Marc Almond With The Willing Sinners - Mother Fist And Her Five Daughters (1987)
Marc Almond 1987

Marc Almond With The Willing Sinners - Mother Fist And Her Five Daughters (1987)

Electronic Rock Synth-pop Lounge

Marc Almond With The Willing Sinners『Mother Fist And Her Five Daughters』(1987)

ソフト・セル解散後のマーク・アーモンドが、The Willing Sinnersを従えて発表した1987年作。『Mother Fist And Her Five Daughters』は、彼のソロ期の中でも、作家性が前面に出たアルバムとして知られている。UK盤はVirginからのリリースで、品番はFAITH 2。盤のラベルは当時のVirginらしいグレイ系デザインで、80年代後半の同レーベルの流れの中に置かれている。

作品の位置づけ

このアルバムは、マーク・アーモンドにとって第三のスタジオ・アルバムにあたる。ソフト・セル時代のシンセポップの印象が強い人にとっては、かなり違う表情を見せる一枚で、打ち込み中心の冷たい質感だけで押す作品ではない。キャバレー、シャンソン、演劇的な歌唱、物語性のある構成が前に出ていて、The Willing Sinnersの編成がその輪郭を支えている。

アルバム・タイトルはトルーマン・カポーティの短編「Nocturnal Turnings or How Siamese Twins Have Sex」から採られており、本人の敬意も添えられている。こうした由来も含めて、作品全体に文学的な参照と舞台的な感触がある。

サウンドと制作

録音は1986年夏、ロンドンのMilo Studiosで行われ、ミックスとオーバーダブはAbbey Roadで実施された。クレジット上でも、MiloとAbbey Roadの両方でエンジニアリングされたことが明記されている。BASF 911で録音・マスタリングされた点も記されており、制作の手触りがはっきり残る。

聴感上は、シンセポップの枠に収まりきらない編成が印象に残る。アコーディオンや管楽器の響きが前に出る場面もあり、一般的な80年代英ポップの整ったビート感より、室内楽的なまとまりや、少し古風な舞台音楽に近い運びが目立つ。タイトル曲には海の歌を思わせる要素があり、アルバム全体でも海、旅、夜、演劇といったモチーフが連なっている。

収録曲と聴きどころ

この盤では、A3とA4、A5とA6、B3とB4がそれぞれ連続してつながっている。曲間を切らずに組み立てることで、単独曲の寄せ集めよりも、ひとつの流れとして聴かせる構成になっている。こうした作りは、ソング集というより小さな舞台作品に近い印象を与える。

先行シングルの「Mother Fist」は、UKシングル・チャートで93位。大きなヒットではないが、アルバムの方向性を示す曲としては重要な位置にある。チャート面ではアルバムはUKで最高41位、2週のチャートインを記録している。商業的には大規模な成功作ではないものの、アーモンドのキャリアの中では、ソロ表現を押し出した時期のまとまった成果として見られている。

同時代の文脈

1987年の英国ポップには、シンセポップの流れを引きつつも、より歌謡性や劇場性を強める動きがいくつもあった。マーク・アーモンドのこの時期の作品は、その中でもかなり個性が強い部類に入る。派手なクラブ志向よりも、歌い手としての表現、編曲の細部、言葉の運びが重視されていて、同時代の一般的なヒット曲群とは距離がある。

制作や編曲の面で支えたThe Willing Sinners、とくにMartin McCarrickの存在は大きい。弦やアコーディオンを含むアレンジの感触が、アルバムの輪郭を決めている。ソフト・セルの延長線というより、アーモンドがソロで自分の語り口を組み直した時期の記録として受け取られている。

UK盤の仕様

このUKオリジナル盤には、カラー印刷のインナー・スリーブが付属し、写真とクレジットが収録されている。さらに、別紙の白黒歌詞シートも同封されている。盤面のランアウトはスタンプ打ちで、当時のVirgin UK盤らしい仕様が確認できる。

Virginのレーベル面では、1987年以降に使われたグレイ・ホワイト系デザインの時期に入っており、80年代後半のVirginの見た目とも一致する。制作年と盤の年が同じなので、後年の再発盤ではなく、作品が最初に世に出た時点の空気がそのまま入った一枚として捉えやすい。

まとめ

『Mother Fist And Her Five Daughters』は、マーク・アーモンドがソロ・アーティストとして、歌、物語、舞台性を強く押し出したアルバム。ソフト・セルのイメージだけでは拾いきれない、より広い表現の幅が見える作品でもある。華やかなヒット作というより、作り込みの細かさと、曲同士のつながりで聴かせるタイプの一枚。1987年の英国ポップの中でも、かなり独自の場所に置けるアルバムである。

トラックリスト

  1. A1 Mother Fist 4:27
  2. A2 There Is A Bed 4:50
  3. A3 Saint Judy 5:53
  4. A4 The Room Below 3:30
  5. A5 Angel In Her Kiss 3:40
  6. A6 The Hustler 3:17
  7. B1 Melancholy Rose 3:09
  8. B2 Mr. Sad 3:48
  9. B3 The Sea Says 4:03
  10. B4 Champ 4:23
  11. B5 Ruby Red 3:40
  12. B6 The River 5:13

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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