Vinyl Record Reviews
Alpha IIIは、ブラジルのマルチ・インストゥルメンタリスト、作曲家であるAmyr Cantusio Jr.による、プログレッシヴ・ロック/エレクトロニック系のインストゥルメンタル・プロジェクトだ。グループ名としてもソロ名義としても扱われ、基本的にはCantusio Jr.が中心になって制作を進めている。
ウェブ上の情報によると、Amyr Cantusio Jr.は1957年にサンパウロ州カンピーナスで生まれ、5歳でピアノとヴァイオリンを学び始めた。Alpha IIIでは、シンセサイザー、ピアノ、オルガン、ベース、ドラムス、ヴォーカルまで本人が担当することが多く、ほぼ一人で作品を組み立てる制作体制が特徴になっている。
そのため、バンドというよりも、作曲、演奏、録音の各工程を一人で進めるワンマン・バンド的なプロジェクトとして見られている。電子キーボードを軸にしながら、ロック寄りの構成や展開を組み合わせる作風が目立つ。
Alpha IIIの音楽は、エレクトロニクスとプログレッシヴ・ロックのあいだを行き来するインストゥルメンタル作品として整理できる。シンセサイザーやオルガンの比重が大きく、そこにピアノやベース、ドラムスが加わる形で曲が進む。
初期作『Spectro』は1974年に録音された作品として知られ、ファーフィサのシンセサイザーやオルガンを使い、オーバーダビングなしでライヴ録音されたとされる。録音方法の面でも、当時の機材と演奏をそのまま記録する姿勢が見える。
1983年には『Mar de Cristal』を発表し、その後の1980年代には『Sombras』『Agartha』『Ruínas Circulares』『The Aleph』『Temple of Delphos』『The Seven Spheres』などのLPを制作した。これらは厳しい条件のなかで作られた作品とされるが、ヤマハのデモンストレーターを務めていたこともあり、同社の協力で新しい機材を使えたことが録音を支えたという。
CDでも多くの作品を発表しており、その多くがヨーロッパでもリリースされた。LP中心の時期からCD時代まで、継続して作品を出してきた流れがある。
代表作としてよく挙げられるのが『The Aleph』だ。この作品は、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの同名作品に着想を得たものとされ、1986年に作曲されたという情報がある。
文学作品を題材にした構成は、プログレッシヴ・ロックの文脈ともつながっている。Alpha IIIでは、こうした外部のテーマを、シンセサイザー主体のインストゥルメンタルで組み立てている点が目立つ。
Amyr Cantusio Jr.は、音楽活動と並行して精神分析家としても活動していると伝えられている。Alpha IIIの作品は、そうした複数の背景を持つ人物が、演奏と作曲を自分で担いながら進めてきたプロジェクトとして見ると整理しやすい。
また、Cantusio Jr.は「ブラジルのマイク・オールドフィールド」と呼ばれることがある。これは、マルチ・インストゥルメンタリストとして一人で多くのパートを重ねる制作スタイルや、プログレッシヴ・ロック寄りの長尺構成が意識されているためだろう。
Alpha IIIは、ブラジルの音楽シーンのなかでも、電子楽器とプログレッシヴ・ロックの要素を長く追ってきたプロジェクトとして追いやすい。作品ごとに制作環境は違っても、中心にあるのはAmyr Cantusio Jr.の演奏と作曲だ。そういう見方で聴くと、各アルバムの機材の音や構成の変化も追いやすい。