantonはここで明確に別の地平へ踏み出している。単にテンポを落としたというより、言葉の置き方そのものを変えた印象がある。だからこそ『’Til Shiloh』は、ダンスホールの延長線上にありながら、ルーツ・レゲエのアルバムとしても読める。ジャンルの境目をまたいだ作品として、1995年という年のジャマイカ音楽を考えるうえで外しにくい存在だ。

Buju Bantonのディスコグラフィの中でも、このアルバムはひとつの分岐点として見られている。勢いだけで走る作品ではなく、立ち止まって考える時間を音にしたような内容で、後年まで評価が続く理由もそこにあるように思える。

トラックリスト

  1. A1 Shiloh 0:18
  2. A2 Till I'm Laid To Rest 4:23
  3. A3 How Could You 3:55
  4. A4 Only Man 2:49
  5. A5 What You Gonna Do 3:43
  6. B1 Wanna Be Loved 4:04
  7. B2 Chuck It So 3:56
  8. B3 Untold Stories 4:34
  9. B4 Hush, Baby, Hush 4:20
  10. B5 It's All Over 4:04

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