Vinyl Record Reviews
Henry Cowは、1968年にケンブリッジ大学でFred FrithとTim Hodgkinsonが結成した、イギリスのアヴァンギャルド/アート・ロック・グループだ。ジャンル表記ではRockやJazzに入れられることが多いが、実際にはロックの編成を使いながら、即興や複雑な構成をかなり強く取り込んでいる。
バンドの核になったのは、Frith、Hodgkinson、ドラマーのChris Cutler、ベーシストのJohn Greavesの4人だ。1974年にはファゴット/オーボエ奏者のLindsay Cooperと、ヴォーカルのDagmar Krauseが加わり、編成の幅がさらに広がった。1976年にはGeorgie BornがGreavesに代わってベースを担当している。
名前の由来については、作曲家Henry Cowellから取ったと考えられることもあるが、Hodgkinsonによれば特別な由来はなく、当時「漂っていた」名前だったという。
1973年5月にVirgin Recordsと契約し、同年9月に『Leg End』、1974年5月に『Unrest』を発表した。続いて、Slapp Happyとの共同名義で『Desperate Straights』(1975年3月)と『In Praise of Learning』(1975年5月)をリリースしている。1975年にはRobert Wyattとツアーも行った。
ただし、商業性より芸術性を優先する姿勢が強く、Virginとの関係は次第に悪化し、契約は打ち切られた。その後は大陸ヨーロッパで支持を得て、ライヴ盤『Concerts』(1976年)を経て、解散後に『Western Culture』(1979年)が発表されている。
Henry Cowの音楽は、ロックの基本編成に、ジャズ寄りの即興、変則的な展開、室内楽的な楽器編成を組み合わせたものとして整理しやすい。ギター、ベース、ドラムだけで押し切るタイプではなく、フルートやファゴット、オーボエ、ヴォーカルを含めた音の組み立てが目立つ。
特にLindsay Cooperの木管、Dagmar Krauseの歌、FrithとHodgkinsonの多楽器演奏は、このバンドの性格をはっきりさせている。曲の流れは単純なコード進行中心ではなく、断片的なフレーズやリズムの切り替えを積み重ねる場面が多い。
Henry Cowの活動で重要なのが、1978年3月12日にロンドンのNew London Theatreで主催した「Rock in Opposition」(RIO) フェスティバルだ。ヨーロッパ大陸の4グループを招き、「レコード会社があなたに聴かせたくない音楽」というスローガンを掲げたイベントとして知られている。
この動きは、当時の商業的なロック市場とは別の流通や制作のあり方を示すものだった。後にChris CutlerはNick Hobbesとともに独立系レーベルRecommended Recordsを設立し、RIO系の音楽の拠点にしている。
Henry Cowは1978年に解散したが、メンバーの活動は続いた。Cutler、Frith、KrauseはArt Bearsを結成している。グループは「商品としての名前としては終わるが、その仕事は続く」と述べており、バンド名が消えても周辺の音楽活動は続いていった。
まずは『Leg End』『Unrest』『Concerts』あたりから追うと、Henry Cowの音楽の輪郭がつかみやすい。Slapp Happyとの共作『Desperate Straights』『In Praise of Learning』も、バンドの別の側面を見る手がかりになる。
Henry Cowは短命だったが、活動の中身はかなり濃い。アヴァンギャルド・ロックやRIO周辺をたどるとき、外せない名前として扱われることが多い。