Alpha III - Agartha (1986)
Alpha III『Agartha』(1986)について
Alpha III 名義の『Agartha』は、ブラジルのミュージシャン、アミール・カントゥジオ Jr. による1986年作。電子音楽とロックのあいだを行き来するインストゥルメンタル作品で、ひとりで作曲、編曲、演奏、プロデュースまでまとめ上げたソロ・プロジェクトとして知られている。ブラジル盤らしいローカルな流通の中で生まれた作品ながら、内容はかなり個人的で、同時に機材の使い方がはっきり見える作りになっている。
この作品の核にあるのは、Farfisaオルガン、ベース、ベース・ペダル、Yamaha Poly-PSR/70、Yamaha CS-30 L、Moogシンセサイザー、Elka Strings、パーカッション、そしてシンセのプログラミング。クレジットを見るだけでも、当時の電子楽器を中心に、自分の手で音を積み重ねたことが伝わってくる。録音は自宅環境で進められたと紹介されており、整ったスタジオ作品というより、機材と発想をそのまま音にした記録として聴こえる。
作品の輪郭
『Agartha』は、派手な展開で押すタイプのプログ・ロックではなく、電子音の層やオルガンの持続、ベースのうねりで場面を作っていく印象が強い。旋律を前面に出す場面もあるが、全体としては曲の流れよりも音色の変化が耳に残る。神秘的、幻想的と紹介されることが多いのも納得で、リズムで引っ張るというより、音の配置そのものに重心が置かれている。
実際に聴くと、Farfisaの乾いた響きとシンセの滑らかな音色が対照的で、そこに電子パーカッションが加わることで、1980年代半ばの機材感が前に出てくる。音数は多いが、やたらと密になりすぎず、各パートが独立して鳴っているのも特徴。ベースやベース・ペダルが低域を支え、上ではオルガンとシンセがゆっくり表情を変える構図で、手触りのある電子インストとしてまとまっている。
アミール・カントゥジオ Jr. の作品として
Alpha III は、アミール・カントゥジオ Jr. のグループ/ソロ双方にまたがる多重録音的なプロジェクトのひとつとして位置づけられている。本人が複数の鍵盤や電子機材を扱い、演奏の組み立てまで担っているため、バンド作品というより作家性の強いアルバムに近い。ブラジルのプログレ、電子音楽、インストゥルメンタル作品の文脈の中でも、かなり個人の感覚が前に出た部類に入る。
同時代のブラジルでは、プログレ寄りのロックやシンセ主体の作品が各地で生まれていたが、『Agartha』はそうした流れの中でも、より小規模で私的な制作の匂いが強い。大編成でのドラマを押し出すタイプとは異なり、限られた機材を使いながら音の密度を作る方向に振れている。ブラジル産のオブスキュア盤として後年見直されたのも、この独特の作り方が理由のひとつに見える。
リリースとレーベル
1986年にブラジルのFaunusから出た盤で、Faunusはサンパウロの「Galeria do Rock」近くでレコード店を営む人物のレーベルとして知られている。こうした背景もあって、商業流通の中心というより、店とレーベルが近い距離で機能していた時代のブラジル盤らしさがある。広くヒットした記録よりも、のちにコレクターや再発レーベルの文脈で再評価された性格が強い。
再発盤ではなく1986年のオリジナル盤として見た場合、価値は楽曲の知名度よりも、アミール本人の機材運用と制作姿勢にある。インサートには歌詞が付属していたという記録もあり、インスト主体でありながら、作品としてのまとまりを意識して作られていたことがうかがえる。曲単位の代表作を語るより、アルバム全体の流れで聴くほうがこの盤の性格はつかみやすい。
まとめ
『Agartha』は、ブラジルのシンセ奏者による個人制作のプログ・インスト作品として、音色の選び方と構成の作り方に個性が出た一枚。派手な売り方をされた作品ではないが、Farfisa、Moog、Yamaha機材を軸にした手作りの電子音楽として、1980年代ブラジルのオブスキュア盤の中でも印象が残る。アミール・カントゥジオ Jr. の制作感覚がそのまま記録されたアルバム、という見方がしっくりくる。
トラックリスト
- A1 Sanctuarius
- A2 Sakhra
- A3 Sothis
- B1 Tokyo
- B2 Agartha
- B3 Lamenth
- B4 Luxor
- B5 Hiper Boreus