Mingus - The Black Saint And The Sinner Lady (1963)
Charles Mingus『The Black Saint And The Sinner Lady』(1963)
チャールズ・ミンガスの『The Black Saint And The Sinner Lady』は、1963年にImpulse!から発表された代表作のひとつで、一般的なジャズ・アルバムというより、ひとつながりの組曲として聴こえる作品だ。演奏時間は約40分ほどだが、曲が細かく区切られながら流れていくため、短い曲を並べたアルバムとは受ける印象がかなり違う。ミンガスの作曲、編曲、バンド運営の手腕がまとまって見える盤であり、彼の作家性を知るうえで重要な位置にある。
ミンガスはベーシスト、ピアニスト、作曲家、バンドリーダーとして知られ、同時に強い社会的視点を持った音楽家でもあった。この作品では、ビッグバンド的な厚みと、室内楽のような細かな動きが同居している。Impulse!というレーベル自体も、1960年代ジャズの重要な拠点であり、ジョン・コルトレーンの作品群と並んで語られることが多い。そうした中で本作は、レーベルのカタログの中でも特に構成の緻密さが目立つ一枚として知られている。
作品の輪郭
録音は1963年1月20日。オリジナルのステレオ盤はAS-35としてリリースされ、ジャケットには「STEREO A-35」とあり、レーベル面には「AS-35-A」「AS-35-B」と表記されている。オレンジと黒のImpulse!ラベルも、この時期の同レーベルらしい視覚的な特徴だ。初期盤ではラベルのカタログ番号に末尾の表記がないものもあるとされ、のちの再発盤ではその点が修正されている。
この作品はサイドBが連続再生の形になっているのも特徴だ。曲の切れ目を意識させるというより、全体をひとつの流れとして聴かせる作りで、ミンガスが断片をつなぎながら大きな構造を作るタイプの作曲家であることがよくわかる。録音作品としては、演奏の瞬発力だけでなく、編集された構成そのものが重要な意味を持っている。
収録曲の聴きどころ
この盤でまず核になるのは、アルバム全体を貫く組曲的な流れだ。各パートは独立した小曲のようにも聴けるが、前後のつながりで意味が変わる。リズムの置き方、ユニゾンの入り方、管楽器の重ね方が頻繁に切り替わり、ミンガスらしい緊張感が続く。ベースが前面に出る場面もあるが、主役を固定しない進行で、アンサンブル全体が常に動いている印象が強い。
とくに耳に残るのは、強いアクセントで押し切るのではなく、静かな部分から急に密度を上げる場面だ。ソロが前に出ても、背景の編曲が止まらず、細かな対旋律や打楽器の動きが残るため、聴き返すたびに見える情報が増える。ライブで磨かれた素材をスタジオでまとめた作品として、即興性と設計の両方がはっきり出ている。
タイトル曲を中心に
『The Black Saint and the Sinner Lady』というタイトル曲は、本作の中心にある長尺の組曲だ。タイトル自体も印象的だが、音の作りはさらに具体的で、ジャズの編成を使いながらも、単なるソロ回しには収まらない。木管やトランペットの絡み方、リズム隊の揺らし方、短いフレーズの反復によって、場面が次々に切り替わっていく。
聴感上は、熱量の高い部分と、急に空気が引く部分の差が大きい。そこにミンガス特有の粘りのあるベースと、管楽器の鋭い入りが重なり、かなり強い推進力になる。構成が複雑でも、音の輪郭は比較的はっきりしていて、各パートの役割が追いやすいのもこの作品の特徴だ。後年の大編成ジャズや、組曲形式の作品と比べても、ミンガスの書法はかなり個性的に聞こえる。
同時代の中での位置づけ
1963年という時期は、モード・ジャズやフリー・ジャズの動きが並走していた時代でもある。その中でミンガスは、どちらにも完全には寄らず、作曲された骨格の強さと即興の自由度を両立させていた。本作は、その姿勢がもっともまとまって出た作品のひとつに見える。デューク・エリントンのような管弦楽的感覚を持ちながら、演奏の荒さや切迫感も残している点が、同時代の他の大作と比べても目立つ。
発表当時から広く大衆的なヒット作というより、音楽家や評論家の側で評価されてきた作品として扱われることが多い。今ではミンガスの代表作として定番化しており、彼の作曲家としての力量を示す盤として語られることが多い。ベーシストとしての名手ぶりだけでなく、編曲家、構成家としての顔が強く出たアルバムでもある。
再発盤について
この盤は1963年のオリジナル・ステレオ盤が基本で、その後の再発盤ではレーベル表記やカタログ番号の細部が異なる場合がある。オリジナル盤はImpulse!のオレンジ/黒ラベルが印象的で、初期プレスでは表記の違いも見られる。再発盤では表記が整理されているため、盤の見分けではラベル面の細部が手がかりになる。
『The Black Saint And The Sinner Lady』は、ミンガスの作品群の中でも、構成の緻密さと演奏の熱量が同時に立ち上がる一枚だ。録音された音の数そのものより、どう並べ、どう流すかに重心がある作品で、聴き進めるほどに設計の強さが見えてくる。1960年代ジャズの中でも、かなり特殊な位置を占めるアルバムとして知られている。
トラックリスト
- A1 Solo Dancer (Stop! And Listen, Sinner Jim Whitney!) 6:20
- A2 Duet Solo Dancers (Heart's Beat And Shades In Physical Embraces) 6:25
- A3 Group Dancers ([Soul Fusion] Freewoman And Oh This Freedom's Slave Cries) 7:00
- B1 Trio And Group Dancers (Stop! Look! And Sing Songs Of Revolutions!)
- B2 Single Solos And Group Dance (Saint And Sinner Join In Merriment On Battle Front)
- B3 Group And Solo Dance (Of Love, Pain, And Passioned Revolt, Then Farewell, My Beloved, 'til It's Freedom Day)