Henry Cow - In Praise Of Learning (1975)
Henry Cow『In Praise Of Learning』について
Henry Cowの『In Praise Of Learning』は、1975年に発表された実験性の強い作品で、英国のアヴァンギャルド/アート・ロックの流れを語るうえで外せない一枚だ。バンドの中心にいたFred Frith、Tim Hodgkinson、Chris Cutlerを軸に、John Greaves、Lindsay Cooper、Dagmar Krauseらが関わった時期の作品で、Henry Cowの持っていた硬質な演奏感と、歌を含む構成意識が同じ盤の中でぶつかり合っている。
この日本盤は1979年リリース、VirginのVIP-4049。オリジナルの1975年盤から数えて4年後の盤で、帯とインサート、日本語解説付きという日本盤らしい仕様になっている。Virginの日本盤は当時の輸入盤とは雰囲気がかなり違い、国内盤としての体裁が整えられている点も特徴だ。
作品の背景
『In Praise Of Learning』は、Henry CowとSlapp Happyの合流と分裂が絡む時期の作品として知られている。制作前後にはPeter BlegvadとAnthony Mooreが離れ、Dagmar KrauseだけがHenry Cowに残る形になったことが伝えられている。つまり本作は、単なる共同制作盤ではなく、バンド編成の変化そのものが刻まれた記録でもある。
当時の英国の音楽紙では、商業的なヒット性よりも、構成の複雑さ、思想性、演奏の緊張感が主な話題になっていた。NMEやMelody Makerで好意的に受け止められたという後年の集計もあり、難解さを欠点としてではなく、作品の核として扱われていたのがこの時代らしい。
聴きどころ
この作品の面白さは、演奏の密度が高いのに、感情の置き場がすんなり決まらないところにある。リズムは簡単に流れず、フレーズはぶつかり合い、歌が入る場面でも安心して耳を預けられる瞬間が少ない。その一方で、ただ混乱しているわけではなく、音の配置には明確な意図がある。聴き進めるほど、各パートが別々の方向を向きながらも全体として一本の線を作っているのが見えてくる。
Dagmar Krauseの歌声は、この作品の中で重要な役割を担う。ロック的な歌唱の流れに収まらず、言葉の切れ方や音の置き方そのものが、楽器群と同じ強さで前に出る。Henry Cowの演奏も、フリージャズ的な逸脱だけに寄らず、組曲的な構成の中で緻密に動いている。結果として、ロック、室内楽、即興の境目がかなり曖昧なまま進む。
当時の文脈
1970年代半ばの英国では、King CrimsonやSoft Machine以降の実験的ロックが分岐していく時期だった。そこにHenry Cowは、単なる技巧派バンドではなく、政治性や社会への視線も含んだ集団として現れている。Chris Cutlerが後に関わるArs NovaやArt Bearsの方向性を考えると、本作はその前段階としても重要だ。音の作り方だけでなく、バンドのあり方そのものを問い直していた時期の記録として聴ける。
同時代の比較対象としては、CanやUnivers Zeroのような、構造の強さと不穏さを両立させるバンドが思い浮かぶ。ただしHenry Cowは、いわゆるジャズ・ロックの流麗さよりも、断片の衝突や緊張の持続に重心がある。そこが他の実験系バンドと少し違う。
日本盤について
1979年の日本盤は、1975年オリジナルの空気をそのまま運んでくるというより、当時の日本の輸入盤市場の中で受け止められた形の一枚だ。Virginの日本盤らしく、オビと解説が付くことで、英国の前衛ロックを国内リスナーが手に取りやすい形に整えられている。盤そのものはオリジナルの初出時期とは異なるが、作品の内容は1975年当時のHenry Cowの緊張感をそのまま伝えている。
まとめ
『In Praise Of Learning』は、Henry Cowの中でも、バンドの政治性、構成意識、即興性、そして歌の扱いが一度に表れる作品だ。聴感上は簡単にまとまらないが、そのまとまらなさ自体がこの盤の性格になっている。1970年代英国の実験ロックを追ううえで、かなり中心に近い位置にあるアルバムだ。
トラックリスト
- A1 War 2:25
- A2 Living In The Heart Of The Beast 16:10
- B1 Beginning: The Long March 5:58
- B2 Beautiful As The Moon- Terrible As An Army With Banners 7:01
- B3 Morning Star 6:05