Vinyl Record Reviews
Herb Alpertは、1935年3月31日生まれ、ロサンゼルス出身のトランペット奏者、ボーカリスト、作曲家、バンドリーダー、プロデューサーだ。ジャズ、ファンク/ソウルを軸にしながら、ジャズ・ファンクやスムース・ジャズの文脈でも語られることが多い。演奏だけでなく、レーベル運営や美術活動、財団を通じた支援まで手がけている人物でもある。
1962年、ジェリー・モスとともにA&M Recordsを設立した。自宅のガレージで始めたレーベルが、その後、The Carpenters、Cat Stevens、The Police、Stingなどを擁する大きな独立系レーベルへ育っていく。1989年にはPolyGramへ売却された。
同じ1962年には、自身のガレージで制作した「The Lonely Bull」がヒットし、Tijuana Brass名義の活動が本格化した。このあたりから、Herb Alpertの名前は演奏家としてだけでなく、ヒットメイカーとしても広く知られるようになる。
1965年のアルバム『Whipped Cream & Other Delights』に収録された「A Taste of Honey」は、Billboard Hot 100で7位、イージーリスニング・チャートで5週連続1位を記録した。1966年のグラミー賞では最優秀レコード賞を含む複数部門を受賞している。
ほかにも「Spanish Flea」「Tijuana Taxi」などが代表曲として挙げられる。これらの楽曲では、トランペットを中心にした明快なメロディと、軽快なリズムが前に出ている。
1968年には歌手として「This Guy's in Love with You」でBillboard Hot 100の1位を獲得した。さらに1979年にはインストゥルメンタル曲「Rise」でも同チャート1位を記録している。ボーカリストとしてもインストゥルメンタリストとしてもHot 100の1位を獲得したミュージシャンとして、Herb Alpertはかなり珍しい存在だ。
1966年、Tijuana Brassは全米で最も売れたミュージシャンとなった。同年4月には、ビルボードのアルバムチャートTOP10に4枚のアルバムが同時に入るという記録も残している。この記録は今も破られていない。
当時のアルバムが複数同時に売れていたことからも、Herb Alpertの作品がかなり広い層に届いていたことがわかる。ジャズの演奏家としてだけでなく、ポップスのヒットメーカーとしても強い存在感があった。
Herb Alpertの音楽は、ジャズを土台にしながら、ファンクやソウルの要素を取り込んでいる。Tijuana Brass期の楽曲では、トランペットの音色が前面に出て、メロディのわかりやすさがある。そこにラテン風のリズム感や、軽やかな編曲が加わる。
後年の「Rise」では、より洗練されたインストゥルメンタルの方向に進み、ジャズ・ファンクやスムース・ジャズの文脈で受け取られることが多い。派手に技巧を見せるというより、曲全体の流れをきれいに組み立てるタイプの作り方が目立つ。
グラミー賞は生涯で8回受賞している。2006年には、Lifetime Achievementとしてロックの殿堂入りも果たした。演奏、作曲、プロデュース、レーベル運営まで含めた活動が評価された形だ。
また、音楽史の中では、1960年代のポップ市場で大きな商業的成功を収めた人物としても扱われる。Tijuana BrassのヒットやA&M Recordsの成長を見ると、Herb Alpertは一人の演奏家にとどまらず、当時の音楽ビジネスにも深く関わっていたことがわかる。
Herb Alpertは音楽活動だけでなく、抽象表現主義の画家、彫刻家としても活動している。ロサンゼルスやニューヨーク、シカゴのフィールド博物館などに、大型ブロンズ彫刻「Totem」シリーズを恒久設置している。
また、妻でグラミー受賞歌手のラニ・ホールとHerb Alpert Foundationを設立し、芸術教育を中心に助成を行っている。UCLA音楽学部やCalArtsなどへの寄付も続けている。
Herb Alpertは、ジャズの演奏家として出発しながら、ヒット曲、レーベル運営、美術活動、教育支援まで幅広く手がけてきた。作品を追うと、60年代のポップチャートを賑わせた時期から、後年のインストゥルメンタル作品、さらに社会貢献まで、活動の幅がかなり広いことが見えてくる。