Bobby Hutcherson Harold Land - San Francisco (1971)
Bobby Hutcherson & Harold Land『San Francisco』について
1971年にBlue Noteから登場した『San Francisco』は、ヴィブラフォン奏者Bobby Hutchersonとテナー・サックス奏者Harold Landを軸にした作品だ。録音は1970年7月15日、ロサンゼルスのUnited Artists Studiosで行われている。タイトルはサンフランシスコだが、制作の現場は西海岸のロサンゼルスで、作品全体もその土地の空気を色濃くまとっている。Blue Noteの1970年前後といえば、ハード・バップの語法を土台にしながら、ソウル・ジャズやジャズ・ファンク、さらにフュージョンへと接続していく時期。このアルバムも、その流れの中に置いて見ると輪郭がつかみやすい。
Bobby Hutchersonは1941年生まれ、2016年に亡くなったアメリカのジャズ・ヴィブラフォン/マリンバ奏者。Blue Noteでは60年代から重要作を重ねてきた人物で、この『San Francisco』は、そうした流れの延長線上にありながら、よりリズムの明快さや電気的な手触りを意識した時代性も感じさせる。Harold Landは硬質な音色で知られるテナー奏者で、ここではHutchersonとの組み合わせが大きな軸になっている。両者のやり取りが作品の骨格を作っていて、単なるリーダー作というより、対話の記録として聴こえる場面が多い。
アルバムの位置づけ
この時期のBlue Noteは、60年代に築いたモダン・ジャズの信頼感を保ちながら、より新しいグルーヴへ寄っていった。『San Francisco』もその中で、従来のジャズの緊張感を残しつつ、ファンク寄りのビートや、後のフュージョンにつながる開放感を含んでいる。Hutchersonの作品群の中でも、60年代の抽象性や内省だけでなく、リズムの推進力が前に出る一枚として位置づけられそうだ。Harold Landとの共演という点でも、メロディと即興のバランスが明確で、両者の持ち味がぶつかりすぎずに並ぶ構図になっている。
同時代の文脈で見ると、同じBlue Noteの中でも、よりソウルフルな方向へ進んだ作品群や、実験性を強めた作品群と並べて語られることが多いタイプだろう。ローカルな西海岸ジャズの感触、ハード・バップの語法、そして当時のファンクの要素が一枚の中で共存しているのがポイントになる。
収録曲の聴きどころ
このアルバムでまず耳を引くのは、タイトル曲の「San Francisco」だ。曲名そのものが作品の顔になっていて、アルバム全体の輪郭を示す役割も担っている。Hutchersonのヴィブラフォンは、音の立ち上がりがはっきりしていて、そこにLandのテナーが重なると、メロディの線がくっきり見えてくる。リズム隊が前へ押し出す感触もあり、ブルーノートらしい整った録音の中で、70年代初頭の空気が比較的はっきり伝わってくる。
この曲の面白さは、派手な展開よりも、フレーズ同士の受け渡しにある。Hutchersonが音の隙間を使って進めるのに対し、Landは音量と息の圧で場面を引き締める。対照的な2人の声が同じフレームに収まることで、曲全体に独特の張りが生まれている。いかにも“名演”と断言するより、演奏の組み立てそのものを味わうタイプの曲だと感じる人は多そうだ。
もう一つの注目点は、アルバム内でのグルーヴの扱いだ。『San Francisco』は、ただ速く走るのではなく、ビートの重心を少し低めに置きながら進む。そこでHutchersonの音が浮きすぎず、Landのフレーズも地に足がついたまま展開する。ソウル・ジャズやジャズ・ファンクの要素が入っていても、安易に踊らせる方向には振れていない。そのあたりが、同時代のフュージョン作品と単純に同列に置けないところでもある。
Blue Note 1971年盤としての意味
1971年のBlue Noteは、いわゆる黄金期のハード・バップだけでは語れない。『San Francisco』はその移行期を示す1枚で、伝統的なジャズの語法を保ちながら、当時の新しいリズム感覚を取り込んでいる。オリジナル盤としての1971年リリースという点でも、後年の再評価盤としてではなく、当時の空気をそのままパッケージした作品として見ておきたいところだ。
Bobby Hutchersonのディスコグラフィーの中では、ヴィブラフォンという楽器の持つ透明感を保ちつつ、より実地のグルーヴへ踏み込んだ作品として記憶されやすい。Harold Landとの共演も含めて、個々のソロだけでなく、バンド全体の流れで聴くとまとまりが見えやすい一枚だ。Blue Noteの70年代初頭を追ううえでも、押さえておきたいタイトルと言えそうだ。
トラックリスト
- A1 Goin' Down South 7:05
- A2 Prints Tie 7:24
- A3 Jazz 5:18
- B1 Ummh 7:42
- B2 Procession 5:40
- B3 A Night In Barcelona 7:20