Vinyl Record Reviews
Canは、1968年ごろに西ドイツ・ケルンで結成された実験的ロック・バンドだ。もともとは「Inner Space」という名前で始まり、アメリカ人ヴォーカリストのマルコム・ムーニーを迎えた時期に「The Can」と名乗るようになった。その後、日本人ヴォーカリストのダモ鈴木が加わり、グループの音は大きく変化した。
中心メンバーは、キーボードのイルミン・シュミット、ベースのホルガー・チューカイ、ドラムのヤキ・リーベツァイト、ギターのミヒャエル・カローリだ。ほかにもダビッド・ジョンソン、ロスコ・ジー、レブ・クワク・バア、マイケル・カズンズ、タイガ・ラージ・ラジャ・ラトナムなど、時期によってメンバーが入れ替わっている。
Canはクラウトロックを代表するバンドとして知られている。とくにダモ鈴木が在籍した時期には、「即興、ノイズ、マントラ、ファンク・リズムの狂気じみた混合」と評されるサウンドを作り上げた。ロックの基本的な編成を使いながら、演奏の展開や音の扱い方をかなり自由に広げていった点が特徴だ。
バンドの大きな要素として語られるのが、ヤキ・リーベツァイトのドラムだ。機械的なまでに正確な反復を続ける「モトリック・ビート」は、Canの音楽を支える重要な要素になった。一定の拍を保ちながら進むこのリズムは、Canの曲の推進力を作っている。
1971年の『Tago Mago』は、Canの代表作としてよく挙げられる。モトリック・ビートを軸に、即興演奏とスタジオ編集を組み合わせた内容で、実験性の強い作品として評価されている。ほかにも、長い活動の中で多くの録音を残しており、未発表音源をまとめた『The Lost Tapes』は2012年に出ている。
1976年には、ポップ・パロディ的なシングル「I Want More」が国際的なヒットになった。Canの作品の中でも、比較的ポップな側面が見える曲として知られている。
1986年には主要メンバーで再結成が行われ、1989年に『Rite Time』を発表した。その後も、メンバー個々の活動や別プロジェクトが続いている。ホルガー・チューカイが最初にソロ活動へ進み、解散後はイルミン・シュミットもソロで活動した。
Canは映画音楽も手がけている。ローラント・クリックやヴィム・ヴェンダースらの監督作品に音楽を提供しており、バンドの活動がロックの枠に収まっていなかったことがわかる。演奏中心のバンドでありながら、映像作品との接点も持っていた。
Canの影響は広い。モトリック・ビートは、ジョイ・ディヴィジョン、ウルトラヴォックス、デヴィッド・ボウイ、ソニック・ユースなどに影響を与えたとされている。さらに、パブリック・イメージ・リミテッド、トーク・トーク、ジーザス&メリーチェイン、レディオヘッドといったポストパンク以降のバンドにも波及したとされる。
また、同時代のクラウトロック勢であるクラフトワークらと並んで、後のテクノやヒップホップ、エレクトロの源流のひとつとして語られている。ロックのバンドでありながら、反復リズムや編集の発想がその後の電子音楽にもつながっていった形だ。
2003年には、ドイツ音楽業界のエコー賞で生涯功労賞を受賞している。長い活動のあとも評価が続いているバンドで、今も未発表音源やライヴ音源が注目されている。Canの録音資料は多く残っており、それらが後年に再発見されることで、バンドの活動の広がりが改めて見えてくる。
Canは、ロックバンドとして始まりながら、即興、反復、編集、ノイズ、ファンクを組み合わせて独自の音を作ったグループだ。クラウトロックを知るうえで外せない存在として、今も名前が挙がり続けている。